取引先の信用状況の把握

第1 はじめに

コラム「取引先の倒産に備えるための平時の対応」では、取引先が倒産に至っても債権の回収をできるだけ多く図るため、平時にどのような対応をとるべきか説明しました。今回のコラムでは、もう一歩進んで取引先の経営状態が危ない、つまり信用不安の場合にとるべき手段について説明したいと思います。

第2 取引先の状況を把握する

1 まず巻き込まれないことが大事

取引先が信用不安に陥ってしまった場合の最悪のシナリオが、

取引先が倒産してしまった → 取引先からの債権が回収できずにこちらも倒産してしまった、

という連鎖倒産です。また、取引先が信用不安に陥った場合、倒産にまで至らなくても、回収できない債権が出てきてしまうことはよくあることです。そこで、一番大事なのは、取引先の信用不安に巻き込まれないことだといえるでしょう。

遠目に見ていると突然倒産したように見える会社も、よくよく見ていると資金繰りに窮しているという何らかのシグナルが出ていることが普通です。たとえば、売掛債権その他の資産の譲渡が行われた、不自然な取締役の交代が行われた、大量の内定取消が行われた、等はそのシグナルの一例といえるでしょう。

このような場合には、これから債権回収方法やこれからの取引の継続について検討するなどし、取引先の信用不安に巻き込まれないよう対策を講じる必要が出てきます。

2 信用不安の状況把握

債権回収は「先手必勝」といえる場合も多く、取引先の信用不安を直ちに把握することは、債権回収活動の中でも重要なものといえます。そこで、会社が取引先の信用不安を把握するための手段として考えられるものをあげたいと思います。

(1) 会社内部の情報源

①取引情報の記録

まず、もっともアクセスが容易なのは、取引に伴い会社内部に蓄積されている情報です。たとえば、支払いの延滞や、延滞がどれくらい継続しているかの記録などがあげられます。現実問題として、この手段によって取引先の信用不安を把握することが多いといえるでしょう。

②取引先とのやりとり

取引先との面談や電話等による接触によっても、信用不安の情報が得られることがあります。直近の債務者の状況や財務内容に限らない債務者の状況など広い情報収集が可能となります。ただし、取引先が自己に不利な情報を積極的に開示するとは限らないため、情報の信用性には注意が必要といえるでしょう。

(2) 会社外部の情報源

①決算書

会社外部の情報源としてもっとも重要性の高いものが取引先の決算書です。決算書は取引先の財務状況が客観的かつ詳細に記載されており、過年度のものと合わせて分析することによって財務状況が理解できます。信用不安の兆候はないか、あるとしたら本業の不振なのか、本業以外の不動産取引の失敗なのか等の把握もできます。

決算書を分析するにあたり気をつけてほしいのは、決算書は重要な情報源ではありますが、詳細な内訳を確認せずに決算書だけの数字から情報を引き出すことには限界があります。また、あくまで取引先自身が作成するものなので、粉飾の可能性はゼロではないということです。決算書だけを信用しすぎて他の情報に目をくれず、実は粉飾決算だったなどということにならないよう注意が必要です。

②不動産登記情報

取引先の不動産に登記上の動きがないかを確認することは信用不安の状況把握のために意味があります。たとえば、差押えの登記がなされていれば債務者に債務不履行が生じている可能性が高いことがわかります。また、租税債務に係る滞納処分に基づく差押え登記がなされていれば相当額の納税をしていないことがわかりますし、抵当権や根抵当権などの担保権の登記がなされていれば、財務状況に問題があって担保を設定したとも考えられます。ただし、担保権の設定については新事業の資金調達のためになされることもありますので、直ちに信用不安に結びつくわけではないので注意が必要です。

なお、登記情報については誰でも情報を確認することができます。不動産登記について詳細は「取引先の信用情報の取得」というコラムに記載されていますので、そちらを参照してください。

③債権譲渡登記・動産譲渡登記

債権や動産の譲渡も財務状況が悪化したときに行われることがあるので確認する意味があります。ただし、債権や動産の譲渡も抵当権の登記と同様に、資金調達の多様化のためや有利子負債の圧縮のためなど様々な目的で行われることがありますので、直ちに信用不安に結びつくわけではありません。

④商業登記

商業登記を確認することで、取締役の交代はあったか、増資・減資はされていないか等が確認できます。これらも直ちに信用不安に結びつくわけではありませんが、少なくとも、取引先の信用不安を精査する端緒にはなるでしょう。

なお、ごくまれに債権者への催告という会社法上の手続をとることなく会社解散や会社分割の登記がなされていることもありますので、重要な情報が確認できることもあります。

⑤信用調査会社

信用調査会社が提供するレポートからは、業務内容、財務内容、取引先、保有資産など様々な情報を得ることが可能です。しかし、調査会社に依頼した場合、時間と費用がかかるのが通常ですし、必ずしも正確な情報であるとはいえないという問題点があります。

⑥同業者・他の取引先

取引先の同業者や他の取引先は、長年のつきあいがあることも多く、信用状況について有用な情報を持っていることもあります。その一方で、単なる噂レベルにすぎないような情報も含まれているおそれもあり、情報の信用性には注意しなければなりません。

以上

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