種類株式の活用方法②

会社経営者や株主のニーズに応じて、様々な株式を発行できることをコラム「種類株式について」で説明しました。このコラムでは、それぞれ特徴のある種類株式を具体的にどのような場面で活用できるかを説明したいと思います。ただし、会社の性質によっては、発行できない種類株式も存在しますので、注意して下さい。

なお本コラムは、コラム「種類株式の活用方法①」の続きになっております。通し番号も同コラムから続くもの(第4~)になっておりますので、ご注意ください。

第4 出資者を増やすための活用方法

1 種類株式を活用する意義

株式を上場していない会社(非上場会社)にとって、資金調達の手段として種類株式を活用する意義は大変大きいと言われています。というのも、非上場会社の株式は、①自ら買い手を探さなければならない、②時価がはっきりしないという難点があるため、なかなか投資をしてくれる人がいないのです。非上場会社の典型例である非公開会社の株式にいたっては、コラム「株式の譲渡について」でお話しした通り、株式の譲渡に会社の承認が必要となるため、一層株式を売却して投下資本を回収することが難しくなります。また、このような会社では、株主に対する剰余金の配当を行っていない会社も少なくありません。以上のような事情だと、株主になる魅力がほとんどありませんから、出資をしてもらいたくても株主になろうとする者が見つからないというジレンマに陥ることがあります。そこで、「普通株式+α」のオプションをつけることで、株主になる魅力を提示する必要性が出てきます。

2 株主になる魅力の付け方

(1) 投下資本を回収する機会を付与する

株主が投下資本を回収しにくくなる点を重視すれば、株主が投下資金を回収する機会を与えるオプションをつける、すなわち株主に交付する株式を取得請求件付株式にすることが考えられるでしょう。会社が一方的に株式を取得することができる取得条項付株式でも、取得時の条件として最低保証額や会社の売上総利益を定めておけば、株主が損するタイミングで行使されることがなくなるので、株主にとって魅力のある株式にすることができます。また、会社にとってもこのような株主にとってプラスになるオプションをつけると、株式としての価値が高くなりますから、普通株式より高値で発行でき、より資金調達がしやすくなるメリットがあります。

なお、会社が株式を取得する際の対価を現金ではなく社債(借金としての取扱い)にすることができます。このようにすると、会社としては現金の支払日を先延ばしにできますし、株主としても株式のような市場の動向や会社の経営状態による価格の変動がなくなるというメリットがあります。

(2) より多くの剰余金が配当されるようにする

非上場会社で剰余金の配当がなされない原因の1つは、大株主=経営者またはその身内であるからだと言われています。剰余金の配当は、保有する株式の比率にしたがって行われます。発行済株式の多くを経営者等が取得していると、出資者が保有する株式の比率が小さい=出資者が得られる利益も小さいことになりますので、わざわざ配当を行わない選択をするようになるようです。

そこで、出資してくれた株主に交付する株式を、剰余金の配当についての優先株式にする方法が考えられます。こうすると出資者の利益を最優先にすることができます。また、会社としてもそのようなプレミア感の株式は高値で発行できますからより資金調達がしやすくなります。

(3) 株式の価額を下げるためのオプション

株主の中には、出資をして利益があればよくて、会社経営に関心がない者もいます。そのような場合には、さらに交付する株式を議決権制限株式にすることが考えられます。議決権制限株式にすると、経営者にとっては経営に口出しされないという大きなメリットがあります。また株主にとっても、議決権制限株式は「普通株式-議決権」ですから、普通株式よりも安く発行されますので、より投資がしやすくなります。取得請求件付株式や優先配当株式によって高値となる株式の価額を下げる手段としても有効です。

なお、いくら経営には関心がないといっても、放漫経営をされて利益が上がらないようでは、株主としては困ります。そこで、例えば「会社が好調のときは議決権を行使できない(不調のときは議決権を行使できる)。」「剰余金の配当に関する事項のみ議決権を行使できる。」というかたちで、一定の場合に議決権をできるようにしておくのが良いでしょう。

