特許法ケーススタディその1 特許権を取得するには

<前提となる事実>
 Aさんは、家電の製造・販売を行うB社の従業員で、商品開発部に勤務しています。
 Aさんは、従来の製品と比べて、低コストでかつ浄水能力の高い浄水ポットαの開発に成功しました。
Q1. Aさんは、浄水ポットαについて特許出願をしようか検討をしています。Aさんが浄水ポットαの特許権を取得するためには、どのような手続が必要でしょうか?
本件のポイント-
特許権の取得手続

第1 特許権とは

人が頭の中で考えてものであって「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」、すなわち「テクノロジー」のことを法律上「発明」と呼んでいます(特許法2条1項)。そして、このテクノロジーを独占できる権利のことを「特許権」といいます。

この特許権を取得するためには、特許庁に「出願」して、特許権として保護すべき発明かを審査してもらう必要があります。以下、特許権を取得するまでの手続の流れについて説明します。

第2 特許権を取得するまでの流れ

1 願書など必要書類を提出する

まず願書などの必要書類を特許庁の申請窓口に提出します(特許法36条1項2項)。

必要書類では、①どんな発明について特許権を取得したいのか(「特許請求の範囲」)、②その発明が具体的にどんな内容なのか(「明細書」「必要な図面及び要約書」)を明らかにします。例えば、本ケースの浄水ポットであれば、「○○を特徴とする浄水ポット」「A,B,Cから構成される浄水ポット」という形式で「特許請求の範囲」を明示します。そして、「○○」や「A,B,C」という形式で表現した発明の内容を、「明細書」や「必要な図面及び要約書」で詳しく説明します。

2 特許庁による審査を受ける

上記の出願手続に書類の不備など形式的な問題がなければ、次に発明の内容を審査してもらいます。

この審査は、上記必要書類を提出した日(出願日)から3年以内に、特許庁に対して「出願審査の請求」をすることではじめて開始されます(特許法48条の3)。裏返せば、上記の必要書類の提出さえすれば当然に審査してもらえる、というわけではないことになります。

「出願審査の請求」がなされると、特許庁の審査官は、特許法49条に列挙された「拒絶事由」、すなわち出願された発明に特許権を認めることができない事由がないかを審査します。拒絶事由の一例としては、以下のようなものがあります。

①特許法上の「発明」にあたるか(特許法2条1項)

冒頭でお話ししたとおり、「発明」とは「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と定義づけられています。この点に関しては様々な議論がなされていますが、大きく分けると以下の3点に注意すればいいでしょう。 まず人が考え出した世の中に役に立つものであっても、物理学、化学、生物学といった「自然法則」を利用しないものは「発明」はあたりません。例えば、経済学や数学、ゲームのルールなどがこれにあたります。もっとも、実務上は、特有の情報処理を行うソフトウェアは「発明」にあたるものとして扱われています。

2つ目に他の人も同じことを繰り返し実施することができる内容でなければなりません。実現できないテクノロジーや個人の技量・技術に依存したものは「技術的思想」とはいえず、「発明」にあたりません。

3つ目に人為的に作り出したものでなければなりません。自然法則それ自体を明らかにすることは「発見」であり、自然法則を「利用した…創作」ではないため、「発明」にはあたりません。

②何らかの産業で利用することができるものか(特許法29条1項柱書)
③今までにない新しいものか(新規性、特許法29条1項列挙事由)
④誰でも容易に考え出すことができるような内容ではないか(進歩性、特許法29条2項)
⑤同一の発明について先に出願している人はいないか(先願主義、特許法39条1項)
⑥発明の内容が公序良俗に反するものではないか(特許法32条)
⑦明細書の記載は、発明の内容を明らかにする上で十分ものか(特許法36条4項1号、6項)

拒絶事由が認められない場合には、「特許査定」が行われます(特許法51条)。そして、特許権を受けようとする者が特許料を納付(特許法107条)すると、特許権の設定登録がなされて、はれて特許権を取得することになります(特許法66条1項2項)。

仮に拒絶事由があるとされても、意見を述べ内容を補正する機会が与えられ(特許法50条)、補正を行った結果(特許法17条以下)拒絶事由が解消されれば特許権を取得することができます。

第3 本件の帰結

本ケースの場合も、Aさんの浄水ポットαも拒絶事由がなければ、特許権を取得することができます。

なお「特許請求の範囲」や「明細書」の記載の仕方は、後日特許権者が専有する権利の範囲に大きな影響を及ぼします。特許出願をする場合には、専門家である弁理士に一度相談するといいでしょう。

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