パワー・ハラスメント

第1 セクハラとの比較

パワー・ハラスメント(パワハラ)とは、職務上の地位・権限を利用した嫌がらせをいいます。最近になってセクシャル・ハラスメント(セクハラ)と同じく、耳にする言葉ですね。 まず、理解のために、セクハラとパワハラの違いを簡単に比較してみたいと思います。

① 法規制

セクハラが男女雇用機会均等法によって規定されているのと異なり、パワハラはそれ自体を規定する特別の法律はまだ存在しません。

② 法的に問題となり得る点

セクハラやパワハラは、理論上、①当該行為が本当にあったのか、②当該行為があったとしてその行為は違法なのかの2点が問題となりえます。

セクハラは密室での行為が多いため、①当該行為があったかどうかについても問題になることが多く、その後②その行為が違法かどうかも問題となります。

これに対し、パワハラは、他の従業員の面前で叱責する場合も多いため、行為自体があったか否かはあまり問題とならないことが多いといえます。そこで、主に、②当該行為の違法性が問題になってきます。

③ 雇用主が負う責任

セクハラの場合も、パワハラの場合も、雇用主は、被害にあった従業員から職場環境配慮義務違反を理由とした債務不履行責任や不法行為責任に基づく損害賠償請求をされる可能性があります。

第2 パワハラにあたる行為

セクハラと同様、パワハラについても、どのような行為が違法となるかをよく知っておいた上で、防止措置をとらなければなりません。そこで、パワハラについての近時の裁判例を確認してみたいと思います。

まず、裁判例におけるパワハラの違法性判断の基準について、福岡高裁平成20年8月25日判決は、他人に心理的負荷を過度に蓄積させるような行為は、原則として違法であって、例外的に、その行為が合理的理由に基づいて、一般的に妥当な方法と程度で行われた場合には正当な職務行為として違法性が阻却されると判断しています。

【パワハラを適法とした裁判例】
  • 上司の指示から1年以上たっても不正経理が是正されなかったため、「会社を辞めればすむと思っているかもしれないが、辞めても楽にはならないぞ。」と述べるなど厳しい指導をした事案において、正当な業務の範囲であると判断した(高松高裁平成21年4月23日判決)
  • 病院の事務員の事務処理上のミスに対して、何度か面接を行ったうえで、ミスの多さを指摘し、ミスを起こさないための具体的な指摘を行った事案において、患者の生命、健康を預かる医療機関では管理職のなす指示の範囲内であると判断した(東京地裁平成21年10月15日判決)
【パワハラを違法とした裁判例】
  • 職場の先輩が後輩に対し、冷かし・からかい、嘲笑・悪口、他人の前で恥辱・屈辱を与える、たたくなどの暴力等の行為をした(さいたま地裁平成16年9月24日判決)
  • 仕事上の指導中に物を投げつけたり、測量用の針の付いたポールを投げつけて怪我をさせた(津地裁平成21年2月19日判決)
  • 他の従業員の面前で頭を定規で叩いたり、蹴ったりした(東京地裁平成22年7月27日判決)
  • 暴力は伴っていないが、他の従業員の面前で「ばかやろう。」と罵ったり、「こんなこともできないのか。」と罵倒したりした(東京地裁平成21年1月16日判決)

これらの裁判例を踏まえると、指導が正当な業務の範囲内であるかどうかがきわめて重要であるといえ、その判断は、行為の目的、頻度、継続性の程度、被害者と加害者の関係等を考慮要素としてされています。
そして、暴力を伴う場合は当然に違法となりますが、暴力が伴わなくても、他の従業員の面前で厳しい指導を行うなど指導が適切でないと判断される場合もありえます。

第3 対応策

以上述べたことから、職務上の注意・指導をするにあたっては、以下のポイントに留意することが必要です。

①注意・指導の必要性

必要性に応じた注意・指導を行うことが重要です。たとえば、違法行為や、顧客の生命・健康に被害が及びうるような場合は、厳しい注意・指導が必要であり、それが許されるでしょう。具体的事案によって注意・指導の必要性が異なることに注意してください。

②注意・指導の内容

その注意・指導によって業務の改善につながるのか、人材育成につながるのかを考えてください。感情的になったり、単なる人格否定に終始したりせず、冷静に淡々と注意・指導を行うのがよいです。たとえば、厳しい言葉による指導を反復継続して行うこと、不必要に怒鳴り声を上げること、仕事外の事情について非難を加えること、などは違法と認定されやすいのでやめた方がよいでしょう。

③注意・指導の場所・人数への配慮

多数人の前での叱責は人格を傷つけられたと後に紛争になりかねません。そこで、注意・指導の内容に応じて、他の従業員の面前ではなく別室に呼んで行うようにしてください。もっとも、別室に呼べばどんな注意・指導でも許されるわけではありませんので、その点にも気をつけてください。

なお、パワハラであると部下から訴えられる根本原因は上司と部下とのコミュニケーション不足に下地がありますので、日頃からのコミュニケーションに注意するという点も忘れないでください。

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