取引先の信用情報の取得

第1 はじめに

債権回収を図る上で最も重要なことは、取引の交渉段階から、契約締結、取引の開始、債権の回収に至るまでの全ての段階で、取引先の情報を把握しておくことです。ここにいう取引先の情報とは、取引を実施する能力はあるのか、資金繰り・財産状況に不安はないか、を判断するのに必要な情報のことを指します(以下、「信用情報」という。)。もし仮に信用情報の内容から取引先の支払いに不安があるようなら、取引の交渉を打ち切ったり、取立てを行ったりと早期に対応することが求められることになります。

信用情報としてよく用いられるのが、不動産の登記簿と取引先の商業登記簿です。以下、各登記簿の見方と取得方法を説明します。また登記簿以外の信用情報についても紹介します。

第2 不動産登記簿について

1 不動産登記簿を取得する意味

取引先(債務者)の所有する財産の中で最も価値が高いものの代表は、土地や建物といった不動産です。後述するように、不動産登記簿には財産状況を知る上で重要となる様々な情報が含まれており、そこから“どのような相手と取引をしているのか”“資金繰りに困っていないか”などを推測することができます。したがって、債務者の信用情報を獲得するという点では、債務者所有の不動産の登記簿を確認することは大変重要となります。

2 不動産登記簿の取得方法

不動産登記簿の取得方法は、以下の4つがあります。なお、近年では登記情報の電子化に伴い、登記簿ではなく「登記事項証明書」と呼ばれることがありますが、同じものだと考えていいでしょう。

  1. ①管轄法務局で取得する
    調べたい不動産の所在地を管轄する法務局に行って、申請書を提出して取得する方法です。管轄の法務局は、法務省法務局で確認することができます。
  2. ②郵送で取得する
    管轄の法務局まで行くのが大変であれば、郵送によって申請することができます。この場合、お近くの法務局で申請書、登記印紙を入手して、これらを返信用封筒(切手つき)と一緒に上記管轄法務局に郵送します。
  3. ③最寄りの法務局で取得
    登記情報を電子化している法務局間においては、他の法務局が管轄している不動産登記簿も取得することができます。これを「不動産登記情報交換システム」と呼びます。お近くの法務局と管轄法務局がこのシステムを導入しているのであれば、お近くの法務局で①の方法により不動産登記簿を取得することができます。
  4. ④オンラインで取得する
    「登記情報提供サービス」(http://www1.touki.or.jp/gateway.html)を利用すれば、オンライン上で不動産登記簿を取得することができます。但し、申請者情報の登録などの手続きが必要なので、パソコンの使用に慣れていない方にはおすすめできません。
    また法務局が交付してくれる書面には、「全部事項証明書」「現在事項証明書」「閉鎖事項証明書」など種類があります。信用情報という点では、後述するように取引先の取引履歴を知りたいので、過去の履歴も見ることができる共同担保目録付の「全部事項証明書」というものを取得しましょう。

3 不動産登記簿の見方

不動産登記簿で特に注意して確認すべきなのは、「権利部」の欄です。「権利部」には、「甲区」と「乙区」があります。以下、それぞれについて注意点を説明します。

(1)「甲区」について

「甲区」には、所有権に関する事項、すなわち“その不動産が誰の物か”が記載されています。「仮登記」というものがなされている場合、今後所有権が移転する可能性があることを示します。したがって、甲区を見て、その不動産が本当に債務者所有の物なのか、他人の物になる可能性があるのかを確認しましょう。

またその不動産に差押えや仮差押えがなされると、「甲区」に記載されます。差押えがなされるということは、その差押えをなした債権者が「当該不動産を売却して、債権の回収を図る」という方法を選択したことを意味します。そして、このようなことから、債務者が資金繰りの困難な状況にあることを推測することができます。したがって、「甲区」を確認する際には、差押えがなされているかも注意しましょう。

