強制執行手続の開始

第1 はじめに

執行文が付与された債務名義の正本が入手できたら、いよいよ強制執行の開始を求めて申立てをすることになります。

そこで、今回のコラムでは、債務名義と執行文の他に、強制執行を開始するのに必要なことについて触れていきたいと思います。

また、請求異議の訴えや第三者異議の訴えにも簡単に触れます。

第2 強制執行開始のために必要なこと

1 債務名義等の送達

強制執行を開始するには、債務名義の正本又は謄本が債務者に送達されていなければなりません(民事執行法29条前段)。判決については職権で送達されますので(民事訴訟法255条)あらためて債務者に送達する必要はありません。一方で、和解調書や執行調書は職権では送達されないので、債権者が裁判所書記官や公証人に申請して債務者に送達してもらうことが必要です。

条件成就執行文や承継執行文が付与された場合も、これらの執行文とその付与過程で債権者が提出した文書の謄本も送達する必要があります(民事執行法29条後段)。

2 確定期限の到来

「●年●月●日が来たらお金を支払え」というように、確定期限が到来した場合に権利行使ができるという内容の債務名義の場合、執行機関が審査をします(民事執行法30条1項)。不確定期限については執行文付与の段階で審査をするのですが(民事執行法27条1項、コラム「債務名義と執行文の付与」参照)、確定期限については執行機関が判断します。確定期限は到来したかどうかが明白であり、執行文付与の段階であらかじめ審査しておく必要性がないからです。

3 担保の提供

担保を立てることで仮執行ができるとの宣言を付された判決というものがあります(民事訴訟法259条1項、「仮執行宣言付判決」といいます。)。この場合、債権者が担保を立てたことを証明する文書を提出することで強制執行が可能になります(民事執行法30条2項)。単に担保を立てたことを証明すればいいのではなく、文書の提出が必要です。たとえば、供託書、支払保証委託契約証明書などを執行機関に提出することになります。

4 反対給付の履行

債務名義には、債権者の反対給付と引換えに、債務者がしなければいけない給付を定めているものがあります。たとえば、「被告は、原告に対し、原告から500万円の支払を受けるのと引換えに、別紙物件目録の建物を明け渡せ」という主文の判決などがあげられます。この場合、債権者はその反対給付の履行または提供を証明したときに限り、強制執行を開始できます(民事執行法31条1項)。さきほどの例でいうと、債権者が債務者に500万円を支払ったことを証明する必要があるのです。証明の方法に特に制限はないので、上記「3? 担保の提供」のように文書の提出に限定されていません。

5 他の給付の執行不能の証明

代償請求という請求の形態があります。どういうものかというと、たとえば、以下のような主文の判決です。

「1 被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の自動車を引き渡せ。

2 前項の執行が目的を達しないときは、被告は、原告に対し、200万円を支払え」

という主文の判決です。このような判決が出た場合、200万円の請求について強制執行ができるのは、自動車の引渡執行ができない場合に限られます。ですので、債権者は自動車の引渡執行が不能に終わったことを証明して初めて200万円の請求について強制執行を開始できることになります。ここでも、上記「4 反対給付の履行」と同じく証明の方法に特に制限はないので、文書の提出に限定されているわけではありません。

第3 請求異議の訴え

これまで債務名義・執行文の付与があって強制執行を開始するためにはどうすればいいかを見てきました。では、債務名義はあるけれど、請求権が実際にはない場合に強制執行の申立てをするとどうなるのでしょうか。たとえば、「被告は、原告に100万円支払え。」という主文の判決が出た後に、債務者が100万円を支払ったにもかかわらず、債権者が手元に債務名義である確定判決があるのを悪用して強制執行の手続をした場合です。

この事例では、債務者は「100万円はもう支払ったから、債権者は強制執行できないはずだ」と主張したいと思います。そのような場合は、請求異議の訴え(民事執行法35条1項前段)を提起して、債務名義はあるけれど債権者の権利はないので強制執行は許されないと主張することになります。

どのような場合に請求異議の訴えが認められるかは、いくつものパターンがあるのでここでは詳しく触れません。重要なのは、仮に債務者の立場になった場合、債権者から不当執行されそうになったとしても、執行機関に申し出るというような簡易な方法では執行の停止は認められず、訴えを提起する必要があるということです。

第4 第三者異議の訴え

債権者が債務者に強制執行をする場合、迅速に手続を進める必要がありますが、強制執行の対象となる財産が債務者の財産か否かは債務者本人以外には簡単にはわかりません。そこで、強制執行手続では、登記、占有、債権者の陳述など一定の外形的事実を目印に強制執行をしてもいいことになっています。しかし、そのようにして行った強制執行は、実際の権利関係と一致せず、第三者の財産に対して強制執行してしまうということがありえます。

そのような場合、当該物件の真の所有者が債権者に対して、「それは私の物で債務者の物ではないから、強制執行やめてください。」と主張することになります。これが第三者異議の訴え(民事執行法38条)です。

強制執行をする場合には、対象をしっかり確認し第三者異議の訴えなどを起こされないようにしましょう。

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