役員の不正、違法行為

第1 はじめに

世の中には、会社の役員が不正、違法行為(以下、まとめて「不祥事」という。)に関与することがあります。そして、役員が関与した不祥事というのは、従業員のみの不祥事と比べると、報道されることが多い傾向にあります。例えば、粉飾決算や食品の偽装表示、会社の金銭の着服などが挙げられます。報道がなされれば、不祥事が発生した会社の信用を損なうだけでなく、関係業界全体の信用問題に発展し、社会全体に大きな影響を及ぼす場合があります。そうなれば、会社が被る損害の額も比較的大きくなり、会社の取引先や株主にも影響を与えます。このように役員の不祥事というのは、会社内部の問題が多くの人に影響を与える可能性が大きい、という点に特徴があります。

さて、役員の関与した不祥事が発生した場合の対応方法は、概ね従業員の不祥事の場合と同様です。すなわち、①まずは事実の確認を行った後、②公表など関係者に対して必要な措置や③役員に対する措置を講じて、④再発防止策を実行することになります。ただし、役員の不祥事は、上記のとおり社会的影響が大きいことから、実務上、従業員の場合とは異なる取扱いがなされています。
このコラムでは、従業員の不祥事にはない役員の不祥事固有の対応方法について説明します。なお、事実の確認や事件の公表、再発防止策については従業員の不祥事と共通します。詳しくは、コラム「従業員の不正、違法行為」を参照してください。

第2 役員の不祥事の対応方法

1 役員に発生した損害の賠償をさせる

会社に損害が発生すれば、会社は、不祥事に関与した役員に対して、損害の賠償を請求することができます(会社法423条1項)。従業員の場合(民法709条)と異なるのは、①役員の損害賠償責任が認められやすい、②「株主代表訴訟」が存在するという点です。以下、詳しく説明します。

① 役員の損害賠償責任が認められやすい

役員の会社に対する損害賠償責任が認められるためには、役員が「任務を怠った」ことが必要です(会社法423条1項)。この点、役員は、会社のために最善を尽くす義務を負っています(善管注意義務、会社法330条、民法644条)。そうすると、不祥事が発生したということは、客観的には、役員が最善を尽くさなかった結果だと評価することができます。

他方で、法律上、役員の「責に帰することができない事由」(≒故意および過失がない)が認められると、役員の損害賠償責任は認められないことになっています(会社法428条1項反対解釈)。もっとも、上記のとおり、役員は善管注意義務を負っていることに照らすと、不祥事が発生したということは、「役員が最善を尽くさなかった=少なくとも会社の運営にミス(≒過失)があった」と考えることができます。したがって、役員の「責に帰することができない事由」が認められることはほとんどありません。

以上のようなことから、実務上は、不祥事の事実さえ認められれば、役員の損害賠償責任が認められることになります。

② 「株主代表訴訟」の存在

“会社は、…損害の賠償を請求することができる”と説明しましたが、そもそも会社を運営しているのは役員です。そうすると、役員同士の馴れ合いで、損害賠償請求をしない、という事態が発生する可能性があります。そうすると、会社が被った損害は放置されることになり、会社の持ち主である株主は困ってしまいます。そこで、会社の役員に対する損害賠償請求については、株主が会社に代わって「不祥事を起こした役員は、会社に損害を賠償しろ。」と請求することができるようにしました。これを「株主代表訴訟」といいます。詳しい手続については、コラム「会社法トラブルその10 株主代表訴訟」を参照してください。

2 役員を解任する

役員の場合、従業員の解雇に相当するものとして、「解任」があります。会社は、株主総会の決議(会社法341条)によって、役員を解任することができます(会社法339条1項)。また取締役会において、代表取締役を解職する場合には、取締役会の決議によって解職することができます(会社法362条2項3号)。従業員の場合と異なり、解雇予告等の事前手続が不要なため、比較的緩やかに役員の解任ができるといえます。

ただし、従業員の場合より比較的緩やかに解任が可能だとしても、次の点には注意しましょう。

①解任する「正当な理由」の存否を確認すること

役員を解任する「正当な理由」がなかった場合、会社は、解任された役員に対して役員報酬相当額の損害を賠償しなければなりません(会社法339条2項)。この「正当な理由」は、解任する上で必要な要件ではありませんが、会社にとって損害賠償責任を負うか否かは大きな違いがあります。したがって、不祥事に関する事前の事実確認が必要だという点については、従業員の解雇の場合と異なるわけではありません。

②解任後の手続を怠らないこと

役員を解任した場合、役員の変更があった旨を登記しなければなりません(会社法9 15条1項)。この登記を忘れると、役員の解任を知らない第三者に対して、役員を解任したことを主張することができません(会社法908条1項)。つまり、当該第三者との関係では、解任された役員が権限なく行った行為が、有効なものとして扱われることになります。したがって、できる限り早期に登記手続を済ませるようにしましょう。

なお株主総会で賛成多数を得られなかった場合、または賛成多数を得る見込みがない場合には、一定の株主は、当該役員の解任の訴え(会社法854条1項)を提起することができます。詳しくは、コラム「会社法トラブルその8 取締役解任の訴え他」を参照してください。

3 役員の業務執行を止める

不祥事となる行為が現に行われている、または行われようとしている場合には、これを強制的に止める必要があります。この点、取締役の不祥事については、株主は取締役の職務執行を止めるよう請求することができます(会社法360条1項)。

また取締役が不祥事を行うおそれがあり、解任の株主総会決議をし、または違法行為の差止め請求をする時間的余裕がないほど緊急性が高い場合には、職務執行停止の仮処分(民事保全法23条2項)を行うことを検討するといいでしょう。

詳しくは、コラム「会社法トラブルその7 違法な業務執行の差止め請求」コラム「取締役等の職務執行停止・職務代行者選任の仮処分」を参照してください。

以上

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