なお建物の場合には、その建物の所有者と土地の所有者が同一であるかも確認しましょう。仮に借地の上に建てられたものだとすると、建物の価値が安く算定される可能性があるからです。

(2)「乙区」について

「乙区」には、所有権以外の権利に関する事項が記載されています。注目すべきは、“担保権(抵当権や根抵当権)が.設定されているか”という点です。担保権が設定されていれば、「乙区」に債務の額や債権者(担保権者)も記載されるので、当該不動産を担保とする債権者が他にどのくらいいるのか、債務者が他にどれくらい債務を負っているかを推測することができます。

他にもこの「乙区」の記載からは、「乙区」の記載から、財産状況を推測することもできます。例えば、①債権者が聞き慣れない金融機関である、または②最近複数の金融機関から借入が行われている、といった場合には、資金繰りが苦しくなっている可能性が高いです。また、③「共同担保」という記載がある場合には、その不動産と一緒に別の不動産にも担保権を設定したことを意味しますから、「共同担保目録」を手がかりにして、債務者が所有する他の不動産がないかを確認することもできます。

第3 商業登記簿について

1 商業登記簿を取得する意味

債務者が会社の場合は、商業登記簿も信用情報として大きな意味を持ちます。というのも、商業登記簿には会社の商号、本店所在地、会社成立年月日、目的、資本金の額、役員に関する事項など会社の概要を示す情報が詰め込まれているからですます。

2 商業登記簿の取得方法

商業登記簿の取得方法は、以下の3つがあります。なお、近年では登記情報の電子化に伴い、商業登記簿ではなく「登記事項証明書」と呼ばれることがありますが、これも不動産登記簿の場合と同様に、同じものだと考えていいでしょう。

  1. ①管轄法務局で取得する
    法務局に行くと申請書があります。この申請書に必要事項を記入して、登記印紙を貼付の上、提出すれば商業登記簿謄本を入手することができます。
  2. ②郵送で取得する
    何度も法務局まで行くのが大変であれば、郵送によって申請することができます。この場合、あらかじめ法務局で申請書、登記印紙を入手しておき、これらを返信用封筒(切手つき)と一緒に同封して、法務局に郵送します。
  3. ③オンラインで取得する
    「登記情報提供サービス」(http://www1.touki.or.jp/gateway.html)を利用すれば、商業登記簿も取得することができます。

3 商業登記簿の見方

以下、商業登記簿上注意して確認すべき点を列挙します。

(1)「商号」

「商号」とは、会社の名称のことを言います。

まずは商号の欄を見て、①債務者が称している会社の商号と登記簿上の商号が一致するか、②商号に変化がないかを確認しましょう。商号が違っていたり商号が何度も変化していたりする場合には、何らかのトラブルを抱えている可能性があります。この場合には、債務者にその理由を確認して、納得できる理由でない場合には取引を中止した方がいいでしょう。

(2)「本店所在地」

「本店所在地」とは、個人で言えば本籍地のことを言います。

ここでは本社所在地として登記されている場所と、相手方が本社と称している場所とが一致するかを確認しましょう。一致しないからといって直ちにトラブルがあるわけではありませんが、商号の場合と同様に、債務者に確認をとるといいでしょう。

(3)「目的」

「目的」とは、会社がどのような目的で設立されたのかを示すものです。

法律上、会社は設定された「目的の範囲内」でのみ事業活動をすることができるとされています(民法34条参照)。言い換えれば、「目的」の範囲外の行為は法律上許されないとして無効になる可能性がある、と言えます。したがって、取引を開始する前に、その取引が、債務者である会社の「目的の範囲内」であるかを確認しておきましょう。

なお実務上は、「その他これに関連する事業」という幅のある書き方をしていることが一般的です。「目的」欄に具体的に列挙された事由と「関連する」かどうか判断が難しい場合には、債務者にこの取引を行おうと思った経緯や意図を確認してみるといいでしょう。

