下請法で規制されていること

第1 親事業者が遵守すべき事項

下請法は、親事業者に以下の4つのことを義務づけることで、下請事業者の保護を図っています。

1 支払期日を定める義務

親事業者は、発注した物品等を受領した日(役務提供委託の場合は、役務の提供を受けた日)から起算して60日以内のできる限り短い期間内で、下請代金の支払期日を定めなければなりません(下請法2条の2第1項)。仮に60日以内の支払期日の定めがなかった場合、その契約は以下のように修正されます(下請法2条の2第2項)。

①支払期日の定めがない場合

物品等を受領した日が支払期日となります。

②60日を超える支払期日の定めがある場合

物品等を受領した日から起算して60日を経過した日の前日が支払期日となります。

2 遅延利息の支払い義務

金銭の支払いが遅れた場合、債務者は遅延利息を支払わなければならず、その遅延利息は法律または当事者の合意によって定められ利率で計算する、というのが民法の大原則です(民法415条、419条1項参照)。

この遅延利息に関するルールについても、下請法は修正を加えています。すなわち支払期日までに下請代金を支払わなかった場合、親事業者は、下請事業者に対して、物品等を受領した日から起算して60日を経過した日から実際に支払が行われる日までの期間、年率14.6%の遅延利息を支払わなければなりません(下請法4条の2)。この遅延利息は、他の法律および当事者の合意による定めに優先して適用されます。したがって、仮に当事者間で遅延利息を年率10%と定めても、その約定利率は排除されます。

3 書面の交付義務

口約束で発注すると、後日“言った・言わない”のトラブルになることがあります。このようなトラブルを防ぐため、下請法は、親事業者に対して、発注した内容を明確に記載した書面の交付を義務づけました(下請法3条1項本文)。この書面(いわゆる「3条書面」)には、原則として以下の事項を記載しなければなりません。

  • 親事業者及び下請事業者の名称(番号、記号等による記載も可)
  • 製造委託、修理委託、情報成果物作成委託又は役務提供委託をした日
  • 下請事業者の給付の内容
  • 下請事業者の給付を受領する期日(役務提供委託の場合は、役務が提供される期日または期間)
  • 下請事業者の給付を受領する場所
  • 下請事業者の給付の内容について検査をする場合は、検査を完了する期日
  • 下請代金の額(算定方法による記載も可)
  • 下請代金の支払期日
  • 手形を交付する場合は、手形の金額(支払比率でも可)及び手形の満期
  • 一括決済方式で支払う場合は、金融機関名、貸付け又は支払可能額、親事業者が下請代金債権相当額又は下請代金債務相当額を金融機関へ支払う期日
  • 電子記録債権で支払う場合は、電子記録債権の額及び電子記録債権の満期
  • 原材料等を有償支給する場合は、品名、数量、対価、引渡しの期日、決済期日及び決済方法

上記の内容が記載された書面であればその様式はどのようなものでも問題ありません。実務上、継続的な取引を予定している場合には、個々の取引で共通する事項をあらかじめ別の書面を交付しておく、という方法がとられています。

もっとも、試作品の製造委託や修理委託にかかる費用など発注段階では書面に記載することが難しいという場合もあります。このように記載できないことに「正当な理由」があれば、例外的にその事項を記載のない書面(いわゆる「当初書面」)を交付することが認められます。ただし、記載できない理由および内容を定めることとなる予定期日を当初書面に記載し、かつその内容が確定した後には、直ちにその事項を記載した書面(いわゆる「補充書面」)を交付しなければなりません(下請法3条1項但書)

4 書類の作成・保管義務

公正取引委員会および中小企業庁は、下請法の規制にしたがって適正に取引がなされているかを把握するために、親事業者や下請事業者に対する調査などを行っています(下請法6条、9条参照)。このような行政機関による監督の実効性を確保するために、下請法は、親事業主に対して、取引に関する一定の事項を記録した書類を作成し、取引終了に日から2年間保存することを義務づけました(下請法5条)。具体的には、以下のような事項を記録しておかなければなりません。

