意匠法ケーススタディその2 勝手にデザインを利用された場合の対処法

<前提となる事実>
 Aさんは、家具の製造・販売を行うB社に勤めています。このたびAさんは、他に類例のない個性的なデザインの椅子αをつくりました。B社は、椅子αは必ずヒットすると見込んで大量生産を開始しました。その後椅子αは、B社の見込み通り、その斬新なデザインが話題を呼び、発売されるとたちまち人気商品となりました。
 B社の椅子αは、当初は売上を順調に伸ばしていたが、ある時点から売上が減少し始めました。調査をしてみると、ライバル会社のC社が、一般消費者には見分けるのが困難なほどに椅子αと酷似したデザインの椅子βを製造・販売しており、これが原因で椅子αの売り上げが減少したことが分かりました
Q2. コラム「意匠法ケーススタディその1 意匠権を取得するには」の手続を経て、B社が椅子αの意匠登録を受けていた場合、B社はC社に対して、どのような請求をすることができますか?
本件のポイント-
意匠権侵害の原則類型

第1 はじめに

コラム「基礎編③ 知的財産権の侵害」でもお話ししたとおり、C社の上記行為がB社の意匠権を侵害するものであれば、B社はC社の上記行為を差し止めることができます(意匠法37条1項)。同時に、製造した物を廃棄させ(意匠法37条2項)、B社が被った損害を賠償するよう請求することもできます(民法709条)。損害賠償を請求する場合に、意匠法が定めた計算式にしたがって算定した額を、損害額として請求することができます(意匠法39条参照)。また、必要があれば、B社の椅子αと誤認させるような椅子βを製造・販売したことについて、C社に謝罪広告を出させることもできます(意匠法41条、特許法106条)。

では、どのような場合に意匠権侵害になるでしょうか?以下、意匠権の侵害の有無についての基本的な考え方を紹介します。

第2 意匠権侵害の判断方法

1 意匠権侵害の基本的な考え方

意匠権者は、登録意匠について、これと同一または類似の意匠を「実施」(意匠法2条3項)する権利を独占しています(意匠法23条本文)。この意匠権者が独占している「実施」態様、すなわち登録意匠と同一または類似する意匠の「実施」を、他人が無断で行えば、原則として意匠権侵害になります。

同一というのは、文字通り登録意匠と全く同じであることを指します。「デットコピー」といわれる類型です。これが意匠権侵害になることは疑いがないと思います。

もっとも登録意匠と全く同じというケースはほとんど無く、何かしら手を加えてデットコピーになるのを回避しているのが一般的です。そこで実務では、「登録意匠との類似性」が一番激しく争われるポイントになっています。

「意匠登録との類似性」は、①登録意匠の物品と類似しており(物品の類似性)、かつ②そのデザインが類似する(形態の類似性)場合に認められます。

①物品の類似性

物品の類似性は、登録意匠の物品と用途・機能面で共通性があるかで判断されます。例えば、鉛筆と万年筆は筆記用具としての用途、化粧用パフとクレンジング用品は洗顔用品としての用途に共通点があります。したがって、鉛筆のデザインを万年筆に、化粧用パフのデザインをクレンジング用品にそれぞれ流用した場合、物品の類似性が認められ、意匠権侵害と認められる可能性があります。

②形態の類似性

形態の類似性は、デザインの特徴的な部分(要部)を比較して共通性があるかで判断されます。この形態の類似性の判断は、「需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行う」こととされています(意匠法24条2項参照)。したがって、一般的に需用者が注目しないような部分、例えば物品の裏面部分やありふれた形態部分に共通性が認められても、形態の類似性があるとはいえません。

以上の説明まとめますと、意匠権侵害が認められる場合というのは下の表のようなケースになります(「○」「×」はそれぞれ意匠権侵害の成否を表します)。

形態(デザイン)
同一 類似 非類似
物品 同一 ×
類似 ×
非類似 × × ×

2 関連する問題

意匠権侵害があると認められるようなケースでは、これを幇助するような行為も意匠権侵害とみなされます(間接侵害)。具体的には、①登録意匠の物品にのみ用いられる専用品を生産・譲渡等する行為、②侵害品を譲渡等する目的で所持する行為がこれにあたります(意匠法38条参照)。間接侵害という概念については、詳しくはコラム「特許法ケーススタディその6 部品の下請事業者などへの対処法」を参照してください。

一方で、登録意匠との同一性ないし類似性が認められても、例外的に意匠権侵害とならないケースもあります。具体的なケースについては特許法の場合と共通しますので、そちらのコラムを参照してください。

第3 本件の帰結

本件では、C社の製品は、B社の登録意匠と同一物品である椅子であり、かつ一般消費者には見分けるのが困難なほどに椅子αのデザインと酷似していたのですから、B社の意匠権を侵害するものと認められる可能性は高いでしょう。

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