(4)「資本金の額」

「資本金」とは、いわば債権者のために、会社に最低限プールされている資金のことを言います。「資本金」の額が多ければそれだけ財産がある可能性が高いです。もっとも、「資本金」の額が少なくても資金が潤沢にある会社もありますので、あくまで1つの目安だと考えてください。

なお「資本金」の額は、株主総会の決議で増減することができます(会社法447条1項2項、450条1項2項参照)。このうち、「資本金」の額が減少する理由として、「資本金」として資金をプールしておく余裕がないほどに財産状況が悪化している、ということが考えられます。したがって、「資本金」の額の変化には注意をしておく必要があるでしょう。

(5)「役員に関する事項」

役員として選任された者は、会社法上登記しなければなりません(会社法911条3項13号~22号参照)。したがって、まずは契約書の記載や契約交渉過程で相手方の代表者とされている者と、登記に記載された代表取締役の氏名とが同一であるかを確認しましょう。一致しないからといって直ちにトラブルがあるわけではありませんが、商号の場合と同様に、債務者に確認をとるといいでしょう。

次に、役員の変更の頻度を確認しましょう。役員、特に会社の顔とも言える代表取締役が頻繁に変更する会社は、会社内部にトラブルを抱えている可能性があるからです。

さらに、場合によっては、代表取締役から債権相当額のお金を回収することもあることから、代表取締役の財産状況を調査しておくといいでしょう。代表取締役については、住所も登記に記載されていますから、例えば、自宅住所を訪問して暮らしぶりをみる、不動産登記簿をみるなどの方法が考えられます。

第4 その他の信用情報の取得方法

1 債務者その他関係者から直接入手する

まず自分(または自社)が蓄積している債務者の情報が挙げられます。例えば、“以前と比べると、支払いが遅れるようになった”という記録は、債務者の資金繰りが苦しくなってきていることを示す1つの有力な情報となります。

債務者から信用情報を引き出す、という方法もあります。1番単純なのが、債権者(法人の場合はその代表者)との面談・電話によって話を聞く方法です。また、仮に債権者と面談できなくても、従業員など関係者の話やオフィスの状況などからも資金繰り、財産状況を推測することができます。

さらに、債務者が株式会社であれば、債権者は計算書類の閲覧及び謄本の交付を請求することができます(会社法442条3項参照)。

ただし、以上の取得方法は、全て「債務者が、信用情報をキチンと開示してくれる」ことを前提にしています。債務者としては、資金繰りが苦しいなど自己に不利になりかねない情報を積極的に開示してくれるとは限りませんし、計算書類等に関しては「粉飾決算」をする可能性もあります。したがって、債務者の財産状況については、債務者から取得した情報以外のものとあわせて判断すると良いでしょう。

2 調査機関を利用する

「自ら情報を取得して判断をする」という方法は、債権者が「この会社は大丈夫」あるいは「資金繰りが悪いのではないか?」といった先入観をもって行う場合があることから、取引先の信用情報に関する評価を誤るおそれがあります。そこで第三者の立場からみた中立的・客観的な視点・判断を得るために、信用調査会社などの調査機関を活用するといいでしょう。債権者自ら調査する場合と比べて費用はかかりますが、調査機関には多様な情報収集のノウハウと分析力を有していることから、大変重要な判断材料をもたらしてくれることが多いです。

以上

まずは弁護士事務所へお気軽にご相談ください!

  • さいたま大宮 048-662-8066 対応時間.9:00~21:00
  • 上野御徒町 03-5826-8911 対応時間.9:00~21:00

法律相談は、すべて当事務所にお越しいただいた上で実施いたします。
電話での法律相談やメールでの法律相談はいたしかねますので、あらかじめご了承ください。
また、初回の法律相談のお申し込みは、すべて、お電話またはご相談申込フォームからお願いいたします。

ページ先頭へ