第5 円滑な企業再編に向けた活用

1 種類株式を活用する意義

企業再編と言っても様々なバリエーションがあります。ざっくりと分類すると以下のようになります(詳しくはコラム「組織再編とは」を参照)。

①株式の譲渡・移転による会社の支配権の移動・獲得(株式移転・株式交換含む)

②事業譲渡または会社分割

③会社の合併

このような企業再編が会社にとってプラスに働けば良いのですが、必ずしもそうなるとは言い切れません。

悪い方向に働く一場面を紹介しましょう。

2つ以上の会社が共同して企業再編を行う場合には、通常経営能力・技術力のある会社(A社)よりも、お金を持っている大きな会社(B社)に有利なかたちで行われます。吸収合併や事業譲渡であれば、対価を支払う能力のあるB社にA社自体またはA社の一事業が吸収されます。また、共同して新しく会社(C社)を設立する場合(新設合併や新設分割)もB社に有利な条件で行われることが多いです。そうなると、A社は、経営能力が優れているにもかかわらず合併したB社または新設したC社で経営に参加できない、という事態が生じることがあります。そして、A社の経営者が経営手腕をふるうことができなくなったことで、承継された元A社の事業を上手く運用することができず、B社・C社にとってもマイナスになることがあります。

企業再編による弊害は他の場面でも出てくる可能性があります。例えば、企業再編によってA社がB社に吸収合併したとすると、A社にあった事業もB社の社風や企業方針に従うことになります。そうなると、A社の社風や経営者に手腕に惚れ込んで就職したという従業員や取引を行ったという顧客からすれば、当然この企業再編に不満を抱くでしょう。なかには、離職したり取引を打ち止めにしたりする者が出てくるかもしれません。

「企業再編をしたが、その後上手く活用することができなかった」というケースの1つの原因は、このように社風や経営者の変更に対応できなかったことがあるそうです。このような場合、企業再編の対価を種類株式にして、元の会社の経営者一定期間新しい会社での経営に関与できるようにする方法が推奨されています。

2 具体的な活用方法

(1) 企業再編後の経営の安定を図るための方法

1つの方法としては、属人的株式として議決権を増やしておくことで、上記A社のような会社の経営者が新しい会社(B社またはC社)でも強い影響力が持てるようになります。このようにすると、会社の社風や経営方針の変化を最小限に抑えることができますので、従業員や顧客の不満を減少させることができると考えられています。もっとも、いつまでも居座られては困ることもありますから、年度ごとに議決権が減少させたり一定期間経過後には無議決権になったりする条件をつけておくとよいでしょう。このようにしておけば、社風や経営方針の変更を緩やかに行うことができます。また取得請求件付株式や取得条項付株式にして、一定期間経過後には株式自体を会社に取得させる方法でも同様の効果が得られます。

A社の経営者や株主などに、企業再編の対価として役員選任権付株式する方法も考えられます。A社側からすれば、B社またはC社に対して一定数の経営者を送り込むことができることになるので、属人的株式の場合と同様の効果を得ることができます。発行する株式の数を上手く調整して、B社の元々の株主やC社からB社側が取得する株式だけで特別決議の定足数である3分の2を超えないようにすれば、定款の変更など会社にとって重要な事項の決定を慎重に行うようにすることもできます。

(2) 会社をたたむときの活用方法

企業再編にともなって、会社をたたむこともあります。会社をたたむとなった場合、残った財産(残余財産)を出資額に応じて株主に応じて分配することになります。このような場合に、株主間の公平を図るのに適した株式が残余財産の分配についての優先株式です。

例えば、出資額は少ないけれども人的資源や経営ノウハウなどを提供した株主がいたとしましょう。会社にとって、このような株主の貢献も無視することはできません。そこで、その貢献を踏まえた利益の配分をする1つの方法として、この株主に対して上記株式を交付することが考えられます。

貢献の態様として、お金ではなく不動産などの現物で出資をする、という場合もあります。上記株式は、出資してもらった物を出資者の手元に戻るようにする目的で利用することもできます。もっとも、このようにすると会社の財産状況によっては、他の株主との関係で不公平な状態になることがあります。そこで他の株主に対しては、現物以外の財産の分配についての優先株式や剰余金の配当についての優先株式を交付して、利益調整をするのが良いでしょう。

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