株主総会当日の議事運営①

第1 はじめに

株主総会は、コラム「株主総会の招集手続①」コラム「株主総会の招集手続②」で説明した手続を経て、その当日を迎えます。そして、株主総会は、概ね以下のような流れで進行します。このコラムでは、以下の株主総会の流れの中で、議事運営上問題になりやすいポイントを中心に詳しく説明します。

【株主総会当日の流れ】

株主の入場

ポイント①:代理人の出席・議決権行使

議長による開会宣言、議決権数の報告、議事進行方法の説明

ポイント②:議長の役割

ポイント③:動議の処理手順

監査その他の事項の報告、決議事項の説明

報告事項・決議事項に関する質疑応答

ポイント④:取締役等の説明義務

採 決

ポイント⑤:株主総会における採決のタイミング・方法

閉会宣言

ポイント⑥:株主総会終了後の注意点

第2 代理人の出席・議決権行使

1 株主総会に出席できる者

議決権を行使することができる株主本人が、株主総会に出席できるのは当然のことです。会社法は、株主本人のほかに、代理人が出席して議決権を行使することを認めています(会社法310条1項前段)。これは、やむを得ず株主総会の出席できないような株主に、議決権行使の機会を確保するために認められた制度です。

さて、株主総会の会場では、はじめに本人確認を求めるのが一般的です。たとえば、受付で運転免許証やパスポートの提示を求めることが考えられます。代理人が出席する場合は、これらに加えて、委任状など「代理権を証明する書面」を提示することが会社法上必要とされています(会社法310条1項後段)。受付業務を円滑に行うためにも、株主に送付する招集通知には、これら受付時に必要となる書面を明記しておくようにしましょう。

なお代理人は、株主総会当日までに委任状を提出すれば足ります。これとは異なり、例えば、会社が委任状の提出期限を株主総会開催日の3日前までと設けたとしても、そのような定めは無効と考えられていますから、ご注意ください。

2 代理人の数の制限

会社は、株主総会の運営が混乱することを防止するために、株主総会に出席することができる代理人の数を制限することができます(会社法310条5項)。通常、株主1人に対して1人の代理人を認めれば足りることでしょう。したがって、例えば、複数の株式を有する株主がその株式の数に応じた代理人を選任して、複数の代理人が会場に現れた場合、会社は、そのうちの1人の出席だけを認めて残りの代理人の出席を拒否することができます。

なお、上記のような代理人の数を制限する場合、会社は、事前に株主総会招集決定事項として定め(定款に定めがある場合は除きます。)、招集通知に記載しなければなりません(会社法298条1項5号、会社法施行規則63条5号、会社法299条4項)。

3 代理人の資格の制限

会社法上、代理人になることができる資格について定めた規定はありません。もっとも、判例実務上は、合理的な理由がある場合には、定款の定めによって相当と認められる程度の資格制限を加えることができる、とされています。例えば、株主総会が株主以外の第三者によって攪乱されることを防止するため、代理人の資格を株主に限るとする定款の定めは有効と解されています(最判昭和43年1月1日)。

代理人資格を株主に限る旨の定款の定めがあっても、株主が地方公共団体や株式会社のような団体である場合には、その職員や従業員を代理人として株主総会に出席させ、議決権を行使させても、定款に違反するものではないと解されています(最判昭和51年12月24日)。県知事や市長、大会社の代表取締役が自ら総会に出席して議決権を行使することは困難ですし、これら組織の職員や従業員は、職制上上司の命令どおりに行動するものなので、議決権を代理行使しても総会が撹乱されるおそれがないといえるからです。

※弁護士を代理人とすることの可否

株主以外の者を代理人とすることができない旨が定款に定められている会社において、株主でない弁護士が代理人として株主総会に出席するが問題になることがあります。このような場合、会社は、代理人である弁護士の株主総会への出席を拒否することができるでしょうか。

定款で代理人の資格制限をする趣旨は、株主以外の者により株主総会を攪乱されることを防止する点にあります。そして、その職務の性質に照らすと、弁護士が株主総会を攪乱するおそれがあるとは一般的にはいえないとも考えられます。裁判例の中には、このような考え方に基づいて、株主でない弁護士による株主総会への代理出席を拒否したことは違法であると判断したものもあります(神戸地尼崎支判平成12年3月28日)。

もっとも、株主でない弁護士による株主総会への代理出席を、定款の定めに基づき拒否することは違法ではないとの見解の方が有力なようです(宮崎地裁平成14年4月25日判決、東京高判平成22年11月24日)。①弁護士という職種は株主総会を攪乱するおそれは少ないものの、どのような職種の者であれば総会を攪乱するおそれがないといえるかは明確な基準がないこと、②株主総会の受付において攪乱のおそれの有無を個別具体的に判断することは、受付事務を混乱させ、円滑な総会運営を阻害するおそれが高いこと、③攪乱のおそれの有無を実質的に判断することになると、経営陣あるいは受付事務による恣意的・差別的判断が行われるおそれがあること、が理由とされています。

