新株発行をめぐる“不具合”

第1 株式を発行するときに発生する“不具合”とは

株式を発行するということは、株式会社を運用する上で必要な資金を調達することを意味します。よって、株式会社にとって何らかの不利益になり、“不具合”が生じることはないとも思われます。しかし、コラム「種類株式の活用方法①」コラム「種類株式の活用方法②」で少しお話ししたように、株式というものは資金調達以外の目的で利用される場合もあります。この資金調達以外の目的を達成するために、しばしば新株発行の手続きが無視されたり、廉価で株式が発行されたりするなど、不公正な方法で新株が発行されることがあります。そうすると、株式会社にとっても、株主が増えるだけで必要のない資金を調達することになったり、十分に資金調達できなかったりと、まさに“不具合”が発生するおそれがあります。そこで、会社法では、新株の発行をめぐり発生した“不具合”を是正する手続を用意しました。

是正手続について、会社法では、新株発行の効力が生じる時点の前後で異なる方法を定めています。効力の生じる時点とは、出資者が「株主」としての地位を取得する時点、すなわち出資をした日のことを言います(会社法209条参照)。このコラムでは、是正手続の概略を説明した上で、細かい内容は個別のコラムに譲りたいと思います。

第2 新株発行の効力が発生する前の措置

厳密に言えば、新株発行の効力が発生していない段階では、会社に“不具合”が発生していないと考えることができます。例えるなら、“不具合”が発生するのが明らかな機器をロボットに取り付けようとしている段階のことです。したがって、この段階での手続の性質は、“不具合”の是正ではなく、予防のための手続だといえます。

さて、このような“不具合”の発生が見込まれる行為を行う者、すなわち株式の発行を指揮するのは取締役です。株式会社というロボットの所有者たる地位を有する株主としては、“不具合”が生じるおそれがあるロボットを操縦されては困ります。そこで、会社法は、そのような“不具合”が発生するおそれのある株式の発行をするな、と取締役に“待った”をかけることができる権利を株主に与えました。これを「新株発行の差止請求」と呼びます(会社法210条)。

なお差止め請求の詳しい内容については、コラム「会社法トラブルその2 新株発行の差止め」で説明します。

第3 新株発行の効力が発生した後の措置

新株発行の効力が発生した後の是正手続について、「株式会社というロボットに、不具合が発生する機器が取り付けられた」というたとえを用いて、どんなことができるか考えてみましょう。1つの方法としては、取り付けられた機器が全く役に立たないのであれば、これをロボットから取り除くというものです。言い換えれば、機器が取り付けられる前に戻す、という是正手続です。他方で、取り付けられた機器を修理すれば、問題はなくなる場合もあります。このような場合には、取り付けられた機器はそのままにして、足りない部品を取り付けるなどの修理を行う、という是正手続も考えられます。

この「取り付けられた機器」を「発行された新株」に置き換えれば、そのまま会社法上の是正手続の概要になります。すなわち、1つ目の是正手続は、新株の発行をなかったことにして、発行手続がなかった状態に戻す手続があります。このような手続のことを「新株発行無効の訴え」(会社法828条1項2号)、及び「新株発行不存在確認の訴え」(会社法829条1号)といいます。

2つ目の手続は、新株発行の手続は有効なものとして扱う一方、不足額を支払わせる、発生した損害を回復させるといった方法で是正するものがあります(会社法212条、213条参照)。

以上の是正手続の内容については、コラム「会社法トラブルその3 新株発行無効の訴え他」で詳しく説明します。

以上

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