採用時の調査

第1 採用における面接・調査

1 原則

採用における面接・調査は、応募者の採否の判断を行うために行うものですから、労務提供の範囲の問題など、応募者の適正、能力を見極めるのに必要な質問は自由にできるのが原則です。
調査対象項目ごとに説明すると、以下のとおりとなります。

① 転居を伴う転勤

転居を伴う転勤が可能か否かを質問することは、労務提供範囲に関わるものですので、何ら問題ありません。ただし、支店や支社はあるけれど、本人が転勤を希望した場合を除き転居を伴う転勤の実態がほとんどないような場合には、質問を避けるべきでしょう。

② 時間外労働、休日労働の可否

時間外労働や休日労働が可能か否かも、労務提供の範囲に関わるものなので、これについて質問することに問題はありません。

③ 家族構成

家族構成については、家族手当、扶養手当や所得税の控除額などの決定に必要となるので、当然質問することができます。

④ 居住地

通勤手当等の額を確認する必要があるので、居住地についてももちろん質問可能です。

⑤ 健康状態

さらに、採用前に本人の同意を得て健康情報を集めることもできます。疾患があると、所定時間の労働できなくなるかもしれませんし、会社としても特段の配慮をする必要がある場合もありうるからです。

精神疾患などのメンタルヘルスに関する情報も、同様に、調査しても問題あります。ただし、精神疾患の通院歴は人に知られたくない個人情報ですから、調査をするのは現在労務提供をすることができるかの判断に必要な範囲(具体的には、1~2年前から現在までの通院歴)にとどめるべきです。後述するように、近年はプライバシー保護の観点から質問の範囲に制約が加えられる傾向がありますので、それ以前の通院歴を聞くのは避けたほうが良いでしょう。

これに対して、HIV感染症やB型肝炎等の、職場において感染したり蔓延したりする可能性が低い感染症に関する情報や、色覚検査等の遺伝情報については、職業上の特別な必要性がある場合を除き、質問したり調査すべきではないとされています。

⑥ 職歴

また、職務経歴書に記載されている職歴については、職歴調査として、旧職場に調査することは可能ですし、在籍期間も確認した方が良いでしょう。ただし、応募者の同意は取り付けておいたほうがトラブルの防止になると思われます。また、職歴以外の情報については、必要以上に調査するのは避けたほうが無難でしょう。

2 例外

以上のように、応募者の適正、能力を見極めるのに必要な質問は自由にできるのが原則ですが、近年はプライバシー保護等の観点から質問の範囲に制約が加えられる傾向にあります。たとえば、以下の2点があげられるでしょう。

① 思想・信条にかかわる質問

厚労省の指針(平11年11月17日労働省告示141号)においては、思想・信条については、“特別な職業上の必要性が存在することその他業務の目的の達成に必要不可欠であって、収集目的を示して本人から収集する場合を除いて収集してはならない”とされています。

ですから、思想・信条についての質問は、たとえば経営と一体となる幹部候補生の採用など、業務と思想・信条が深く関連する場合のような場合に限るべきです。

② 異性との交際関係

「彼氏はいるの?」、「結婚の予定は?」などといった質問については、プライバシーに関わる事項である一方、応募者の適正、能力を見極めるために必要性が高いとはいえません。面接官という優越的立場を利用した興味本位の質問ともとられかねませんので、このような質問は避けた方がよいでしょう。

第2 オリジナルの履歴書または事前確認書を

このように見てみると、応募者には、市販の履歴書を書いてもらうよりも、会社が指定した形式の履歴書を書いてもらった方が良いでしょう。

さもなければ、市販の履歴書の他に、会社で簡単な事前確認書を作成し、応募者に記入してもらうことをお勧めします。なぜなら、市販の履歴書には、病歴・通院歴など健康状態に関する欄が十分には無いですし、転勤や時間外労働が可能か否かなどについても、記入する欄がないからです。

たとえば、事前確認書では、以下のような内容について確認するとよいでしょう。

①最近1年以内に手術歴、医師の診察・検査・投薬歴があるか

②現在医師の診察・投薬等を受けているか

③旧職場の会社名と在籍期間、退職理由について

④旧職場への在籍確認を取ることがあるが、承諾してもらえるか

⑤入社前健康診断の実施または健康診断書の提出を承諾してもらえるか

⑥誓約書(競業避止義務等)の提出を承諾してもらえるか

⑦時間外労働、休日出勤してもらう場合があるが、承諾してもらえるか

⑧転居を伴う転勤や職種の変更がありうるが、承諾してもらえるか

ここで注意が必要なのは、病歴などは応募者のプライバシーに深くかかわることなので、無理に記載を求めるのはよくありません。むしろ事前確認書に「答えたくない」との記載を用意してもよいでしょう。そのうえで、面接で答えたくない理由を聞き、それらを総合して採用判断の一資料とするようにしてください。

第3 経歴者証を理由とした懲戒解雇の可否

経歴を偽ることは経歴詐称にあたりますから、一応懲戒事由になりえます。

しかし、そもそも就業規則に、経歴詐称を理由に懲戒解雇できる旨の規程がなければ、懲戒解雇はできません。また、就業規則にそのような規定があったとしても、単に経歴詐称があった場合に必ず懲戒解雇できるのではなく、労務の提供ができるかどうかを判断するうえで重要な情報を偽っていた場合にのみ懲戒解雇が可能となるとされています。つまり、経歴詐称が発覚したからといって、直ちに懲戒解雇できるわけではないのです。

とはいえ、懲戒解雇ができないとして、会社が経歴詐称を理由に退職勧奨を行うことはできます。この場合でも、会社が本当は解雇できないにも拘わらず、「事前確認書に虚偽記載をした場合には解雇できる」と従業員に告げて退職勧奨を行うことは避けるべきでしょう。なぜなら、それに応じて従業員が退職しても、後に従業員が「だまされた」と主張して退職の意思表示が無効とされることもあるからです。したがって、退職勧奨をする場合でも、そのやり方に注意してください。

第4 個人情報保護法について

ここで、上記のような採用のための個人情報の収集は、個人情報保護法違反にあたるのではないかと考えている方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、個人情報保護法は、収集した個人情報を目的外に第三者に同意なく開示することを禁止しているにすぎず、情報の収集自体を禁止しているわけではありません。

また、そもそも個人情報保護法は特定の個人情報のデータベースがあり、5001人以上の個人情報を持っている事業主に適用されるものですから(個人情報保護法2条3項、同施行令2条)、一部の接客業を除いて、ほとんどの中小企業の場合は適用されません。

このように、採用のための個人情報の収集が個人情報保護法違反になることはほとんどありませんので、あまり心配する必要はありません。

とはいえ、個人情報の開示はむやみにできませんし、個人情報の保管が不適切だと、事業主が責任を追及されることもありえます。ですから、不要になった個人情報は、本人に返却するのが好ましいでしょう。

第5 最後に

採用における調査などは、応募者のプライバシーに深く関与することになりますから、一歩やり方を間違えると会社に大きな損害が生じることになりかねません。

他方で、調査すべきことをきちんと調査しなければ、「採用ミス」につながります。

そのような不測の事態が生じる前に、お困りのことがございましたらぜひご相談ください。

まずは弁護士事務所へお気軽にご相談ください!

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