取引先が信用不安の場合の対処方法

第1 はじめに

コラム「取引先の信用状況の把握」では、取引先の信用不安の情報をいかに早く察知できるかという観点から、信用不安の状況把握のためにとるべき手段について説明しました。今回のコラムでは、調査の結果取引先の信用状況が悪化していた場合、どのような行動に移ることができるかについて説明したいと思います。

第2 信用不安の場合の対処方法

取引先の信用情報を調査し、たとえば、①借入金が年商の半分を超した、②売上、利益が3ヶ月続けて計画に達しない、③営業利益が赤字になった、などの状況が認められるときには、取引先の信用状況は悪化していると判断できます。

そのような場合には、債権回収に向けていち早く対処することが望まれます。以下、具体的な対処の方法について紹介します。

1 支払いの督促

取引先の支払いが遅れるようになったら、まずは口頭もしくは書面で取引先に支払いを促してください。取引先がこの支払い督促に応じてすぐに支払ってくれるようなら、それで問題はありません。

2 商品引き揚げ

(1)自社商品の引き揚げ

取引先の信用状態が悪化していることがわかれば、当然ですが、債権者は我先にと債権回収を試みます。そうすると、取引先の財産が散逸してしまうおそれもありますので、まずは自分の会社が販売した商品の所在場所や管理状態を確認しましょう。そのうえで引き揚げに着手することになります。

もっとも、取引先に対して商品を引き渡した以上、その商品の所有権は相手方にあります。したがって、取引先には当然に商品を返す義務はありません。そればかりか、こちらが無断で商品を引き揚げたりすれば、窃盗罪になってしまいます。

そこで、商品を引き揚げる前提として、取引先との契約を解除しておくことが必要です。具体的には、売掛金の支払期限が過ぎている場合には、内容証明郵便などの書面によって、また、売掛金が支払期限前の場合には取引先との話合いによって、売買契約を解除するのが一般的です。なお、話合いで契約を解除したうえで商品を引き揚げても、相手を恫喝したりすると恐喝罪になるおそれもありますので、注意が必要です。

自分の会社が納入した商品には動産売買先取特権がありますので、仮に取引先が倒産して破産手続に入ったとしても、破産手続中に戻すことを要求される心配はありません。

以上のように、商品を引き揚げるには、契約を解除した上で、取引先の了承を得て引き揚げることが必要です。そして、取引先の了承を得る際には、承諾書のような書面を取り交わすのがベストです。

なお、契約解除をしなくても商品の引き揚げができるように、所有権留保特約や商品引き揚げ特約などをあらかじめ基本契約に盛り込んでおくことも考えられます。

(2) 他社商品の引き揚げ

他社商品については、「代金の代わりに他社商品で決済する」という代物弁済の合意があれば引き揚げが可能になります。ですので、基本契約には代物弁済の合意を盛り込んでおくとよいでしょう。

3 民事保全手続

(1) 取り得る民事保全手続の類型

取引先に対する売掛金債権について、訴訟による強制執行によって回収することも考えられます。しかし、取引先の信用状況不安が非常に大きく、倒産の懸念があるときは、取引先の財産が散逸して、強制執行をしようとしても取引先に十分な財産がないおそれがあります。そのような事態を避けるために、民事保全手続を行うことが考えられます。具体的には、以下の3つです。

① 仮差押え

取引先が信用不安になると、自らが有する財産を売却するなどして資金調達に走ることがあります。自分の会社が取引先に対して売掛金債権を持っている場合、その支払いを確保するため、取引先のそのような行為を防止する必要があります。そのような場合に行うのが仮差押えです。取引先の保有する財産を取引先に固定化し、その財産から売掛金債権を回収できるようにするための手段です。

② 係争物に関する仮処分

たとえば、取引先から購入した登記前の不動産を他に処分されるのを防止するために、処分禁止の仮処分や、占有移転禁止の仮処分を行うことがあります。

③ 仮の地位を定める仮処分

仮の地位を定める仮処分の一つに断行の仮処分というものがあります。断行の仮処分とは、金銭の給付、物の引渡し・明渡しを命ずる仮処分のことをいいます。たとえば、場合によっては、自社商品を仮に引き揚げることもできます。

(2) 仮処分をする場合の留意点

実務上、銀行との取引約定等においては、仮差押命令が発令されることで取引先と銀行との間の契約の期限の利益が喪失するとの定めがあることがあります。期限の利益の喪失とは、取引先が有する財産に仮差押え等がなされると、取引先が銀行に借りているお金をすぐに返さなければいけなくなる特約だと考えておいてください。
こちらが取引先の財産等を仮差押えすることで、取引先が銀行に対する期限の利益を失い、資金がショートするおそれが出てきます。つまり、差押命令が出されることが取引先の倒産の引き金を引くことにもなりかねませんので、仮処分手続を使用する際は、そのような事情も考慮しなければなりません。

4 債権譲渡

代金を支払わない取引先に取り立てに行ったところ、「現金はないけれど、他の業者に対する売掛金があるから、その売掛金債権を譲渡することで支払いをする」というケースがよくあります。これが債権譲渡です。

ただ、債権譲渡は、信用不安の場合に代金の支払いに代えてされることが多いので、資金繰りに苦しくなった取引先が、同じ債権をいくつもの会社に譲渡することがあります。その場合には取引先から債務者に対して「A社に債権を譲渡したので、以後はA社に支払ってください」と通知をしてもらった人が優先権を得ることになります。そして、この通知は確定日付のある証書で行う必要があります。

ですので、債権譲渡を受けた際には、内容証明郵便などの手段で、取引先から債務者に向けて通知をすることを依頼し、確実に通知がされるようにしてください。

なお、これ以外にも、債権譲渡登記をすることによって債権譲渡の優先権を得るという方法もあります。

以上

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