第3 株主総会における議長の役割

1 議長になる者

会社法上、誰が議長になるかの定めはありません。一般的には、定款で代表取締役や社長が議長となる旨が定められていることが多いようです。

議長になる者が確定しましたら、その旨を明らかにしましょう。たとえば、株主総会の冒頭で「定款の規定に従って、私が議長を務めます。」との議長就任宣言をしましょう。

2 議長の役割

会社法は、議長の権限として、①「当該株主総会の秩序を維持し、議事を整理する」こと、②「命令に従わない者その他当該株主総会の秩序を乱す者を退場させること」を定めています(会社法315条1項2項)。このことから株主総会の議事運営は、すべて議長の手に委ねられているといっても過言ではありません。

議長の役割として重要なことは、適法かつ時間内に審議を進めて採決をすることです。具体的には、議長は、まず会社側から採決事項の説明や事業についての報告をさせ、これに対する株主の質疑を行う時機を設けます。株主からの質疑に対しては、質問する株主を指定し、質問の趣旨・内容に応じて適切な対応を選択することが求められます。

この株主からの質問への対処をめぐり、株主総会が紛糾することが少なくありません。たとえば、株主から「特定の株主の発言が長く、他の株主が質問できない」「会社側の説明が不十分だ」などの不満が出てくることあります。これらの対応にあたっては、状況をよくみて、場合によっては会場に控えている弁護士と相談して適切な対応をとるようにしましょう。

なお株主総会で、議長が行う対応としては概ね以下のようにまとめることができます

  1. ・説明をする会社側担当者または発言する株主を指定する
    ・株主からの質問に対して、自ら回答・反論をする、または回答者を指名して、回答・反論させる
    ・発言が長い場合または時間に余裕がない場合には、発言時間、質問数などを制限する
    ・発言にかかる制限を受け入れない場合には、発言を制止する
    ・発言の制止を受け入れない場合その他株主総会を攪乱するおそれが生じた場合には、該当者の退場を命じる
    ・議事の進行状況をみて、適時に質問・審理の打ち切りをする

第3 動議の処理手順

1 「動議」とは

動議とは、株主総会の運営方法や決議事項に関して、株主総会の決議を求める旨の意思表示のことです。動議には、①議事運営に関する手続的な動議(議事進行上の動議)と、②議案の修正動議とがあります。

株主の発言の中には、質問や意見のほかに、この動議が含まれていることがあります。そして、動議の場合は、動議に付された提案について株主総会の採決を要します。したがって、株主の発言が動議なのか、質問・意見なのかをよく見極めて対応することが重要となります。以下、動議への処理手順について詳しく説明します。

2 議事進行上の動議

たとえば、議長の交代の要求、株主総会の続行または延期、審議方法に関する提案などがあげられます。議事進行に関する動議については、議長の見解を述べた上で、その場で採決する必要があります。仮にこの動議について採決しないまま進行してしまうと、後から、決議方法が違法であるとして決議取消しの訴えが提起されるおそれがあるからです(会社法831条1項1号)。

この議事進行上の動議については、出席株主の議決権の過半数をもって採決を行います(会社法309条1項)。この過半数の議決権をおさえていれば、会社側としても動議は怖くありません。したがって、動議と思われる発言がある場合には、これを無視するのではなく、その場で動議として採り上げて否決しておくといいでしょう。

3 議案の修正動議

議案は、総会の前に、招集通知に記載することが必要です(会社法298条1項2号)。しかし、総会当日に、招集通知に記載された議案の修正に関する動議が提出されることがあります。たとえば、A氏を取締役に選任する旨の議案において「B氏を取締役とすべきだ。」と発言したり、配当を1株100円とする旨の議案において「150円が相当だ。」と発言したりすることがあげられます。

そのような場合、修正動議の採決は、原案の採決の際に行う方法が一般的です。そこで、議長は、修正動議については原案の採決時に併せて行うことと、その際に原案を先議とすることについて、議場の了承を得ておきます。原案と修正案とは二者択一の関係にあるので、原案が先に可決されてしまえば、修正案は否決されたとみなすことができるからです。

では、修正動議とは言えないような、招集通知には記載されている議題とまったく別の事項が提案された場合は、どうでしょうか。株主は、招集通知に記載されていない新たな議題を提出することはできません。したがって、例えば、事業目的の追加の定款変更議案に対して商号変更を修正動議として提案する等、不適法な修正動議については、却下します。もっとも、適法な動議であるかどうかの見極めが困難な場合には、後で決議が取り消されることのないよう、修正動議として採決を行っておくほうが無難でしょう。また、修正動議か単なる意見なのか不明な場合には、当該株主に対し、いずれであるのか確認しましょう。

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