契約の締結に関する規制-消費者契約法

第1 消費者契約法の意義

コラム「販売方法等の規制-特定商取引に関する法律」で、いわゆる悪徳商法から消費者を保護する法律として「特定商取引に関する法律」があることを説明しました。しかし、特定商取引法は、そこに規定された取引に関しては、強力な効力がありますが、それ以外の取引には用いることができない欠点があります。

そこで当事者間の「情報の質及び量並びに交渉力等の格差」という消費者トラブルの原因を根本から解決するためにつくられたのが「消費者契約法」です。消費者契約法は、次の4つの要素を柱として消費者の保護を図っています。以下、各要素の概要と事業者が注意すべき点を説明します。

<消費者契約法における消費者保護制度の要素>
①事業者側の説明義務
②消費者による意思表示の取消し
③不当な契約条項の無効
④適格消費者団体制度

第2 事業者側の説明義務

1 概要

当事者間の「情報の質及び量」に基づくトラブルは、事業者側が誤解を招くような説明をした、または十分な説明をしなかったために、生じることが多いです。そこで、消費者契約法は、事業者に次の2つの義務を課しています(消費者契約法3条1項)。

  1. ① 契約内容が「消費者にとって明確かつ平易なものになるよう配慮する」義務
  2. ② 「消費者の権利義務その他の消費者契約の内容についての必要な情報を提供する」義務(いわゆる「説明義務」「情報提供義務」)

2 事業者側の注意点

以上2つの義務は、努力規定ですので、この義務に違反した場合の具体的なペナルティは用意されていません。しかし、だからといっていい加減な情報を提供すれば、後述する不実告知や不利益事実があるとして、契約をするという意思表示を取り消されてしまうおそれがあります。また、場合によっては、消費者から錯誤による契約の無効(民法95条)を主張されたり、損害賠償請求(民法415条または709条)されたりすることもあるでしょう。後日トラブルに発展することを避けるために、商品やサービスに関する説明書を作成し交付するなど、消費者に十分な情報提供をするように努めるようにしましょう。

第3 消費者による意思表示の取消し

1 概要

消費者契約法は、事業者側の不適切な勧誘方法により、消費者が誤認・困惑して契約を締結した場合には、消費者は自己の意思表示を取り消せることにしています。消費者は、意思表示を取り消すことで契約関係をなかったことにし(民法121条本文)、事業者に交付した金銭や財産の返還を求めることができます(民法703条参照)。ここにいう事業者側の不適切な勧誘方法とは、具体的には以下の行為のことをいいます。

(1)不実告知による誤認(消費者契約法4条1項1号)

事業者が、契約の「重要事項について事実と異なることを告げ」、それによって消費者が「告げられた内容が事実であるとの誤認」をした場合のことをいいます。ここにいう「重要事項」とは、消費者が契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすと考えられる事項のことをいいます。法律上は、①「物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容」、または②「物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの対価その他の取引条件」とされています(消費者契約法4条4項)。
例えば、本当は事故車であるのに、「この中古車は、事故のないものです」と説明するケースなどです。他方で、「運転しやすい」「お買い得」といった人の認識・評価によって異なる事項は、不実告知にはあたりません。

(2)断定的判断の提供による誤認(消費者契約法4条1項2号)

事業者が、契約の目的物の価値など「将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供」したことにより、消費者が「提供された断定的判断の内容が確実である」と誤認した場合のことをいいます。

例えば、事業者が「今購入しておけば、将来確実に値上がりするから、得しますよ」と説明するケースなどです。

(3)不利益事実の不告知による誤認(消費者契約法4条2項)

事業者が、ある重要事項またはこれに関連する事項について「消費者の利益となる旨を告げ」、かつ「当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)を故意に告げ」ず、これによって消費者が不利益となる事実が存在しないと誤認した場合のことをいいます。

例えば、事業者が「隣地は空き地ですので、眺望・日当たり良好です」と説明し、隣地のマンション建設計画の存在をわざと告げなかった場合などです。

(4)不退去による困惑(消費者契約法4条3項1号)

事業者が、消費者が「退去すべき旨の意思を示した」にもかかわらずその場から退去せず、これによって消費者が困惑した場合のこといいます。訪問販売にきた事業者が居座ってしまい、困り果てて契約したケースが典型例です。

「退去すべき旨の意思」の表示とは、「帰ってくれ」と明示した場合だけでなく、間接的にそのような意思が表示されているといえる場合も含まれます。例えば、①「取り込み中です」など時間的な余裕がない旨を告知した場合、②「結構です」など契約を締結しない旨を明確に告知した場合、③手振り身振りで表示した場合も、「退去すべき意思」を表示したと認められることがあります。

(5)退去妨害による困惑(消費者契約法4条3項2号)

事業者が、消費者が「退去する旨の意思を示した」にもかかわらずその場所から退去することを許さず、これによって消費者が困惑した場合のことをいいます。展示販売会で、その会場から退室させてもらえず、困り果てて契約を締結したようなケースが典型例です。「退去する旨の意思」は、(4)不退去による困惑の場合と同様に、間接的な方法による表示も含まれます。

2 事業者側の注意点

(1)事前の対応策

事業者としては、上記のような不当な勧誘不法を行わないよう徹底することが望ましいです。しかし、セールストークや購入の説得行為と、上記不当な勧誘方法は紙一重なところがあります。そこでまずは、提供する商品やサービス内容に応じた勧誘方法のマニュアルを作成し、不当な勧誘方法にならないかを事前に弁護士等専門家に確認することをおすすめします。その上で、作成したマニュアルの内容を、営業にあたる従業員に浸透させるといいでしょう。

