監査役の職務の全体像

第1 はじめに

コラム「会社の機関」で、取締役が会社や株主の利益を無視して勝手なことをしないように監視する機関だと説明しました。会社をロボット、取締役をパイロットとするならば、監査役はオブサーバーのようなものだいえるでしょう。

ところで「監視する」といっても、常に取締役に張り付いて行動を見張るわけではありません。このコラムでは、法律上監査役がどのような権限・義務を負っているのかを中心に、監査役という職務の全体像について説明します。

第2 監査役の職務

1 監査役の根幹 ~善管注意義務~

監査役は、「善良なる管理者の注意」をもって職務を遂行する義務を負うとされています(会社法330条、民法644条)。これを善管注意義務といいます。この善管注意義務こそが、監査役が会社や株主に対して負っている職務の根幹にあるものです。

ここにいう善管注意義務についてもう少しかみ砕いて説明しましょう。監査役は、株主総会の普通決議によって選任されます(会社法329条1項、309条1項)。つまり、法律上は監査役も、取締役と同様に、出資者である株主から監査という職務を委託された、ということになります。このとき、株主としては、「この人であれば、監査という職務を全うしてくれるであろう。」と期待があるものと考えられます。この期待に応えること、言い換えれば、監査役として要求された職務を怠ることなくキチンとやること、これが善管注意義務の内容です。

上記のとおり、善管注意義務は監査役の職務の根幹をなすものです。したがって、形式的には監査役の職務を行っていたとしても、それが監査役に要求される一般的な水準に達していない場合には善管注意義務違反となり、会社に対して損害賠償義務(会社法423条1項)を負う場合もあります。

2 「オブサーバー」としての職務の内容

ここからは、「オブサーバー」としての具体的な職務の内容について説明しましょう。監査役の職務は大きく分けて、①会社経営の監査・調査②監査結果の報告・意見表明③不正行為の予防・是正の3つに分類することができます。

①会社経営の監査・調査

監査役の職務の中核となるのが「監査」です(会社法381条1項)。ここにいう監査とは、一般的に「業務監査」と「会計監査」の2つを含むものと説明されています。「業務監査」とは、取締役の職務の執行が法令・定款を遵守して行われているかどうかをチェックすることをいいます。「会計監査」とは、計算書類等が会社の財務状況を正しく表示しているかをチェックすることをいいます。

監査役が「監査」という職務を全うするためには、監査役が取締役の職務を把握していることが必要です。そこで会社法では、監査役が取締役の職務遂行に関する情報を把握しやすい制度設計をしています。まず、監査役は、いつでも取締役に対して事業の報告を求めたり、自ら会社の業務・財務状況を調査したりする権限を有しています(会社法381条1項前段)。取締役は、正当な理由がなければ監査役の報告請求・調査を拒むことはできず(会社法381条4項)、さらに会社に「著しい損害を及ぼすおそれのある事実があることを発見したとき」は監査役に報告しなければなりません(会社法357条1項)。

その一方で、監査役は、「監査」の一環として、取締役会に出席すること(会社法383条1項本文)、取締役と意思疎通・情報交換を図るよう努めること(会社法施行規則105条2項参照)が義務づけられています

②監査結果の報告・意見表明

取締役が自ら是正したり株主が会社の経営状況を把握したりするためには、監査の結果を知ることが重要となります。そこで会社法では、監査の結果を伝達することも監査役の職務として定められています。まず監査役は、監査の方法や内容、事業の適法性など監査の結果を記載した監査報告を作成しなければなりません(会社法381条後段、会社法施行規則129条1項参照)。そして、必要があるときには取締役会での意見表明(383条1項本文)や株主総会での説明(会社法314条)が義務づけられています。また、取締役の不正行為等を発見したときは取締役・取締役会に対して(会社法382条)、株主総会の議案・書類の法令・定款違反を発見したときは株主総会に対して(会社法384条)報告することも義務づけられています。

③不正行為の予防・是正

監査の結果、取締役の法令・定款違反等の不正な行為を発見したときは、上記のとおり、まずはこれを報告して自ら是正するよう求めます。それでも不正な行為を予防・是正することができなかった場合には、監査役は、取締役に対して当該行為の差し止めを請求する(会社法385条1項)などの是正措置をとることができます。また取締役が会社に損害を与えた場合には、監査役が会社を代表して取締役を訴えることもできます(会社法386条)。

以上

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