出向・転籍

第1 出向

1 出向とは

出向とは、従業員が雇用されている会社(出向元)における従業員たる地位を保ったままで、相当長期間にわたり他の会社(出向先)の業務に従事することをいいます。簡単にいうと、自分の企業に籍を置いたまま他の企業で働くことですが、企業をまたがった人事異動である点で配転と区別されます。

出向は、①子会社・関連会社への経営・技術指導、②従業員の能力開発・キャリア形成、③人事交流、など様々な目的のために利用されています。

2 出向命令権の存在

では、この出向についても、配転と同様に個々の従業員の同意は不要なのでしょうか。

この点について、出向についても個々の従業員の同意は必要ないと考えられています。ただし、出向は企業をまたがった人事異動であり、労務提供先の変更を伴いますから、従業員に及ぼす影響が配転の場合よりも大きいといえます。そこで、従業員の意思に反する出向命令が有効であるためには、就業規則等の明示の根拠規定に加え、出向命令が人事異動の手段として受容できるものであることが必要です。具体的には、出向先の労働条件・出向期間・復帰条件等従業員の利益に配慮した定めがあることが必要といえるでしょう(最高裁平成15年4月18日判決)。参考までに、就業規則の一例を示しておきます。

第○条(出向)
1 会社は、業務上の必要がある場合は、従業員に対し、当社に在籍のまま他社に出向を命ずることがある。
2 出向期間は3年以内とする。ただし、業務上の必要性がある場合、その期間を2年間の範囲内で延長することができる。
3 会社は、第1項の命令を発する場合、原則として命令日の1週間前に内示する。
4 第1項の定めにより出向した社員(以下、「出向社員」という。)に対して支払われる賃金の水準は、出向前の水準を下回らないものとする。
5 出向社員に対する就業規則の適用及び労働基準法その他の法令における使用者の責任については、出向元と出向先の間で締結される出向契約によって定め、対象労働者に明示するものとする。
6 出向元復帰の際は、原則として原職に復帰するものとする。
7 従業員は、第1項の命令に対し、正当な理由がない限り拒否することはできない。

3 配転命令権の濫用

このように出向命令権があったとしても、業務上の必要性、対象労働者の選定状況、その他の事情に照らし、濫用になるような権利行使は認められません(労働契約法14条)。

そして、裁判例によると以下のような事情に照らし、濫用にあたるかが判断されています。

・労働条件に及ぼす不利益の程度(大阪高裁平成12年7月27日)

・私生活に与える不利益の程度(長野地裁松本支部平成元年2月3日判決)

・不当な動機や目的の有無(大阪高裁平成2年7月26日判決)

・出向先における労働条件の説明(大阪高裁平成17年1月25日判決)

これらの事情をよくみると、配転命令権の濫用と同じような事情を用いて判断していることがわかりますね。

第2 転籍

1 転籍とは

転籍とは、従業員が他の会社で業務に従事するために元の雇用主との雇用関係を終了させて、従業員の地位を移すものをいいます。「転籍出向」や「移籍出向」と呼ばれることもありますが、転籍は通常の出向とは異なり、転籍元との雇用関係は終了することから、従業員が転籍元へ復帰することは予定されていません。

転籍も、出向と同様に子会社・関連会社への経営・技術指導のためや、あるいはリストラの一環として行われるなど幅広く利用されています。また、今後は高齢者の雇用確保のために積極的に活用されることも予想されています。

2 転籍命令権の存在

転籍についても配転や出向と同じように従業員個々の同意は不要なのでしょうか。

結論からいうと、転籍の場合は配転や出向のような就業規則等の明示の根拠規定では足りず、原則として従業員の個別具体的な同意が必要であると考えられています。なぜなら、転籍は、元々いた会社との雇用契約を解除して、新たな会社と雇用契約を結ぶことになるのですから、雇用契約の核となる部分の変更を伴います。それにもかかわらず、従業員の意思に反して、雇用主の一存で変更することは認められないのです。

ただし、まったく例外が認められないわけではありません。千葉地裁昭和56年5月25日判決は、転籍先が転籍前の会社の一部門を独立させた関連会社であり、転籍前の会社の入社案内に勤務場所の1つとして記載され、採用面接において関連会社への転属がありうると説明していた事案において、個別的同意は不要であると判断しました。

とはいえ、個別的同意が不要であると判断されるケースはごくごく例外と考えるべきですから、転籍を行うためには、従業員の個別同意が必要であると認識しておいてください。

3 転籍命令権の濫用

転籍命令権の濫用も配転や出向と同じような枠組みで判断されることになります。もっとも、転籍の場合は、原則として従業員の個別同意が必要ですから、従業員の意思に反して一方的に転籍命令を行うことができません。ですから、濫用が問題になるケースは少ないといえるでしょう。

第4 最後に

コラム「配置転換」と今回のコラムを通して、配転・出向・転籍と一般的な人事異動について見てきました。これらの人事異動を適切に行うためには、従業員との雇用契約の内容や採用過程で交わす書面、就業規則など、前もってしっかりと準備をすることが必要です。これらの準備に不安があるようでしたら、ぜひ一度ご相談ください。

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