整理解雇とその範囲

第1 はじめに

会社の経営不振などで、人件費を削減しなければならないというときに行うのが整理解雇です。つまり、整理解雇は、雇用主が経営上の理由により人員削減の手段として行うもので、従業員側の事由を直接の理由とした解雇ではありません。そこで、整理解雇には、普通解雇と比べてより具体的で厳しい法律上の制約が課されています。

具体的には、整理解雇の有効性は普通解雇と同じように解雇権濫用法理(労働契約法16条)で判断されるのですが、その判断が下記の4要素によって厳格になされています。

第2 整理解雇の4要素

整理解雇については、実務上、①人員削減の必要性、②解雇回避措置の相当性、③人選の合理性、④手続きの相当性、の4つの事情を総合的に判断し、解雇の有効性を判断するという手法が定着しています。ですから、雇用主としては、万が一に備えてこの4つの判断要素について知っておかなくてはなりません。

以下、個々の判断要素についてのポイントと、雇用主としてとっておくべき対応をお話したいと思います。

第3 ①人員削減の必要性

1 ポイント

人員削減の必要がないのに、整理解雇に名を借りて従業員を解雇することは許されないということです。

もっとも、会社の人員は、景気動向や会社の将来の事業方向などを含めた経営上の判断として決せられるものですので、裁判所が判断しづらいという側面があります。そこで、経営専門家つまり雇用主の判断が尊重される傾向にあるため、「誰が見てもおかしい」という行動をとらないようにすることがポイントです。

2 対応

雇用主としては、整理解雇後すぐに、大幅な賃上げ、多数の新規採用、高率の株式配当を行うなど、明らかに整理解雇を行って人件費を削減する必要があることと矛盾した行動は絶対にとるべきではありません。

また、裁判になった場合には、経営判断のプロセスを立証する必要も出てきますので、決算書や会計帳簿等、人員削減の必要性を基礎づける資料がある場合は保管しておいてください。

第4 ②解雇回避措置の相当性

1 ポイント

いきなり解雇という強い手段に訴えるのではなく、他の措置を優先させるべきということです。

形式的に「あれをやれば相当だ」いう対策はなく、会社の状況によってとるべき措置は異なります。そして、会社がとった具体的措置から総合的に判断されることになります。

なお、整理解雇を避けるための措置ではないですが、整理解雇による従業員の不利益を緩和するための措置をとった場合には、その点も考慮されます。たとえば、割増退職金の提示、再就職先の斡旋などです。ただし、やはりこれらの事情は「解雇」自体を回避するものではないので、二次的・付随的なものとして考慮されるにとどまります。

2 対応

解雇回避措置については、この対応をとることのメリットとデメリットを同時に考え、会社が置かれている状況からとり得る手段をとらなければなりません。

a. 広告費等の経費削減

⇔企業活動の制約による減収

b. 役員報酬の削減

⇔優秀な役員が会社を離れるおそれ

c. 残業規制

⇔企業活動の制約による減収

d. 新規採用の停止・縮小

⇔従業員の年齢構造に歪みが生じる

e. 中途採用・再雇用の停止

⇔経験豊富な人材の確保が困難になる

f. 昇給停止や賞与の減額・不支給

⇔従業員のモチベーションの低下により、企業活動が停滞する

g. 配転・出向・転籍

⇔能力の問題や、受入先にも限界がある

h. 非正規従業員の雇止め

⇔正社員の割合が増え、雇用が硬直化する

i. 希望退職者の募集

⇔コストの増加、優秀な従業員が退職するおそれ

このように、解雇回避措置のメリットとデメリットを具体的に考えた上で、とり得る手段を考える必要があります。

第5 ③人選の合理性

1 ポイント

人選が恣意的なものであってはならず、たとえば、労働組合の組合員であるという理由のみでは、整理解雇の対象にすることは認められません。

2 対応

前もって明示的な人選基準が示せればよいのですが、誰が見ても「合理的な基準」を作成するのは非常に困難です。また、小規模の会社でさえ常に明示的な基準を作成することを求めるのは現実的とはいえません。現実的には、必要に応じて以下のような視点を考慮しつつ合理的と思われる基準を作成すれば足りるでしょう。

a. 勤務態度(欠勤・遅刻・規律違反歴)

b. 勤続年数・休職日数

c. 仕事の実績・資格

d. 正規雇用か非正規雇用か

第6 ④手続の相当性

1 ポイント

整理解雇の対象になった従業員個人へはもちろん丁寧な説明が必要です。それに加えて、労働協約の規定で労働組合との協議が必要になることもあります。

2 対応

一番よいのは、労使双方の署名のある議事録を作成しておくことです。この議事録があれば、もし裁判になったとしても手続きの相当性を認めてもらううえで非常に役立つでしょう。 また、労働組合が作成したビラや会報を用いて、会社・労働組合間のやりとりが認定できることもありますので、会社側が作成した資料だけでなく、労働組合側が作成した資料についても保管しておくとよいです。

なお、労働組合との協議が義務的でない場合でも、信義則上の協議義務が認められる可能性もありますので、協議を行った方が無難です。

労働組合がない場合には、従業員個々人に対してより丁寧な説明をしたり、従業員の代表者団体がある場合には、その団体と協議を行うことも考えられます。

第7 解雇は最終手段

以上のように整理解雇のために、雇用主としてすべきことについて触れてきましたが、このような手立てをつくしても、整理解雇は従業員側の事由を直接の理由とした解雇ではありませんから、従業員側の強い反発が予想されます。

そこで、まず目指すべきは従業員との話し合いで退職してもらうこと(退職勧奨)と考えて、上記のように集めた資料を整えて、粘り強く話合いをすることが必要です。

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