賃貸借契約についての注意点

第1 はじめに

賃貸借契約は、「当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせること」と、「相手方がこれに対してその賃料を支払うこと」を内容とする契約です(民法601条)。言い換えれば、前者がある物を貸して使わせること、後者が賃料(レンタル料)を支払うことを指します。条文の文言から、この2点が賃貸借契約の根幹をなすものであることは明らかです。したがって、契約書作成にあたっては、①何を貸し付けるのか②賃料としていくら支払うのか、という2点に関する記載に注意する必要があります。

また「貸す」という言葉は、ある時点で渡した物を返してもらうことも当然予定しています。したがって、③いついかなる場合に物を返してもらうのか、という点に関する事項も賃貸借契約の根幹をなすものであり、契約書作成上注意すべき事項だとされています。

なお賃貸借契約というのは、一定期間継続して借主がその物を使用し、賃料を貸主に支払うことを予定しています。契約関係(権利義務関係)が一定期間継続するということは、そこに一種の信頼関係が生まれることを意味します。賃貸借契約は、「信頼関係に基づく継続的契約である」という性質が、契約内容を決める上で大変重要な意味を持ちますので、契約書作成にあたってはそのことを念頭に置いて検討すると良いでしょう。

第2 賃貸借契約の契約条項

1 賃貸の利用に関すること

(1) 記載が必要な事項

契約書には、何を賃貸借契約の目的物にするのかを特定するに足りる事項を記載しなければいけません。不動産であれば、所在、地番・家屋番号、面積などの登記記載事項で、動産であれば品名、型式・年式、カタログ番号などで特定することができます。

また、賃貸借契約は、借主が賃貸目的物を使用することができてはじめて意味のあるものだとも言えます。契約した日から借主が賃貸目的物を使用できる場合には特に問題ありませんが、そうでない場合には借主としてはいつから賃貸目的物を使用できるのか気になるところです。したがって、賃貸目的物をいつ借主に引き渡すのかの記載も必要になります。

(2) 賃貸借の目的・用途に関する事項

①目的・用途を明確にする

賃貸借契約においては、その目的物をどのような目的・用途で賃貸するのか、という点も大変重要になります。なぜならば、何をどのような目的・用途で賃貸するのかによって、適用される法律に違いがあるからです。例えば、土地の賃貸借の場合、土地上に建物を建てること(建物の所有)を目的とするときは借地借家法、農耕地とすることを目的とするときは農地法という特別な法律が、民法の規定に優先して適用されます。そして、適用される法律によって、規制の態様が異なります。したがって、賃貸借契約の契約書を作成する際は、「・・・を目的として、○○を賃貸する。」「・・・のために、○○を借り受ける。」と言った形式で、目的物とあわせて賃貸借契約の目的・用途も記載するようにしましょう。

②目的・用途の定めを遵守させる

契約書に書いたからといって安心できるわけではありません。なぜならば、当事者の認識の違いやその後の事情の変化によって、当初貸主が想定していた目的・用途から外れてしまうことがあるからです。例えば、契約書に「駐車場として使用する」ことを目的として記載した賃貸借契約を締結したケースを想定してみましょう。このとき、借主が勝手に頑丈な車庫を建てることは契約書記載の目的に反するものではないですが、貸主が想定していた用途とは違うということもあります。さらにその車庫が、人が居住できるような立派な車庫だった場合には、後で裁判になったときに「建物所有目的だった。」と異なる目的で認定されることもあります。

このような貸主の想定を超えた事態を避けるためにも、賃貸借の目的・用途をできる限り具体的に確認するとともに、当該目的・用途を達成するために必要な細かいルールも契約書に記載しておくといいでしょう。実務では、下記のような賃貸人に確認をしない用途を制限したり、賃貸人や周囲の住民に迷惑をかけるような行為を禁止したりするものが多いようです。
<目的・用途に関するルールの具体例>
・賃貸目的物の無断転貸、賃借権の無断譲渡の禁止
・無断での増築、改築、移転、改造などの禁止
・賃貸目的物の価値を下げるような行為、原状回復が困難になる行為の禁止
(土壌汚染など)
・第三者に害悪を生じさせるような賃貸目的物の使用の禁止
(騒音、振動、悪臭などを伴う使用など)
・反社会的勢力との関与や犯罪行為のための供与の禁止

(3) 費用負担について

物は、使用すれば使用するほど、時間が経過すれば経過するほど、摩耗していくものです。そうすると、当然賃貸目的物を修繕する必要性が出てきます。したがって、賃貸目的物の修繕を誰が行い、また費用を負担するのかについて、契約書に記載しておくといいでしょう。

民法の規定によれば、賃貸目的物の修繕は貸主が行い(民法606条1項)、仮に借主が行った場合には貸主に償還請求することができるとされています(民法608条1項)。これに反して、貸主が一定の範囲の修繕費用を借主に負担させる契約も許されると解されています。例えば、障子や電球など軽微な修繕や、借主の故意又は過失によって特に必要となった修繕などが挙げられます。

第3 賃料の支払いに関すること

1.賃料の額について

借主が、貸主に賃料を払うことは賃貸借契約の根幹をなすものですから、賃料をいくらにするのかに関する記載は必ず必要になります。例えば、「賃料は、月額○万円とする」といった記載です。

なお経済事情や公租公課が変動して、賃料の額が不相当に低額または高額になることがあります。賃貸借契約は一定期間継続することが予定されていますから、不相当な賃料のまま契約が継続すると、一方当事者にとって不利益になります。したがって、当事者での交渉を要件にするなどして賃料を増額または減額できることを定めた契約条項を定めておくといいでしょう。

