会計監査の方法
第1 はじめに
監査役が設置された会社(会計監査人を設置した場合を除く。以下、同じ。)では、監査役による会計監査が義務づけられています(会社法436条1項)。「会計監査」とは、計算書類等が会社の財務状況を正しく表示しているかをチェックすることをいいます。
このコラムでは、具体的にどのような書類を、どのようなことに注意してチェックをすればよいのかを説明します。なお監査役の他の業務に関しては、コラム「監査役の職務の全体像」、コラム「業務監査の方法」を参照してください。
第2 会計監査の対象
1 会社法上の規定
ず会計監査の対象になるのは、「計算書類」とよばれるものとその付属明細書です(会社法436条1項参照)。ここにいう計算書類とは、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、および個別注記表のことをいいます(会社法435条2項、会社計算規則59条1項)。
配可能額を増やすために用いられる臨時決算(会社法461条2項2号イロ、5号参照)を行った場合、「臨時計算書類」(臨時貸借対照表、臨時損益計算書のことをいう(会社法441条1項、会社計算規則60条)。)も会計監査の対象になります(会社法441条2項)。
グループ企業全体の財務状況を示す「連結決算書類」(連結貸借対照表、連結損益計算書、連結株主資本等変動計算書、連結注記表のことをいう(会社法441条1項、会社計算規則61条)。)が作成された場合には、連結計算書類も会計監査の対象になります(会社法444条4項)。
2 その他の監査対象
直接の根拠規定はありませんが、上場会社など一定の会社の場合には、上記書類の他に監査役が監査しなければならないと解されている書類があります。
金融商品取引法では、投資家の投資判断に資するために、一定の会社に対して、有価証券報告書、内部統制報告書、四半期報告書などの作成、開示を義務づけています(金融商品取引法24条以下参照)。これらの書類は、取締役が作成することから、監査役は当然にこれらの書類の監査をしなければならないと解されています。
これと同様の理由で、証券取引所の規則により作成される年度および四半期の決算短信についても監査役が監査しなければならないとされています。
第3 会計監査のポイント
会計監査について、会社法や会社計算規則では、会計監査人の有無によって異なる規定ぶりをしています(会社法436条1項2項、会社計算規則122条1項2号、会社計算規則126条1項2号、127条2号など参照)。このことから、会計監査人の有無によって、監査役のやるべきことが異なってくると考える人もいるかもしれません。
しかし、計算書類等というのは、取締役が職務上作成するもの(会社法435条1項2項、441条1項、444条1項)であると同時に、取締役による業務執行の結果を会社の財産・損益の変動という側面から表示するものです。そうすると取締役の業務執行を監査する職責を負う監査役(詳しくはコラム「監査役の職務の全体像」参照)としては、業務執行の結果を投影した計算書類等も当然チェックしなければならないと言えるでしょう。したがって、監査役は、会計監査人の有無にかかわらず、業務監査によって把握した情報(コラム「業務監査の方法」参照)などに基づき、計算書類等が会社の財産・損益の状況を適正に表示しているかを検証しなければならないと考えられています。
- ※会計監査人の有無による実質的な違い
上記で紹介した会計監査人の有無によって異なる規定というのは、実質的には以下の2つを意味することになります。
- ① 会計監査人がいる場合、監査役は、会計監査役が行う会計監査の方法・結果が相当であるかもチェックする
- ② 会計監査人がいる場合、監査役は、監査報告として①の結果と意見のみを明らかにすれば足りる。
以上