特許法ケーススタディその4 勝手に特許発明を利用された場合の対処法

<前提となる事実>
 Aさんは、家電の製造・販売を行うB社の従業員で、商品開発部に勤務しています。
 Aさんは、従来の製品と比べて、低コストでかつ浄水能力の高い浄水ポットαの開発に成功しました。
 B社は、就業規則に基づきAさんから浄水ポットαの特許を受ける権利を譲り受けました。そして、B社は、浄水ポットαの特許出願を行い、何の問題もなく浄水ポットαの特許権を取得しました。
 B社は、特許権取得後、浄水ポットαの製造・販売を開始しました。当初は順調に売り上げを伸ばしていましたが、ある時点から売り上げが減少していきました。調査をしてみると、ライバル会社のD社が浄水ポットαの設計と全く同一の浄水ポットβを製造・販売しており、これによって売り上げが減少したことが分かりました。
Q4.このような場合に、B社はD社に対して、どのような請求ができますか?
本件のポイント-
特許権侵害の原則類型(直接侵害)

第1 はじめに

コラム「基礎編③ 知的財産権の侵害」でもお話ししたとおり、D社による浄水ポットβの製造・販売が、B社の浄水ポットαの特許権を侵害するものであれば、B社はD社の上記行為を差し止めることができます(特許法100条1項)。同時に、製造した物を廃棄させ(特許法100条2項)、B社が被った損害を賠償するよう請求することもできます(民法709条)。損害賠償を請求する場合に、特許法が定めた計算式にしたがって算定した額を、損害額として請求することができます(特許法102条参照)。また、必要があれば、B社の浄水ポットαと誤認させたなど謝罪広告を出させることもできます(特許法106条)。

では、どのような場合に特許権の侵害が認められるでしょうか。以下、特許権の侵害の有無についての基本的な考え方を紹介します。

第2 特許権侵害の判断方法

1 基本的な考え方

特許権者は特許発明を業として「実施」する権利を独占しています(特許法68条本文)。この特許権者が独占している特許発明の「実施」行為を、他人が無断で行えば原則として特許権侵害となります。

そこで、まずは特許権者が独占している特許発明の範囲および内容がどのようなものかを画定する必要があります。特許法では、特許権者が独占している特許発明の範囲および内容の画定は、願書の「特許請求の範囲」の記載に基づいて判断することになっています(特許法70条1項)。そして「特許請求の範囲」の記載だけでは分からないところは「明細書」の記載を参考にしつつ(特許法70条2項)、その発明がどのような技術的要素で構成されているのかを明らかにしていきます。例えば、「特許権者の特許発明は、aとbとcという要素で構成されている。」といった形式です。

次に、範囲および内容が確定された特許発明と、相手方の製品などを比較します。そして、相手方の製品などが、特許発明の技術的要素を全て充足する場合に、特許発明の「実施」行為があると判断されます。例えば、「相手方の製品は、xとyとzから構成されている。特許発明と相手方の製品の構成を対比すると、aとx、bとy、cとzとが同一である。」という関係であれば、原則として特許権侵害が認められます。

2 関連する問題

特許権侵害があると認められるようなケースでは、これを幇助するような行為も特許権侵害とみなされます(間接侵害)。例えば、D社の下請業者が、浄水ポットβに使われる特殊な部品を製造しているようなケースです。詳しくはコラム「特許法ケーススタディその6 部品の下請事業者などへの対処法」を参照してください。

一方で、特許発明の「実施」行為があると認められても、例外的に特許権侵害とならないケースもあります。詳しくは、コラム「特許法ケーススタディその8 特許権者の権利行使が認められない場合」コラム「特許法ケーススタディその9 発明の先行者の保護」を参照してください。

第3 本件の帰結

本件では、D社の浄水ポットβの設計は特許発明である浄水ポットαと全く同一です。したがって、特許権侵害が認められるので、B社は冒頭にお話しした各種請求をD社にすることができます。ただし、実務では、特許発明との違いを指摘して「同一の技術ではない」ということが激しく争われることになります。例えば、D社の立場からは、「浄水ポットαの構成要素aと浄水ポットβの構成要素xは全く異なるものだ」「浄水ポットβは、浄水ポットαほどの浄水効果はないから、別物だ」(いわゆる作用不奏功の抗弁)といった反論がなされることがあります。特許権侵害の成否の判断は非常に難しいものですから、知的財産の専門家である弁理士や紛争解決の専門家である弁護士に一度相談するといいでしょう。

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