株主総会当日の議事運営②

本コラムは、コラム「株主総会当日の議事運営①」 の続きになっております。通し番号も同コラムから続くもの(第4~)になっておりますので、ご注意ください。

第4 取締役等の説明義務

1 説明義務の意義

会社法では、「取締役、会計参与、監査役及び執行役は、株主総会において、株主から特定の事項について説明を求められた場合には、当該事項について必要な説明をしなければならない。」として、取締役などに説明義務を課しています(会社法314条本文)。

この取締役などに求められている説明の方法・程度について、具体的に定めた規定は会社法その他の関係法令に存在しません。しかし、説明義務が果たされていないとなると、株主総会の手続において法定違反があるとして、決議が取り消されるおそれがあります(これ取消しを認めた裁判例として奈良地判平成12年3月29日、東京地判昭和63年1月28日など)。したがって、議事運営を行う議長および説明を行う取締役などとしては、株主の質問内容その他知りたいであろう事項を正確に把握にして、漏れなく説明することが必要となります。以下、抽象論ですが、ポイントを押さえて説明します。

2 説明の方法・程度

大前提として、「的外れ」の説明にならないことが必要です。たとえば、株主からの質問に対して全く内容の異なる事項の回答を行う、株主の質問への回答漏れをだす、といったことがないように注意しましょう。

どの程度の説明を要するかですが、事業報告など報告事項であればその内容を理解するために必要な程度、取締役の選任など決議事項であれば議決権の行使をするために必要な程度の説明が求められるといえます。もっとも、これらの事項にかかわるすべての情報を開示し、説明するとなるとさすがに酷です。そこで裁判実務では、一般的・平均的な株主を基準として客観的に合理的な説明をすれば足り、個別の質問者を満足・納得させるまでの説明は必要ないとしています(東京高判平成23年 9月27日・東京地判平成23年4月14日参照)。たとえば、招集通知に添付した事業報告、計算書類、監査報告、参考書類の記載事項について、それよりやや詳しく説明する、あるいは説明できるだけの準備しておくとよいでしょう。

会社によっては、株主総会の運営を円滑に行うため、あらかじめ質問状の提出を求める場合があります。もっとも、説明義務が課されるのは、株主総会当日に質問があった場合に限られます。したがって、質問状を提出していても株主総会当日に質問がなされない場合には、説明義務は発生せず、回答するかは会社の判断に委ねられるとされています(東京高判昭和61年2月19日、東京地判平成23年4月14日)。また回答する場合には、上記のとおり説明義務として求められる程度の内容であれば、その方法も会社の自由であり、たとえば個別に質問に回答するのではなく、提出されていた質問状に対し一括回答という方法も許されると考えられています。

3 説明義務の例外

会社法は、取締役等が説明義務を負わない例外事由について定めています(会社法314条但書、会社法施行規則71条)。たとえば、会社役員と株主との個人的なトラブル等株主総会の目的に関係のない事項、企業秘密に関する事項、秘密保持義務を負う事項、他社・他人の誹謗、名誉毀損、業務妨害となる事項等です。

議長は、説明義務の対象とならない事項を把握しておき、「目的事項に関しないので、説明はしません。」と等理由を示して質問を却下したり、違法・不適切な発言として制止したりするといいでしょう。

<例外的に説明義務が課されない場合(会社法314条但書)>

① 株主総会の目的である事項に関しない場合

例:会社役員と株主との個人的なトラブルに関する事項

② 説明をすることにより株主の共同の利益を著しく害する場合

例:企業秘密に関する事項

③ 説明をするために調査をすることが必要である場合(ただし、以下のケースを除く。)

    再例外その1: 当該株主が株主総会の日より相当の期間前に当該事項を株式会社に対して  
      通知したケース  
    再例外その2: 当該事項について説明をするために必要な調査が著しく容易であるケース  

④ 説明をすることにより株式会社その他の者の権利を侵害することとなる場合

例:秘密保持義務を負う事項、他社・他人の誹謗、名誉毀損、業務妨害となる事項

⑤ 株主が当該株主総会において実質的に同一の事項について繰り返して説明を求める場合

⑥ その他説明をしないことにつき正当な理由がある場合

第5 採決のタイミング・方法

会社法は採決時期について定めていないため、議長は、説明義務を果たしたといえるタイミングで、審議を打ち切り、採決に移行することになります。敵対的株主が、多数の質問を浴びせ、「説明が足りない。」、「審議は終わっていない。」などと発言する場合であっても、同様です。上記の通り、一般的・平均的な株主を基準として客観的に合理的な説明をしたと考えられるならば、審議を打ち切る決断をすべきです。議場の過半数の賛成を得られるならば、打ち切り採決は恐れるに足りません。過半数の賛成を得て、「採決に移ります。」と宣言します。いったん宣言したら、その後の株主の罵声や不規則発言には取り合わず、一気に採決に進みましょう。

会社法は採決方法についても定めていないので、議決の判定さえできれば、挙手・起立・投票・掛け声その他いずれの方法によっても構いません。実務上、拍手による場合が多いようです。裁判例は、採決方法については比較的緩やかに許容しており、議場の雰囲気からして可決されることが明らかであれば、採決行為がなくても決議が成立する場合もありえます(最判昭和42年7月25日参照)。もっとも、後で決議取消し訴訟になったとき、どの程度の株主が賛成したのか明確にしておくために、挙手等の方法で採決しておくべきでしょう。株主総会の様子をビデオ撮影により記録しておく方法もあります。カウントの要否、手間の程度、証拠として残るか等それぞれの方法の長所と短所を勘案して、あらかじめ採決方法を決めておきましょう。

ここで、原案の採決時まで留保した修正動議の処理を忘れてはなりません。原案の可決後、「修正動議が出されておりましたが、原案の可決により、修正案は否決されました。」と宣言します。

第6 株主総会終了後の注意点

1 株主総会議事録の作成・備置

株主総会終了後、会社は、株主総会の議事録を作成して、これを株主総会の日から10年間は本店に、5年間は議事録の写しを支店に備え置かなければなりません(会社法318条)。

議事録を作成・備置しなかった場合、取締役や監査役は、100万円以下の過料の制裁を受けます(会社法976条8号)。

なお、議事録の具体的な作成方法については、コラム「株主総会議事録に記載すべきこと」をご覧ください。

2 登記

取締役の氏名、代表取締役の氏名及び住所、資本金の額等は、登記事項ですから(会社法911条3項)、役員の選任・解任や定款の変更等により、登記事項に変更が生じたときは、2週間以内に、変更の登記をしなければなりません(会社法915条1項)。

登記を怠った場合、取締役や監査役は、100万円以下の過料の制裁を受けます(会社法976条1号。)

3 代理権を証明する書面(委任状)の備置

株主は、代理人による議決権行使をする場合、委任状を会社に提出しなければならず、会社は、この書面を株主総会の日から3か月間、本店に備え置かなければなりません(会社法310条)。

委任状を備え置かない場合、取締役や監査役は、100万円以下の過料の制裁を受けます(会社法976条8号)。

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