2.賃料の支払方法について

民法の規定によれば、賃料は月末後払いに支払うことになっています(民法614条)。もっとも、当事者がこれと異なる方法を望むのであれば、これと異なる賃料の支払方法にすることも可能です。実務では、「月末に翌月分の賃料を指定口座に振り込む」という方法が一般的のようです。

3.敷金その他

現代社会において賃料とは別に、「敷金」「礼金」「保証金」と呼ばれるものが支払われることがあります。敷金とは、万が一借主が負担すべき賃料・修繕費用を支払わない場合に備えて、あらかじめ交付してもらういわば“預り金”です。「保証金」も概ね同じ意味で使われています。あくまで預り金ですので、賃貸借契約が終了すれば、未払いの賃料・修繕費用を差し引いた上で、借主に返すことが予定されています。

これに対して「礼金」は、慣習で認められた謝礼金のことを言います。敷金と異なり、契約終了時に借主に返されることはありません。 敷金や礼金は、法律上賃貸借契約に必ず必要なものと扱われていません。したがって、敷金や礼金を支払うということを合意しなければ効力は生じません。敷金や礼金を必要とするのであれば、キチンと契約書に明記しておきましょう。

※注:「敷引き特約」
敷金に関する契約条項として、「敷引き特約」と呼ばれているものがあります。これは未払いの賃料・修繕費用があるかを問わず、返還すべき敷金から一定の額を差し引くことを内容とするものです。敷引き特約は、貸主にとっては、通常損耗分の修繕費用や賃貸借契約終了後の空室賃料に充てることができ、メリットがあります。他方で、借主にとっては、本来返ってくるべき額が返ってこず、不利益しかありません。したがって、消費者である借主にあまりに不利な敷引き特約は無効になる(消費者契約法10条)と解されていますので、注意してください。詳しくは、コラム「敷引特約の有効性」を参照してください。

第4 契約の終了および事後措置について

1.契約期間

物を貸したら、「いつ返すのか」という事項(契約期間)についても契約書に記載しておく必要があるでしょう。

契約期間の設定にあたっては、個別の法律で定められた上限また下限に抵触しないように注意しなければなりません。賃貸借契約の契約期間は、原則として上限が20年になります(民法605条1項)。ただし、建物の賃貸借の場合にはこの20年の上限が撤廃され(借地借家法29条2項)、さらに建物所有を目的とする土地の賃貸借の場合には上限はなく30年以上という下限の規制があります(借地借家法3条本文、9条)。

また、契約期間の設定と併せて、契約の更新に関する事項も定めておくと良いでしょう。民法の規定によれば、期間満了後も異議が述べられることなく、使用が継続している場合には、同一の条件で更新されるものとしています(民法619条1項)。契約の更新は、期間満了前に当事者の合意によって行われるのが原則だと考えられていますから、これと異なる規定を置くことも可能です。例えば、「○ヶ月前までに当事者から特段の意思表示がない場合には、更新されたものとみなす」「期間満了をもって当然に終了し、更新をしない」などが考えられます。ただし、借地借家法や農地法の適用を受ける場合には、更新に関する規制がなされていますので、注意が必要です。

2.解除条項

契約が終了する場面としては、契約期間が満了する以外にも、途中で解除ないし解約するということもあります。例えば、賃料の支払いがいつまで経ってもなされない場合や契約で定めた条項に違反している場合には、解除して契約関係を終了させたいと思うこともあるでしょう。また、どちらか一方の都合で、やむを得ず解約をしたいという場合もあると思います。

このような場合に、どうすれば解除ないし解約できるのかを契約書に記載しておくと良いでしょう。例えば、解除であれば「次の事由がある場合には、催告せずに解除をすることができる」、解約(民法617条、618条)であれば「○ヶ月前に書面による通知をすることで、解約することができる」といった記載になります。なお解除については、コラム「契約書の内容」を参照してください。

※注:その他の終了原因
賃貸目的物の全部または一部が滅失して、使用することができなくなった場合も契約関係は終了すると考えられています。
※注:不動産賃貸借と信頼関係破壊の法理
不動産賃貸借は、比較的長期間継続することが予定され、賃借人は、契約関係が継続することを前提に生活をしています。他方で、契約の解除(民法541条)は、解除事由があれば、解除権者の一方的な意思表示によって契約をなかったことにすることができます。仮に、賃借人の気分次第で契約が解除されるとすると、賃借人は借地・借家から出ていかなければならず、困ってしまいます。そこで実務では、法律の規定はありませんが、当事者間の信頼関係が破壊されたといえる場合、言い換えれば“著しい背信的行為があり、これ以上継続することが不相当だ”といえるような場合に限って、賃貸人は解除権を行使できるものとしました(「信頼関係破壊の法理」)。したがって、賃貸人としては、「契約書に解除事由を書いておけば安心」というわけではない点に注意が必要です。

3.原状回復等

契約が終了すれば、借主は賃貸目的物を返還しなければなりません。その際借主は、①誰が使っても当然生じるようなもの(通常損耗)を除く損耗・毀損を修繕すること、②貸主がいつでも自由に賃貸目的物を使用できる状態にすること(以上、「原状回復」)を要します。 この原状回復について、必要に応じて、当事者間で合意することは原則として可能です。例えば、借主が造作した物について、貸主が買い取るという内容の合意をすることもできます。

また不動産の賃貸借契約で、貸主の都合で賃貸借契約を解約する、または更新をしない場合には、「立退料」が支払われることがあります。もっとも、「立退料」は、貸主が必ず支払わなければならないものではなく、“立退料を支払えば、立ち退きを要求しやすくなる”という1つの要素に過ぎません。後日、立ち退きをめぐってトラブルにならないように、立退料に関する事項も契約書に記載しておくといいでしょう。

ひな型「不動産賃貸借契約書」

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