取締役の地位・報酬

第1 はじめに

このホームページを通して、取締役は、会社というロボットを操縦するパイロットとしての地位にある、と説明してきました。ただ会社法上は、会社の種類によって取締役ができることの範囲が異なります。今回は、「取締役の地位」と題して、取締役がどんなことができるのか、その職務の内容について説明します。

簡潔にまとめると以下のような違いが生じます。コラム「会社の機関」で、「取締役会とは、複数の取締役が一丸となって会社というロボットを効率よく操縦する仕組みだ」と説明しました。この「効率よく操縦する仕組み」である取締役会を設置するか否かで、取締役のできることの範囲が異なります。

また本コラムでは、取締役の報酬についてもあわせて説明します。

第2 取締役の地位

1 取締役会が設置されていない場合

取締役には、大雑把に言えば、具体的状況の下で①どのように対応するかを決定し(「業務執行の決定」と呼びます)、②決定しことを実際に実行する(「業務の執行」と呼びます)、という2つの仕事があります。

①業務執行の決定について

条文上は、取締役が業務執行の決定を行うことは予定されています(会社法348条2項参照)。もっとも、会社法全体を見ますと、取締役会非設置会社の場合には、基本的に株主総会で業務執行の決定を行うとの規定が多いです。また実務上、定款に株主総会の決定事項であると定めて、取締役の決定権限を狭めている場合があります。これはなぜかと言いますと、次のような背景があるからです。取締役会を設置しない会社というのは、実務上、家族経営など比較的規模の小さい閉鎖的な会社が大半です。このような場合には、社会の中での影響力も比較的小さいので、「会社の経営を、わざわざ経営の専門家に一任せず、出資者の意向にしたがっても問題はない。」と考えられ、その結果取締役の決定できる範囲が狭くなったのです。もっとも、このような会社の場合、取締役が会社の大株主であることが多く、事実上、取締役の意向=出資者の意向になっています。

なお、取締役が複数いる場合には、その過半数で決定をするか、決定を特定の取締役に委任することとされています(会社法348条2項3項)

②業務の執行について

各取締役が業務を執行する権限を有するとともに(会社法348条1項)、特段の定めがない限り、各取締役が「会社を代表する」と規定されています(会社法349条1項)。実務では、取締役の中から1人の代表取締役を選定する(会社法349条3項)のが一般的です。会社を代表する者として選定された者のことを、「代表取締役」と呼びます(会社法47条1項括弧書き)。

なお実務では、「代表取締役 社長」とセットで用いられることがあります。ただこの「社長」というのは会社内での肩書きに過ぎず、法律上特別な意味を持ちません。「代表取締役」というのは、代表権を有する取締役という意味で、会社の肩書きと一致するものではありません。

ところで、ここに言う代表する権限(代表権)という言葉は聞きなじみがないかもしれません。会社法では、「株式会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為」(会社法349条4項)をする権限のこととされ、講学上「会社の外部の人との関係での包括的な業務執行権限」のこととされています。荒っぽい言い方になりますが、どちらも「代表権を持った者の行為が、会社の行為と見なされる」ということ、つまり「取締役=会社」という図式になる権限のことを言っていると考えてください。

これまでの話をまとめると、取締役会を設置しない会社では、株主総会が業務執行の決定をした内容にしたがって個々の取締役が実行する、取締役が実行したことが会社の行為とみなされる、といったことになります。

2 取締役会が設置されている場合

取締役会設置会社の場合は、「取締役会が業務執行の決定を行い、それにしたがって選ばれた取締役が実行する」という風に、上記の説明が若干変わります。

①業務執行の決定について

“難しい経営判断は、株主ではなく経営の専門家である取締役に一任しよう”という発想を徹底すると、なるべく多くの事項を専門家である取締役に決めてもらった方が、都合が良いと言えます。特に、比較的規模の大きい会社の場合には、株主が毎回集まって意思決定をするよりも、専門家が迅速に対応した方が、取引の実情に適います。もっとも、このような会社の場合、1つの業務を行うと決定したことは、非常に広範囲の者に影響を及ぼします。そのような事項を取締役個人による独断的な判断がなされると困るので、原則として取締役会という合議体で決定することになります(会社法362条2項1号)。個々の取締役に決定を委ねることもできますが、会社への影響の大きい重要事項については委任できないものとしています(会社法362条4項参照)。

