特許法ケーススタディその7 第三者が特許発明を利用する場合

<前提となる事実>
 Aさんは、家電の製造・販売を行うB社の従業員で、商品開発部に勤務しています。
 Aさんは、従来の製品と比べて、低コストでかつ浄水能力の高い浄水ポットαの開発に成功しました。
 B社は、就業規則に基づきAさんから浄水ポットαの特許を受ける権利を譲り受けました。そして、B社は、浄水ポットαの特許出願を行い、何の問題もなく浄水ポットαの特許権を取得しました。
 B社は、特許権取得後、浄水ポットαの製造・販売を開始しました。当初は順調に売り上げを伸ばしていましたが、ある時点から売り上げが減少していきました。調査をしてみると、ライバル会社のD社が浄水ポットαの設計と全く同一の浄水ポットβを製造・販売しており、これによって売り上げが減少したことが分かりました。
Q7. D社は、B社から浄水ポットβの製造・販売の差止めを求められました。D社としては、せっかく浄水ポットβの技術を手に入れたのだから、このまま撤退するのは惜しいと考えています。
 このような場合、D社はどのような対応をしたらよいでしょうか?
本件のポイント-
特許権の利用、特許権の効力の制限

第1 はじめに

これまでは特許権者であるB社の側から説明をしてきました。この先は相手方であるD社側の事情も考慮したやや複雑なケースになります。D社側に一定の事情がある場合には、B社の請求を認めないとして徹底抗戦することもできます。もっとも、D社が浄水ポットβの開発で得た技術を活用する方法は、必ずしも「裁判で勝つ」だけではありません。このコラムではその一部を紹介しましょう。

第2 特許発明を利用できる権利を取得する

1つ目は、浄水ポットβを製造・販売する権利を取得する方法です。 B社から特許権自体を譲り受けることもできますが、より現実的なのは「実施権」の取得です。「実施権」とは、特許権者以外の者が特許発明の「実施」(特許法2条3項)をすることができる権利のことを言います。これは日常生活で言うと、「アパートを購入するのではなく、賃貸して使用する」という状況に似ています。

実施権と一口に言っても様々な種類があるのですが、特許権者と契約して「通常実施権」(特許法78条1項)の許諾を受けるのが通常でしょう。この実施権の許諾を受ける契約のことを、一般的に「ライセンス契約」と言います。実施権の許諾を受けた者は、ライセンス契約で定められた範囲内で特許発明を利用することができます(特許法78条2項)。なお特許権者から許諾を受けるという形式で取得する実施権には、「通常実施権」とは別に、「専用実施権」(特許法77条1項)という実施権もあります。しかし、専用実施権を許諾してしまうと、特許権者を含め専用実施権者以外の者は特許発明を利用できなくなるという効果があるので(特許法77条2項参照)、あまり利用されることはありません。

特許権者が特許発明を実施していないにもかかわらず、通常実施権の許諾をしてくれないということもあります。このような場合には、裁判所に申立てて強制的に実施権を取得することができます(特許法83条2項)。このような裁判手続を経て取得する実施権のことを「裁定実施権」といいます。

第3 試験研究を行う

2つ目は、「浄水ポットβ」というかたちでの製造・販売を諦めて、浄水ポットβの技術をさらに向上させる開発を行う方法です。 特許法では、試験・研究目的での特許発明の実施については、特許権の効力は及ばず、特許権者は権利行使できないこととしています(特許法69条1項)。特許発明を研究して改良する行為が認められないとすると、産業を発展させることを目的とする特許法の趣旨に反するからです。そして、改良した技術については特許権を取得することができます。

ここで1つ注意が必要なのが、他人の特許発明を改良して特許権を取得したとしても、改良した特許発明を独占することができるわけではないという点です。他人の特許発明を利用したものを「利用発明」といいます。特許法上、利用発明の特許権は、元の特許発明の特許権または実施権がない限り、特許発明を実施することはできません(特許法72条)。したがって、例えば本件のD社が試験研究の結果、浄水ポットβの改良版(このコラムでは「浄水ポットβⅡ」とします。)を発明して特許権を取得したとしても、これを製造・販売するには、B社から浄水ポットαの特許権の譲渡を受けるか実施許諾を受けなければならない場合もあります。

もっとも浄水ポットβⅡのように改良された技術というのは、特許権者も利用したいと考えていることが少なくありません。そこでD社としては、浄水ポットβⅡの実施許諾をカードとして使って、浄水ポットαの実施許諾をするようB社と交渉することが考えられます。このように、お互いの特許発明について通常実施権の許諾をする契約のことを、実務では「クロスライセンス」と呼んでいます。

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