また、上記消費者の取消権は、事業者が直接消費者を勧誘せず、間に第三者が介在して契約が締結されるケースでも発生します(消費者契約法5条1項2項)。例えば、事業者が、消費者の勧誘を第三者に委託し、その第三者が上記不当な勧誘方法を行った場合です。事業者の方は、委託先の行為が原因で、後日契約が取り消される可能性があることを認識しましょう。その上で、委託先に対しても、自己の従業員と同様に、作成したマニュアルに沿った勧誘方法を浸透させましょう。

(2)事後的な対応策

消費者が取消権を行使できる期間には制限がなされています(消費者契約法7条1項)。具体的には、①「追認をすることができる時」から6ヶ月経過した場合、または②「契約締結の時」から5年経過した場合には、取消権は消滅します。ここにいう「追認することができる時」とは、「取消しの原因となっていた状況が消滅した時」(民法124条1項参照)のことだと解されています。例えば、消費者が誤認したことに気付いた時(=「誤認」という状況が消滅しています)、または、困惑の原因となった事業者の不退去や退去妨害が終了した時のことをいいます。

いわゆるクレーマーが、過去のことを持ち出して、取り消したいと申し出てくるとこもあるでしょう。このような場合には、取消権が発生する原因がないことを主張するだけでなく、仮に発生したとしても取消権は消滅したと主張することも検討してみるといいでしょう。

第4 不当な契約条項の無効

1 概要

事業者と消費者の間に「情報の質及び量並びに交渉力」の差があるとすると、契約の内容が不衡平なものになる可能性があります。実際に、世の中の多くの消費者が結ぶ契約は、事業者側があらかじめ用意した契約条項(「約款」)にしたがう形式で行われています。携帯電話や電化製品を購入した際に、小さな文字で書かれた書面が交付されることがありますが、その書面が「約款」です。この「約款」を全て確認するのが面倒ですので、消費者は、契約内容が自己に不利益なものになっていることにも気付かずに契約を締結することも少なくありません。このような不衡平を是正するため、消費者契約法は、消費者に一方的に不利に働くような契約条項のうち一定の内容を有する契約条項(「不当条項」)を無効とすることにしました。不当条項の具体的な内容は、以下のようなものです。

(1)事業者の損害賠償責任免除条項(消費者契約法8条1項)

事業者の損害賠償額を免除する条項があると、消費者が損害を被った場合に、消費者が十分な救済を受けることができなくなります。そこで、事業者の損害賠償責任を免除するような契約条項は無効とすることにしました。

ただし、瑕疵担保に基づく損害賠償責任を免除する条項の場合には例外があり、他の救済手段が予定されている場合には、責任免除条項は無効になりません(消費者契約法8条2項)。具体的には、以下のような場合です。

①代替物の給付や修補が予定されている場合、または

②第三者が代わりに損害賠償責任を負うことが予定されている場合

(2)消費者の損害賠償額の予定条項等(消費者契約法9条)

消費者の都合によって、事業者側に損害が発生した場合に備えて、あらかじめ消費者がいくら支払うかを定めておくことがあります。「キャンセル料」や「延滞料」と呼ばれているものが典型例です。こうした契約書で予定された損害賠償額が不当に高額である場合には、高額とされる部分のみが無効になります。具体的には、「キャンセル料」の平均的な損害額を超える部分(消費者契約法9条1号)、「遅延損害金」の年14.6%の割合で計算した額を超える部分(消費者契約法9条2号)が無効になります。

(3)消費者の利益を一方的に害する条項(消費者契約法10条)

その他ケースバイケースになりますが、消費者の利益を一方的に害するような契約条項も無効になります。例えば、以下のような条項が考えられます。

①消費者の解除権や解約の申入れのみを制限する条項

②事業者の解除権や解約の申入れの要件のみを緩和する条項

③消費者の権利行使期間を制限する条項

2 事業者側の注意点

まず約款のような事業者が一方的に作成した契約条項のもつ危険性を認識する必要があります。すなわち、事業者は、約款に基づいて日々無数の消費者と契約を締結しているので、後日契約の一部でもその有効性が争われると、最悪の場合、これまでに成立した膨大な数の消費者との契約関係が無効になってしまうおそれがあると認識しましょう。

その上で、契約条項の作成は上記認識のもとで慎重に行い、最後に法律の専門家である弁護士などに、契約条項の有効性をついてチェックを受けておくといいでしょう。

第5 消費者団体訴訟制度

1 概要

消費者団体訴訟制度とは、内閣総理大臣の認定を受けた団体(「適格消費者団体」(消費者契約法2条3項))が、消費者に代わって、事業者の不当な行為の差止め等を請求できる制度です(消費者契約法12条1項3項)。ここにいう不当な行為とは、上記の不適切な勧誘行為や不当な契約条項による契約締結行為のことをいいます。

2 事業者側の注意点

“差止め”という言葉を聞くと、「今回問題となった行為だけを止めればいい」と思われるかもしれません。しかし、適格消費者団体の可能なことは「今回問題となった行為」の差止めに留まりません。まず、現に行っていなくても、不当な行為を行う「おそれがあるとき」であれば、適格消費者団体は「おそれのある○○行為をするな」と請求することができます。また、問題となった不当な行為の「停止又は予防に必要な措置」も請求することができます。例えば、不当な勧誘方法に関するマニュアルの廃棄などです。

仮に裁判所を介してこのような請求が行われれば、請求が行われたことが世間に知れ渡り、事実上事業を営めなくなる可能性があります。通常は、訴訟になる前に、警告書などの書面が送られてきますので、その時点で業務改善に努めるようにしましょう。

以上

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