派遣労働

第1 はじめに

「派遣」という働き方が認められたのは、昭和60年に法律が制定されてからです。つまり、派遣という働き方ができてからまだ20数年ほどしかたっていないわけですが、今の社会では非常に大きな役割を果たしています。そこで、今回のコラムではこの「派遣」についてお話したいと思います。

第2 派遣労働の基礎知識

1 派遣とは

派遣については、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」という法律に規定されています。しかし、名称が非常に長いので略称として「労働者派遣法」や単に「派遣法」と呼ぶことが多いです。

その労働者派遣法の中で、派遣とは、「自己の雇用する従業員を当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために従事させること」と定義されています(2条1号)。簡単に説明すると、A社(派遣先)とは別のB社(派遣会社=派遣元)から人が来て、その人がA社の指揮命令下で働くことです。法律的には、B社と従業員が結んでいる雇用契約から指揮命令権を取り出して、A社にその指揮命令権を譲渡したものと説明できます。

この派遣をビジネスとして行う、すなわち、従業員を派遣して手数料をもらい利益を出すためには、厚生労働大臣への許可や届出が必要です。

2 派遣に似た労働形態との区別

派遣との区別が微妙な労働形態もあるので、ここで説明しておきたいと思います。

(1) 労働者供給

労働者供給とは、供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させることをいいますが、この労働者供給は、職業安定法によって包括的に禁止されています(職業安定法44条)。ただし、労働者派遣法上の労働者派遣は除かれており(職業安定法4条6項)、これは、労働者供給という名目で無秩序に従業員を他人の指揮命令下で働かせることは認められませんが、派遣法という一定の規制の下で合理的にビジネスとして行うことは認められていることを意味します。

(2) 業務請負

業務請負と派遣との違いは、指揮命令権を誰が有しているかという点にあります。派遣の場合は、先ほども言いましたが、A社(派遣先)とは別のB社(派遣会社)から人が来て、その人がA社の指揮命令下で働くことですので、指揮命令権はA社にあります。

一方で、業務請負の場合は、A社とは別のB社から人が来て、A社で働くのは同じなのですが、指揮命令権はB社にあるままです。つまり、B社の従業員の就労場所がたまたまA社であるにすぎません。

ここで、A社がB社から来た従業員に対して指揮命令権を有するのに(=本来ならば労働者派遣法の規制がかかるのに)、労働者派遣法の適用を免れるために業務請負の形がとられていることがあります。これを「偽装請負」といいますが、偽装請負は違法行為ですので当然ですが絶対にしてはいけません。

では、具体的にどのような場合が偽装請負にあたるのでしょうか。厚労省の通達によれば、以下の①・②のいずれかを満たさない場合は労働者派遣、すなわち、業務請負の形式をとっていても違法な偽装請負であるとされます(昭和61年4月17日労働省告示第37号)。

  1. ① 自己の雇用する従業員の労働力を直接利用すること(業務遂行、労働時間、秩序維持について自ら指示を行うこと)
  2. ② 請負契約により請け負った業務を自己の業務として当該契約の相手方から独立して処理すること(業務処理に要する資金を自らの責任で調達・支弁し、業務処理について法律に規定された事業主としての全ての責任を負担し、単に肉体労働力を提供するものでないこと)

なお、業務請負が偽装請負にあたると判断された場合、平成27年10月以降は下記3?ウで触れる「直接雇用の申込みみなし」が適用になるおそれがありますので、注意が必要です。

第3 派遣先が負う責任

このコラムを読んでいらっしゃる方は、これから派遣事業を始めようというより、派遣で従業員を受け入れて業務を拡大しようとされている方の方が多いと思います。そこで、派遣先として従業員を受け入れる際に注意すべき点のうち重要なものについて説明しておきます。

1 苦情の処置義務

派遣先は、適正な就業確保等のために、派遣従業員から苦情の申出を受けた場合には、その苦情の内容を派遣元に通知し、密接な連携の下、苦情の処理を図らなければなりません(労働者派遣法40条1項)。

2 安全配慮義務・健康配慮義務

直接雇用している従業員と同様、雇用主は、派遣従業員についても生命・身体の安全を確保するよう配慮する安全配慮義務や健康配慮義務(労働契約法5条)を負っているとされます。

裁判例には、派遣先での過度の業務負担及び長時間労働により派遣労働者がうつ病に罹患し自殺した事案において、派遣先は、派遣元に代わり業務の遂行に伴う疲労や心理的負担等が過度に蓄積して派遣労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負っていたとして、派遣先の安全配慮義務違反に基づく不法行為の成立を認めたものがあります(東京高裁平成21年7月28日判決)。

3 直接雇用

(1) 直接雇用の努力義務

労働者派遣法上、派遣可能期間の制限がある場合、同一業務に派遣従業員を1年以上受け入れており、当該業務に新たに従業員を雇い入れようとする場合には、派遣元との雇用が終了する当該派遣従業員が希望すれば、その者を雇い入れる努力義務があります(労働者派遣法40条の3)。この直接雇用は、下記イの直接雇用の申込みとは異なり、努力義務にとどまります。

(2) 直接雇用の申込み義務

①派遣可能期間の制限がある場合

派遣先が派遣元から、派遣可能期間を超えて派遣の継続をしないと通知を受けた場合に、当該派遣従業員を引き続き使用するときは、当該派遣従業員に対して、雇用契約の申込みをしなければなりません(労働者派遣法40条の4)。

②派遣可能期間の制限がない場合

同一業務に同一の派遣従業員を3年を超えて受け入れており、当該業務に新たに従業員を雇い入れようとする場合には、当該派遣労働者に対して雇用契約の申込みをしなければなりません(労働者派遣法40条の5)。

(3) 直接雇用の申込みみなし(平成27年10月1日施行予定)

以下の①~④について、違法派遣であることを知らず、かつ、知らなかったことについて過失がなかった場合でなければ、派遣受入時点で、派遣先が派遣労働者に対して派遣就業にかかる雇用条件と同一の条件で直接雇用の申込みをしたものとみなされます(労働者派遣法40条の6第1項)。

①派遣禁止業務への派遣受入れ

②無許可・無届けの派遣事業者からの派遣受入れ

③派遣可能期間の制限を超えての派遣受入れ

④偽装請負による派遣受入れ

したがって、派遣労働者が派遣先に直接雇用を求めれば、みなし申込みに対する承諾の意思表示となり、雇用契約が成立します。

これは雇用主にとって非常に重要な効果をもたらす制度ですので、しっかり理解してこのような事態が生じることは絶対に避けなければなりません。

第4 最後に

派遣に関し最も重要なのは、偽装請負にならないよう注意することです。本文でも説明したように、業務請負の場合には指揮命令権がありませんから、従業員を指揮命令することが必要な業務については、業務請負は法律上認められないということをよく理解することが大切です。その場合は派遣従業員の受入れをしましょう。コストカットを意識するあまり、違法行為を行ってしまえば本末転倒になってしまいます。

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