②業務執行について

取締役会で選定された代表取締役、または代表取締役以外で業務執行取締役として選定された者が業務執行することになります(会社法363条1項)。もっとも、対外的な行為は代表権を有する取締役の専属となりますから(会社法349条4項)、例えば取引を行っている会社と契約を締結するといった行為は、代表取締役でないと行うことはできません。

第3 取締役の報酬

1 取締役の報酬を制限する必要性

会社と取締役の関係は、民法の「委任」に関する規定に従うとされています(会社法330条)。そして、驚くことに民法上の「委任」は、無報酬が原則とされています(民法648条1項)。もっとも実務では、取締役がその職務を全うすれば、対価として報酬やこれに代わる財産上の利益を渡す、というのが一般的です。“経営”という専門的で複雑なことを行っているのだから、“タダ働き”はあり得ないという当然の発想に基づくものでしょう。会社法も取締役に報酬が支払われることを前提に、後述するような規定を置いています。したがって、民法上は無報酬が原則となっていますが、取締役が報酬を受け取ること自体には問題はないと言えます。

ただ会社法は、報酬の決定に関しては、一定の手続きを経なければならないという規制を置き、その手続きを経なければ取締役は報酬を受け取ることができないという制度にしました。なぜこのような規制が必要になったのでしょうか。これを紐解くには、会社及び会社の財産と取締役の関係について、おなじみのロボットに例えて考えると良いでしょう。

ロボットを運営する上で必要な資金は、自らまたは第三者が出資してプールされています。パイロットのお給料も一応「ロボットを運営する上で必要な費用」とも言えますので、そのプールされている資金から支払われます。もっとも、本来出資されたお金は、ロボットを製造し、動かすためにプールされているものです。もし何の制限もなく、パイロットにお給料を支払うことができるとすると、ロボットの修理に必要な材料や燃料を買う十分なお金がなくなってしまいます。そこで、パイロットに支払う給料に関して、“縛り”をかける必要が出てきます。

会社法では、事態は一層深刻です。なぜなら、出資されたお金の使い方も取締役が決めることになっている(報酬の支払いも取締役の行う「業務の執行」に含まれる(会社法348条1項、362条2項1号))ので、取締役は自分の報酬を不当に高くすることができてしまうからです。そこで、出資者で組織される株主総会が報酬決定に関与することで、取締役が報酬を自由に決められない仕組みにしました。

2 取締役の報酬の決定方法

会社法361条1項は、以下の事項を、定款に記載するか株主総会の決議で定めなければならないこととしました。

①「報酬等のうち額が確定しているものについては、その額」(1号)

取締役が受け取る額の最高限度額を決めておこうという内容です。

この「報酬等」とは、名目を問わず職務執行の対価として支給される性質のもの全てのことを言います。したがって、定期的に支払われる報酬だけでなく、賞与や退職慰労金(取締役としての職務を辞めるときに、支払われるもの)、さらには弔慰金が「報酬等」にあたる場合があります。

②「報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法」(2号)

報酬として支給する額が確定できない場合には、その算定方法で取締役を制約しようという内容です。取締役は、株主総会の決議で決まった支給基準に拘束されることになります。

③「報酬等のうち金銭でないものについては、その具体的な内容」(3号)

「金銭でないもの」とは、例えば無償または低賃料で社宅を提供する場合だとか、新株予約権を付与する場合(いわゆるストック・オプション)のことを言います。これらの場合にも、最高限度額というものを観念することもできますが、不適切な運営がなされないよう支給されるものの概要をあらかじめ定めなければならないこととしました。

定款の記載か株主総会の決議がなければ、報酬の決定は無効であり、取締役は報酬を請求することはできません。もっとも、出資者が報酬の決定に関与することで“縛り”をかけようという趣旨なので、株主総会の決議が事後的になされた場合になされれば有効となります。また、一度有効なものとして報酬決定がなされれば、それは会社も拘束することになりますから、後から「やっぱ無報酬ね」という株主総会決議をしても、取締役が同意しない限りは報酬決定をなかったことにすることはできません。

以上

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