特許法ケーススタディその2 勝手に特許出願された場合の対処法

<前提となる事実>
 Aさんは、家電の製造・販売を行うB社の従業員で、商品開発部に勤務しています。
 Aさんは、従来の製品と比べて、低コストでかつ浄水能力の高い浄水ポットαの開発に成功しました。
Q2.?コラム「特許法ケーススタディその1 特許権を取得するには」の手続にしたがって、Aさんが特許出願を行ったところ、同僚のCさんが勝手に特許出願をして特許権を取得していることがわかりました。
 このような場合に、AさんはCさんに対して、どのような対応をすることができるでしょうか?
本件のポイント-
「特許を受ける権利」のない者による出願(冒認出願)への対応

第1 問題の所在

まず同僚のCさんが勝手に特許出願をして特許権を取得できるのかを検討しましょう。

特許出願は、「特許を受ける権利」のない者が行うと拒絶査定がなされると規定されています(特許法49条7号)。この「特許を受ける権利」とは、国(特許庁)に対して特許出願を行って、特許を求めることができる地位のことを言います。そして、この地位は原則として特許出願にかかる発明をした者(発明者)にあると考えられています(特許法29条1項柱書参照)。

本件では、Cさんは浄水ポットαの開発には全く関係のない人です。そうすると、Cさんの特許出願は許されず拒絶査定を受ける、というのが原則論です。

Cさんが特許権を取得できないのであれば、AさんはCさんに対して何もせずに、自ら特許出願を行えばいいのではないか、と考える方もいらっしゃるでしょう。しかし、実務では、Cさんのように勝手に出願してしまったことが見落とされて、特許の登録がなされてしまうことがあります。そうすると、Aさんは自ら出願して特許を取得することはできません。そこで、「Cさんの出願が確認された時点で、Aさんは何かできないか」という問題が生じるのです。

以下、本ケースを具体例として交えながら、①特許登録がなされる前と②特許登録がなされて特許権が取得された後に分けてそれぞれ説明します。

第2 勝手に出願された場合の対応

1 特許登録がなされる前の対応策

書面上はCさんが「特許を受ける権利」を有していることになっているわけですから、これをAさんに変更する手続を行います。具体的には、「特許を受ける権利」を承継した旨の書面と併せて特許庁に届け出ます(特許法34条4項5項)。

この書面は契約書のような書面で足ります。もっとも、本件のようなケースの場合、勝手に出願をしたCさんのような人が話し合いに応じず、契約書へのサインを拒むことが予想されます。このような場合、Aさんとしては、浄水ポットαについて「特許を受ける権利」は自分に帰属していることの確認を求める訴訟(確認訴訟)を提起しましょう。確認訴訟で認容判決を受けたときは、その結果を特許庁に提出して、名義変更をすることになります。

なおCさんの「特許請求の範囲」や「明細書」の記載が気に入らない場合もあるでしょう。そのような場合には、①各種書類の補正手続を行うか(特許法17条以下)、②Cさんのなした出願を取り下げて、Aさんが自ら行った特許出願に基づいて審査請求をするか、いずれかの方法によるといいでしょう。

2 特許登録がなされて特許権が取得された後の対抗策

冒頭で説明したとおり、Cさんは本来浄水ポットαの特許権を取得することはできません。そこで、1つの方法としては、「特許無効審判」という特許権を無かったことにする手続(特許法125条本文)を行うことが考えられます(特許法123条1項6号)。ただし、この方法の場合、Aさんは先願主義や新規性の喪失を理由として特許権を取得することはできません(詳しくはコラム「特許法ケーススタディその1 特許権を取得するには」参照)。特許無効審判という方法は、Aさんが「自分が行った発明について誰かが特許権を取得することを阻止したい。特許権まではいらない。」と考えているケースでは有用です。

これとは異なり、Aさんが「他人の取得した特許権を取り戻したい。」と考えている場合には、Cさんに対して、自分こそが真の権利者であるとして、特許権の移転を請求することになります(特許法74条1項)。この移転請求が認められると、特許権ははじめからAさんに帰属していたことになります(特許法74条2項)。そのため、Aさんは、さらにCさんが勝手に発明を利用して利益を得たことについて損害賠償請求をすることができます(民法709条)

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