民事保全の手続②-保全執行手続

第1 はじめに

民事保全の手続は、保全命令手続と保全執行手続の2段階で構成されています。

コラム「民事保全の手続①-保全命令手続」で、主に保全命令手続について説明しましたので、引き続き今回のコラムでは、保全執行手続について説明します。

第2 保全執行手続の開始

保全執行手続は、保全命令手続で出された保全決定の内容を具体的に実現する手続です。たとえば、不動産の仮差押えの保全命令が出たとして、いかにして仮差押えを実行するかについて規定されてる手続です。

保全執行手続も、保全命令手続同様、申立てによって開始されます(民事保全法2条2項)。たとえば、仮差押えの保全命令が出されたとしても、自動的にその手続が進むわけではなく、債権者としては、別途仮差押命令を実行する手続すなわち執行の申立てが必要になります。

なお保全命令送達から2週間経つと、保全執行をすることができなくなってしまいます(民事保全法43条2項)。この2週間の期間を「執行期間」と呼びます。保全命令が出たことを無駄にしないためにも、確実に執行の申立てをするように注意しましょう。

第3 仮差押えの執行

仮差押えの執行は、民事執行法上の差押えの手続に準じます(民事保全法47条以下)。

すなわち、不動産の仮差押えは仮差押えの登記を裁判所書記官が嘱託する方法により(民事保全法47条)、動産の仮差押えは執行官が目的物を占有する方法により(民事保全法49条)、債権仮差押えは第三債務者に弁済を禁止する方法により(民事保全法50条)、行われます。

第4 仮処分の執行

1 占有移転禁止の仮処分

占有移転禁止の仮処分の執行は、執行官が債務者の目的物に対する占有を解き、保管するとともに、占有移転が禁止されていることと執行官が目的物を保管していることを公示する方法によって行われます(民事保全法52条、民事執行法168条、169条)。具体的な公示方法としては、建物の占有移転禁止の仮処分であれば、屋内の場合は両面テープで貼り付け、屋外の場合は公示札を杭に打ち付けて立てるなどの方法がとられています。

2 不動産の登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分

この仮処分については、執行として①「処分禁止の登記」のみがなされる場合(民事保全法53条1項)②「処分禁止の登記」に加えて「保全仮登記」がなされる場合(民事保全法53条2項)があります。

①処分禁止の登記のみがなされる場合

「不動産の所有権に関する登記請求権」と「所有権以外の権利の移転または消滅に関する登記請求権」を被保全権利とする仮処分では、処分禁止の登記のみがなされます。

処分禁止の登記がなされると、この登記に後れる登記は、仮処分債権者が本案の勝訴確定判決を取得するなどすればすべて抹消できることになります(民事保全法58条1項、2項)。ただし、抹消される登記の権利者に対しては、あらかじめ通知をする必要があります(民事保全法59条)。具体例をあげると、債権者Aが債務者Bから土地を購入したけれどなかなか引き渡してくれないため、Bが第三者に二重に土地を売却するのをあらかじめ防ごうと、所有権移転登記請求権を保全するために処分禁止の仮処分をしたとします。その後、Bが第三者Cに二重に土地を売却して所有権移転登記をしたとしても、Aが本案訴訟に勝訴すれば、処分禁止の登記に基づいてCへ移転した所有権移転登記は抹消されます。ただし、事前にCへの通知が必要になります。

②処分禁止の登記と、保全仮登記の両方がなされる場合

「所有権以外の権利の保存・設定・変更についての登記請求権」を被保全権利とする仮処分では、処分禁止の仮処分の登記と保全登記が併用されます(民事保全法53条2項)。こちらも具体例をあげておきます。債権者Aが債務者BとB所有の土地に抵当権設定契約をしました。しかし、Bはなかなか抵当権設定登記をしてくれません。そうこうしている間にBが土地を第三者Cに売却して登記を移してしまうと、Aの抵当権設定登記ができなくなってしまいます。そこで、Aは自らの抵当権設定登記請求権を被保全債権として、処分禁止の仮処分を申し立てました。このような場合、被保全権利である抵当権設定登記請求権は「所有権以外の権利の設定についての登記請求権」ですので、処分禁止の登記と保全仮登記の両方が必要となります。

ただ、①と②の区別は難しいですし細かい話なので、こういう区別をする必要があるということだけ知っておいてください。

3 建物収去土地明渡請求権を保全するための建物の処分禁止の仮処分

この仮処分の執行についても、登記請求権保全のための処分禁止の仮処分と同様に、建物について処分禁止の登記をする方法によって行われます(民事保全法55条1項)。

この仮処分をしておくことによって、債務者が建物所有権を第三者に移転したとしても、新たに第三者に対する債務名義を取得する必要はなくなり、債務者に対する債務名義で第三者に対して強制執行をすることができます。具体例をあげると、仮処分債権者が、建物の所有者を被告とした建物収去土地明渡請求訴訟に勝訴すると、建物が第三者に売却されていたとしても、その第三者に対する承継執行文(民事執行法27条2項)を得た上で、新たな債務名義を取得することなく建物収去土地明渡の強制執行が可能になります(民事保全法58条2項)。

4 仮の地位を定める仮処分

コラム「民事保全の基礎」で簡単に説明しましたが、仮の地位を定める仮処分は、権利関係の種類に応じて非常にたくさんの類型があります。ですので、その執行方法についても個々の仮処分によって異なります(民事保全法52条)。そこで、その中でも代表的なものについていくつか説明したいと思います。

まず、本執行と同じ保全執行が行われる場合があります。これを満足的仮処分と呼びます。たとえば、解雇無効を主張した従業員は、地位保全及び賃金支払の仮処分命令が出されると本案で勝訴したのと同じように、会社でも働けるし、賃金の支払も受けることができます。会社が賃金支払の仮処分に応じない場合、仮処分命令が債務名義とみなされて(民事保全法52条2項)、民事執行法における金銭執行が最後の段階までできることになります。

次に、物の引渡しや明渡し、建物収去などの作為請求権を満足させる仮処分が行われることがあります。これを断行の仮処分といいます。たとえば、物の引渡しの断行の仮処分が執行されると、本案訴訟では、自分が物を占有しているのに、債務者に対して物の引渡請求という形で訴訟を進行させていくことになります。非常に違和感があると思いますが、仮処分はあくまで「仮の状態」なので、本案訴訟ではそのことは考慮されずに訴訟が進行していくことになります。

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