普通解雇とその範囲

第1 はじめに ~解雇は大変~

解雇とは、雇用主が一方的に従業員との雇用契約を解約することをいいます。これに対し、雇用主・従業員両者の合意がある場合は、合意解約といいます(詳しくはコラム「退職勧奨の注意点」参照)。

コラム「求人の留意点」でも簡単に触れましたが、日本の雇用システムでは、雇用主に採用の自由が広く認められている反面、正社員を解雇しにくいとされています。したがって、一度従業員を正社員として雇うと、一方的に辞めさせるのはかなり大変です。社会常識的には、「当然解雇できるだろう」というようなケースでも、いざ裁判になると解雇無効と判断されることがしばしばあります。

解雇には、①能力不足・成績不良等の従業員個人の問題による解雇(普通解雇)、②会社の経済的事由による解雇(整理解雇)、③企業秩序維持のための解雇(懲戒解雇)などがありますが、まず今回は、①普通解雇について触れていきたいと思います。

第2 従業員を解雇するためには

雇用主の中には、「社員を大切にする」ことを第一に考え、解雇など考えないという方も多いと思います。しかし、問題社員を放置することが「社員を大切にする」ことではありません。まじめでやる気のある従業員のモチベーション維持のためにも、時には毅然とした対応をとることが必要な場合があります。

法律的には、普通解雇というのは民法627条1項に基づく雇用契約の中途解約を意味します。では、従業員を普通解雇するためには、どのようなプロセスを経ればよいのでしょうか。

まず、解雇事由を就業規則に規定する必要があります(労働基準法89条3号)。当然ですが、「気に入らないからクビ」というのは無理で、解雇事由として就業規則に記載されている事項に該当しないと解雇することはできません。

次に、解雇せざるをえなくなった場合には、当該従業員にその旨を通知し、協議・調整を行います。この段階で従業員が任意退職の意向を示せばあまり問題は生じません。
協議・調整が整わない場合には、原則として解雇の30日前に従業員に対し解雇の予告をするか、30日分の平均賃金(予告手当)を支払わなければなりません(労働基準法20条1項)。

もっとも、このようなプロセスを経ても必ず従業員を解雇できるわけではなく、解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合には、解雇は無効となります(労働契約法16条:解雇権濫用法理)。

従業員が解雇無効を主張する場合、裁判になることも珍しくありませんから、雇用主としては、紛争にならないよう、また、もし裁判になっても問題がないようにしなければなりません。以下では、そのポイントをお話します。

第3 適切な解雇のための対策

解雇権濫用についての裁判例は、①長期雇用を前提として採用された従業員と、②即戦力として能力を買われて採用された従業員で異なる判断をする傾向があります。

1 ①長期雇用を前提として採用された従業員

この場合、裁判所は、能力不足といえども簡単に解雇を認めず、忍耐強く指導・教育等に取り組むことを求める傾向が強いといえます。そして、その過程を経ないと解雇を有効と認めていません。これを前提にすると以下のような対応が考えられます。

  1. a. まず、従業員に指導や注意をすることなく、いきなり解雇をすることは、解雇権濫用と判断される可能性が高いため、してはいけません。
  2. b. 次に、能力に問題のある従業員がいる場合は、おおまかにいうと「問題点を具体的に指摘→問題点改善のための努力を促す→それでも問題点が改善されない場合に解雇」というプロセスを経る必要があります。

ここで、社員が「能力不足」であることを裁判所に理解してもらうためには、「●●は仕事が遅い」や「●●は注意をしても責任転嫁するばかりで反省がみられない」などと抽象的な主張をするだけでは足りません。「何年何月何日」に、「どこ」で、「どのような行動・どのような発言」があったがゆえに「仕事が遅い」や、「反省がみられない」と判断したのかを具体的に説明できるように記録しておかなければなりません。これを踏まえて次のような対応をとってください。

(a) 問題点・改善点を具体的に指摘します

問題点について記録を残す際には、他者との比較を意識してください。たとえば、他の従業員であれば平均的には1ヶ月程度でできる業務を3ヶ月経過しても終了できない、というふうにするとよいです。

また、仮にやる気やモチベーションアップのために、あえて昇格・表彰等を行うときは、本人に伝える際に、同時に問題点も指摘するようにしてください。なぜなら、後になって「会社から高い評価を受けていたのに能力不足で解雇はおかしい」との反論がありうるからです。

(b) (a)を踏まえ、忍耐強く指導・教育等を行います。

習熟が必要な業務の場合は、特に根気強い指導・教育が必要です。また、会社から従業員に対し改善のためのプラン立案や、始末書等を要求することも考えられます。ただしこの場合には、あくまで自主的に従業員の行動を求めるのに止め、強要にならないように注意してください。

(c) (a)・(b)を経ても効果がないときは、段階的に降格・降職や、配転・職種変更を検討します

(d) 取引先からの苦情、実害を記録化します

仮に裁判になった場合には、重要な証拠になります。

第4 解雇は最終手段

以上のように適切に普通解雇をするために、雇用主としてすべきことについて触れてきましたが、このような手立てをつくしても、解雇という手段をとると従業員と紛争になることは避けられないのが実情です。ですから、最悪の場合に備えて上記のような準備を行いながらも、従業員との話し合いで退職してもらうこと(退職勧奨)を最優先に考えるようにしてください。

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