債権執行②

第1 はじめに

コラム「債権執行①」で、債権執行の流れと、差押えの際に問題となる点について説明しました。引き続き、今回のこのコラムでは、債権執行の手続のうち、換価と債権者が満足を得るまでの流れについて説明していきます。また、債権以外の財産権に対する強制執行についても少し触れます。

<AがBのCに対する債権を差押えするケース>

債権執行

債権者A

債務者B

第三債務者C

請求債権α

被差押債権β

第2 換価の段階、及び満足の段階

債権執行の場合、②換価と③満足の境目があいまいなので、一緒に説明します。

債権執行における換価・満足の方法には、大きく分けて4種類あります。すなわち、①供託された場合コラム「債権執行①」の「5 第三債務者の供託」を参照)、②債権者が自ら取り立てる場合③転付命令を取得する場合④その他の場合、の4種類です。以下、それぞれについて詳しく説明します。

1 供託された場合

第三債務者によって供託がされた場合は、執行裁判所が、債権者に対して、供託された金銭を配当することになります(民事執行法166条1項1号)。配当等の実施については、不動産の強制競売の規定が準用されることになりますので(同条2項)、強制競売と同じような流れをとることになります。詳しくは、コラム「不動産執行」を参照してください。

2 債権者が自ら取り立てる場合

債権者が自ら取り立てる場合には日常行われている「通常の取り立て」の方法と、「取立訴訟」による方法とで2種類あります。

(1)通常の取り立て

債権者は、債務者に対して差押命令が送達された日から1週間経過したときは、被差押債権について第三債務者から直接取り立てることができます(民事執行法155条1項本文)。ただし、取立てができるのは、執行債権と執行費用の額の範囲内に限られます(同項ただし書)。債権者が第三債務者から支払を受けたときは、その限度で執行債権が弁済されたものとみなされます(民事執行法155条2項)。

まとめると、①執行裁判所による債務者・第三債務者への差押命令の送達、②債務者への送達から1週間経過で取り立て可能、という流れで債権を回収することになります。

(2)取立訴訟

第三債務者が債権者の通常の取り立てに応じなかった場合、債権者は第三債務者を被告として訴えを提起することができます(民事執行法157条1項)。これを取立訴訟と呼びます。

3 転付命令を取得する場合

(1) 転付命令とは

執行裁判所は、債権者の申立てにより、支払に代えて被差押債権を債権者に移転する命令を発することができます(民事執行法159条1項)。これを転付命令といいます。簡単にいうと、転付命令とは裁判所の命令で強制的に債権譲渡がなされるようなものです。

実務上は、差押命令と転付命令を同時に申立て、同時に発せられることが多いです。

(2) 取立てとの違い

転付命令と取立てとの違いで、重要なものが大きく2つあります。

まず1つ目が、他の債権者を排除できるかという点です。

債務者について他にも債権者がいた場合、取立てでは配当等の手続で他の債権者にも被差押債権が分配されることになります。一方で転付命令の場合は、被差押債権自体が債権者に移転しますので、他に債権者がいても影響を受けません。

2つ目が、債権者が第三債務者の無資力の危険を負うか否かです。

取立ては、単純に第三債務者からも執行債権の回収ができるようになるに過ぎません。したがって、第三債務者から執行債権の全部について回収することができなかった場合には、債務者の他の財産から債権回収を図ることができます。これに対して、転付命令は、債務者による執行債権の「支払に代えて」、債務者の有する被差押債権を債権者が取得する手続です(民事執行法159条1項参照)。転付命令によって執行債権は弁済されたものとみなされるため(民事執行法160条)、仮に債権者が第三債務者から債権回収を図ることができなかったとしても、債務者に対して支払いを求めることはできないことになります。

これらの違いを認識した上で、取立てをするのか、転付命令を取得するのかを判断する必要があります。たとえば、第三債務者が銀行のように十分な資力があり、支払ってもらえる可能性がある場合には、他の債権者を排除できる分転付命令を取得するべきです。これとは別に、債務者について他に債権者がいないときは、転付命令を取得して第三債務者の無資力の危険を負う必要はありませんから、取立てによればいいということになります。

(3)被差押債権に債権譲渡禁止特約が付いていた場合

転付命令とは裁判所の命令で強制的に債権譲渡がなされるようなものなので、債権譲渡特約が付いていても転付命令が認められるのかが問題になります。最高裁昭和45年4月10日判決は、被差押債権に譲渡禁止特約が付いていても、差押え・転付命令は有効であると判断しました。その理由は、これを認めないと、債権譲渡禁止という私人間の意思表示で強制執行を免れることができてしまうからです。

4 その他の場合

上記以外の換価・満足の方法としては、民事執行法161条1項が以下のような方法を規定しています。

・被差押債権を執行裁判所が定めた価額で支払に代えて差押債権者に譲渡する命令(譲渡命令)

・取立てに代えて、執行裁判所の定める方法によりその債権の売却する命令(売却命令)

・管理人を選任してその債権の管理を命ずる命令(管理命令)

・その他相当な方法による換価を命ずる命令

第3 被差押債権が動産の引渡請求権の場合

債権者は、債務者が第三債務者に対して動産の引渡請求権を持っていれば、債権執行としてそれを差押えることができます。たとえば、債務者が第三債務者から物を買って、債務者が第三債務者に代金を払ったのにまだ品物を受け取っていないときなどです。このような場合、第三債務者が動産を執行官へ任意に提出してくれるようなら動産執行を行うことも可能ですが、第三債務者が提出を拒む場合には、引渡請求権の差押えという方法をとらざるを得ません。

執行の流れとしては、債権者は、第三債務者から執行官に対して、その動産を引き渡すべきことを請求することができることになっています(民事執行法163条1項)。金銭執行と同じような流れですが、債権者自身への引渡しを請求することができない点が、金銭債権の場合(民事執行法155条)の場合と異なります。

以上

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