  • 下請事業者の名称(番号、記号等による記載も可)
  • 製造委託、修理委託、情報成果物作成委託又は役務提供委託をした日
  • 下請事業者の給付の内容
  • 下請事業者の給付を受領する期日(役務提供委託の場合は、役務が提供される期日・期間)
  • 下請事業者から受領した給付の内容及び給付を受領した日(役務提供委託の場合は、役務が提供された日・期間)
  • 下請事業者の給付の内容について検査をした場合は、検査を完了した日、検査の結果及び検査に合格しなかった給付の取扱い
  • 下請事業者の給付の内容について、変更又はやり直しをさせた場合は、内容及び理由
  • 下請代金の額(算定方法による記載も可)
  • 下請代金の支払期日
  • 下請代金の額に変更があった場合は、増減額及び理由
  • 支払った下請代金の額、支払った日及び支払手段
  • 下請代金の支払につき手形を交付した場合は、手形の金額、手形を交付した日及び手形の満期
  • 一括決済方式で支払うこととした場合は、金融機関から貸付け又は支払を受けることができることとした額及び期間の始期並びに親事業者が下請代金債権相当額又は下請代金債務相当額を金融機関へ支払った日
  • 電子記録債権で支払うこととした場合は、電子記録債権の額、下請事業者が下請代金の支払を受けることができることとした期間の始期及び電子記録債権の満期日
  • 原材料等を有償支給した場合は、品名、数量、対価、引渡しの日、決済をした日及び決済方法
  • 下請代金の一部を支払い又は原材料等の対価を控除した場合は、その後の下請代金の残額
  • 遅延利息を支払った場合は、遅延利息の額及び遅延利息を支払った日

第2 親事業者が禁止されている事項

下請法は、下請事業者の利益を害する危険性のあるとして11の行為を禁止しています。そして禁止事項に違反すると、公正取引委員会から下請事業者の利益を保護するために必要な措置(減額分や遅延利息の支払い等)を実施するよう勧告がなされ、親事業者名が公表されます(下請法7条1項2項3項)。

  1. ①親事業者が、下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、下請事業者が給付する物品の受領を拒む行為(下請法4条1項1号)
    例:在庫の余剰を理由に、注文した物品の一部をキャンセルした
  2. ②親事業者が、下請代金をその支払期日(詳しくは上述)を経過してもなお支払わない行為(下請法4条1項2号)
    例:社内検査が終了していないことを理由に、代金の支払いを拒否した
  3. ③親事業者が、下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、発注後その下請代金を減額する行為(下請法4条1項3号)
    例:振込手数料を差し引いた分の下請代金しか支払われなかった
  4. ④親事業者が、下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、下請事業者が給付した物品を、受領した後に返品する行為(下請法4条1項4号)
    例:売れ残った商品を、製造を委託した下請事業者に返品をした
  5. ⑤親事業者が、下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定める行為(いわゆる「買いたたき」。下請法4条1項5号)
    例:指定された原材料が高騰しているのに、下請代金を据え置かれた
  6. ⑥ 親事業者が、下請け業者に対して、正当な理由がないのに、自己の指定する物を強制的に購入させ、又は強制的に役務を利用させる行為(下請法4条1項6号)
    例:受注に際して、損害保険への加入を強制された
  7. ⑦親事業者が、下請事業者が親事業者の下請法違反行為を公正取引委員会又は中小企業庁に知らせたことを理由として、不利益な取扱いをする行為(下請法4条1項7号)
    例:下請法違反行為を報告された報復として、取引を停止された
  8. ⑧親事業者が、下請事業者に対して、委託した物品の製造・修理に用いる原材料等を自社から購入させて、かつ、下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、下請代金の支払期日よりも前に、原材料等の代金を支払わせたり、下請代金から原材料等の代金を控除したりして、下請事業者の利益を不当に害する行為(下請法4条2項1号)
  9. ⑨親事業者が、下請代金の支払いについて、下請代金の支払期日までに一般の金融機関による「割引」(売却して現金化すること)を受けることが困難な手形を交付して、下請事業者の利益を不当に害する行為(下請法4条2項2号)
  10. ⑩親事業者が、下請事業者に対して、不当な「金銭、役務その他の経済上の利益を提供させ」て、下請事業者の利益を不当に害する行為(下請法4条2項3号)
    例:部品の発注に際して、「協賛金」提供を要請した
    発注した部品の金型を無償で提供するよう要請した
  11. ⑪親事業者が、下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、発注内容を変更し、または委託した仕事をやり直させて、下請事業者の利益を不当に害する行為(下請法4条2項4号)
    例:会社の方針の変更を理由に、作成したデザインを変更させて(デザイン作成の発注を取り消して)、作成費用を負担しなかった

第3 事業者が注意すべき事項

上記のとおり、下請法は親事業者になる事業者の行為について、様々な規制を行っています。親事業者が下請法の規制に違反すれば、罰金になったり、勧告・事業者名を公表されたりとペナルティが課せられることがあります。下請法上の「親事業者」にあたる事業者は、“下請事業者の利益に配慮していないと痛い目にあう”ということを認識して、下請取引を行うようにしてください。「書面がキチンと作成できているだろうか」「このような条件で下請取引を行っても大丈夫だろうか」などの不安がある事業者の方は、事前に弁護士などの専門家に相談するといいでしょう。

他方、下請事業者の方で、「下請取引で、親事業者から不利益を受けた」という場合には、公正取引委員会の相談窓口(http://www.jftc.go.jp/shitauke/madoguti.html)を利用するといいでしょう。

以上

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