商標法ケーススタディその4 商標登録前のブランドの保護

<前提となる事実>
 Aさんは、老舗和菓子店「あべ」を営んでいます。「あべ」は埼玉県に1店舗しかない小さな店ですが、地元では和菓子がおいしいと評判のお店です。
 この度「あべ」の和菓子が埼玉の銘菓に選ばれ、埼玉県周辺地域で話題になりました。
 そこでAさんは、これを機に「あべ」ブランドを全国に広めようと考えました。
 検討の結果、商標登録は難しいだろうと思い、「あべ」の商標登録をしないことにしました。
 もっとも地元では「あべ」のブランド力があることから、Aさんは和菓子店で商品には「あべ」の商標を付して製造・販売することを続けていました。
 Cさんは、Aさんの老舗和菓子店「あべ」と同じ商圏で和菓子店を営む、いわゆるライバル関係にある者です。Cさんは、「あべ」の商標登録がなされないのをどうにか利用して、Aさんを困らせてやろうと目論んでいました。
Q4. Cさんは、Aさんに無断で「あべ」という商標を付して、和菓子の製造・販売を開始しました。 なお「あべ」の商標登録はされていません。
このような場合に、AさんはCさんに対してどのような請求をすることができますか?
本件のポイント-
商標登録前の商標使用者の保護

第1 はじめに

本件は、Aさんの「あべ」というブランド力をCさんがかってに利用しているという点で、コラム「商標法ケーススタディその2 勝手にブランドを利用された場合の対処法」と状況は似ています。しかし、Aさんは「あべ」の商標登録をしていないので、同コラムで説明したことがそのままあてはまるケースではありません。このような場合、Aさんとしてはどのような対応をしたらいいでしょうか?

先に結論を申しますと、「不正競争防止法」という法律によって、商標法の場合と同様の保護を図ることができます。不正競争防止法とは、事業者間の自由競争原理を逸脱するような行為(以下、「不正競争」)を規制する目的の法律です(不正競争防止法1条参照)。そして、商標などの表示が有する信用力・ブランド力を勝手に利用するような行為はまさに自由競争原理を逸脱するものですから、商標法とは別に規制されています。

以下、不正競争防止法ではどのような保護が図られているのかについて説明します。なお不正競争防止法に関しては、コラム「不正競争防止法の概要」で説明します。

第2 不正競争防止法によるブランド力の保護

1 どのような場合に不正競争防止法上の規制対象になるのか?

ブランド力に関して、不正競争防止法上規制対象になるのは、主として①「周知表示混同惹起行為」(不正競争防止法2条1項1号)と②「著名表示冒用行為」(不正競争防止法2条1項2号)の2つです。

(1) 周知表示混同行為

「周知表示混同行為」とは、他人の商品や営業に関する表示(以下、「商品等表示」)で「需要者の間で広く認識されているもの」と同一・類似の商品等表示を使用し、他人の商品や営業と混同を生じさせる行為のことをいいます。ここにいう「混同」とは、商品や営業の主体についての誤認が生じる場合のこと、及び系列店、グループ会社など組織上・経済上なんらかの関連があるという誤認が生じる場合のことをいいます。

(2) 著名表示混同行為

「著名表示冒用行為」とは、他人の著名な商品等表示と同一・類似のものを使用することをいいます。①「商品等表示混同行為」との異なり、「混同」が生じる必要はありません。その代わり、使用される商品等表示が特定の地域だけでなく、全国的に知れ渡った「著名」なものである必要があります。

2 本件の帰結

本件の場合、Aさんの「あべ」の商標は、埼玉県内という地域で広く認識されているものです。Cさんも同じく和菓子を販売する者ですから、Cさんが「あべ」の商標を使用すれば、Cさんの商品はAさんの老舗和菓子店「あべ」の商品、あるいはのれん分けなど「あべ」と関連するお店の商品との誤認を招くおそれがあります。したがって、Cさんの行為は①「周知行為混同惹起行為」に該当する可能性が高いといえるでしょう。Cさんの①「周知表示混同惹起行為」によって、Aさんの「営業上の利益」を侵害された場合には、AさんはCさんに対して、当該行為の差止請求(不正競争防止法3条1項)や損害賠償請求(不正競争防止法4条)などを行うことができます。

第3 商標法との違い

ここまでの説明を聞いて、「不正競争防止法でも商標法の場合と同じようなことができるのだから、商標権を取得する意味がないのではないか?」と思われる方もいるでしょう。確かに、どちらも同一・類似の商標ないし商品等表示の使用に対して、差止請求や損害賠償請求ができる、という点で共通します。以下2つの点で、商標登録をするメリットあるとされています。

① 保護が受けられる範囲が広い

1つめのメリットは、保護が受けられる商標の範囲です。商標法の場合、登録された商標であれば、ブランド力が生まれているかにかかわらず、全国一律の保護を受けることができます。これに対して、不正競争防止法による保護がなされるのは、現にブランド力が生まれている「商品等表示」であり、かつブランド力がある地域に限定されます。したがって、まだブランド力が生まれていない商品等表示や地域では保護を受けることができません。

② 裁判で比較的簡易に救済を得られる

商標権侵害の場合、商標権者は、①自己に商標権が帰属していることと、②商標権が侵害されたこと(同一・類似の指定商品・役務について、同一・類似の商標を使用)を主張立証する必要があります(詳しくは、コラム「商標法ケーススタディその2 勝手にブランドを利用された場合の対処法」)。このうち、①商標権の帰属については登録がなされ公報に掲載されていますから、簡単に主張立証することができます。したがって、商標権者としては、②商標権の侵害があったことに主張立証の重きを置けばいいことになります。

これに対して、不正競争防止法上の「周知表示混同行為」の場合、自己の「商品等表示」との「混同」の発生(ほぼ商標権の侵害と要点は同じです)のほかに、自己の「商品等表示」が「周知」であることも主張立証しなければなりません。また、「著名表示冒用行為」の場合も、自己の「商品等表示」が「著名」であることの主張立証が必要です。この「周知」や「著名」という概念は、明確な判断基準があるわけないため、その成否が激しく争われる可能性があります。

そうすると、請求する者としては、商標権侵害の場合の方が、主張立証が容易であるといえるでしょう。

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