特許法ケーススタディその10 リサイクル品に対する対処法

<前提となる事実>
 Aさんは、家電の製造・販売を行うB社の従業員で、商品開発部に勤務しています。
 Aさんは、従来の製品と比べて、低コストでかつ浄水能力の高い浄水ポットαの開発に成功しました。
 B社は、就業規則に基づきAさんから浄水ポットαの特許を受ける権利を譲り受けました。そして、B社は、浄水ポットαの特許出願を行い、何の問題もなく浄水ポットαの特許権を取得しました。この浄水ポットαの中には特殊なフィルターが存在しており、そのフィルターのみの交換が出来ない構造になっています。そのため、一定期間使用されると、浄水効果が期待できなくなるので、浄水ポットαごと廃棄しなければならない性質がありました。
 B社は、特許権取得後、浄水ポットαの製造・販売を開始しました。
 E社は、消費者から不要となった浄水ポットαを買い取り、まだ浄水効果が期待できるもののみを「中古品」と称して、販売を開始しました。
 F社は、浄水ポットα内部のフィルターを交換する技術を開発しました。この技術は、浄水ポットαのフィルター部分を一度損壊して、内部を洗浄の上新しいフィルターと交換し、水漏れが生じないよう蓋をし直すというものです。F社は、内部のフィルターを交換した浄水ポットαを「リサイクル品」と称して、販売を開始しました。
 E社の「中古品」やF社の「リサイクル品」の方が安価であることから、B社の浄水ポットαの売上が減少しました。
Q10.B社は、E社およびF社に対して、B社の浄水ポットαの特許権を侵害するとして、「中古品」の販売および「リサイクル品」の製造・販売の差止請求を行うとともに、損害賠償請求を行おうと検討している。
 B社のE社およびF社に対する請求は認められるでしょうか?
本件のポイント-
いわゆる消尽論とリサイクル品の問題

第1 消尽論とは

特許権者は特許発明にかかる製品の「生産」だけでなく「譲渡」する行為も独占しています(特許法68条本文、2条3項)。例えば、特許権者であるメーカーから特許製品を購入した小売店が消費者に特許製品を販売する行為なども「譲渡」にあたります。そうすると、特許法の文言上は、小売店の行為は特許権侵害になりますので、小売店はメーカーから通常実施権の許諾を得なければならないことになります。

しかし、この結論は、常識的に考えておかしいのではないかと思われることでしょう。製品というのは、「生産」されると、メーカーから小売店、小売店から消費者というように転々流通することが予定されています。仮にメーカーが許諾した人でなければ特許製品の「譲渡」ができないとなると、物の円滑な流通が妨げられてしまいます。また、メーカーは、小売店に販売したときに受領する代金以外にも、同一製品の流通過程において“実施料”というかたちで二重三重に利益を得ることができることになってしまいます。このような不都合を回避するために、判例で「消尽論」という理論が確立されました。

「消尽論」とは、特許権者によって譲渡された特許製品については、特許権者には利益を得る機会が保障されたのだから、取引の安全の観点から、当該特許製品に対する特許権者の権利行使を原則として認めない、というものです。特許製品の「譲渡」を行う者は、この特許製品は特許権者によって譲渡されたものだと反論することで、特許権者からの差止請求等を免れることができます。

第2 消尽論が認められる範囲 -リサイクル品との関係

他方で、「消尽論」が認められるのは、特許権者によって譲渡された物と同一の物に限定されます。特許製品が一度効用を終えた後、加工や部品交換などされて新たな特許製品として「復活」したと評価できる場合には、「消尽論」は認められません。なぜならば、新しく「復活」した物については、特許権者は利得を得ていませんので、その機会を保障する必要性があるからです。「復活」したか否かは、「特許製品の属性、特許発明の内容、加工および部材の交換の態様のほか、取引の実情等も総合考慮して判断」(インクタンク事件、最判平成19年11月8日民衆61巻8号2989頁)されます。例えば、裁判例では、空のPC用インクカートリッジにインクを補充する行為や使い捨てカメラのフイルムを交換する行為は「復活」したと評価できるとしています。他方で、錠剤を一度砕いて錠剤にし直す行為は、砕いた時点で錠剤の効用が損なわれていませんので、「復活」したとはいえないとしています。

第3 本件の帰結

本件では、E社の販売する「中古品」は、もともとはB社によって製造・販売された浄水ポットαですから、「消尽論」が認められ、B社の請求が認められない可能性が高いです。一方、F社の販売する「リサイクル品」は、一度浄水効果を喪失した浄水ポットαを加工して「復活」させたようなものです。よって、F社については「消尽理論」が認められないケースに当たり、B社の請求が認められる可能性が高いと言えます。

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