残業代請求に関連する諸問題
労基署からの改善命令
労働基準監督官には、臨検・書類提出・尋問の権限があります(労働基準法111条)。それらの権限を行使しての調査の結果、労働基準法等の違反が見つかり、しかもその違反が重大なものである場合には、労働基準監督署長の名前で「命令書」という形で業務改善等の命令が出されることがあります。この命令に従わない場合には刑事罰が科されるおそれもあります。ただし、出された命令の内容に不服があれば、行政不服審査法、行政事件訴訟法により、争うことは可能です。
なお、労働基準監督官の調査によって、労働基準法等の違反とはいえないものの、改善が望ましいと判断された場合には、指導票というものが交付されることがあります。また、労働基準法等の違反があった場合にも、命令書が交付されるのではなく、是正勧告書が交付されることもあります。是正勧告を受けた場合は、定められた期限までに当該事項を是正して、労働基準監督署に書面によって報告をしなければなりません。
付加金
労働基準法114条は,使用者が時間外・休日・深夜労働の割増賃金の支払義務に違反した場合または年次有給休暇中の賃金を支払わなかった場合には,裁判所は,労働者の請求により,それらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払い金のほかこれと同一額の付加金の支払いを命じることができると定めています。
裁判所は,違反の程度や態様,労働者が受けた不利益の性質や内容,その後の使用者の対応に応じて付加金の額を決定することになります。つまり,労働基準法に違反して,残業代の支払いをしていなかった企業には,最大で,正当な残業代の2倍の額を支払わなくてはならないおそれがあります。
遅延損害金
さらに、残業代に関し、支払期日から実際に支払われる日までの間について、一定の利率の遅延損害金も請求することができます。残業代については、会社は商法上の商人とされていますので(同法第4条)、年6%の割合による遅延損害金の請求が可能です(同法第514条)。
また,すでに退職している場合,退職日の翌日から実際に支払われる日までの間については、年14.6%の割合による遅延損害金の支払が必要となります(賃金の支払の確保等に関する法律第6条第1項、同法施行令第1条)。
時効
労働基準法115条によれば、消滅時効について、賃金債権は2年、退職金債権は5年と定められています。そのため、使用者が時効の援用(注)を行った場合、労働者による残業代請求が過去2年分しか認められないことになります。
(注)時効の援用とは、時効によって利益を受ける者が時効が完成したことを主張することをいいます。
時効が完成するのを止めるためには、「時効の中断」を行う必要があります。時効の中断事由としては、労働者による請求、使用者(会社)による承認が挙げられます。月1回賃金が支払われている会社の場合、残業代についての債権が毎月毎月消滅時効にかかってしまいますので、早めに会社に請求することが望ましいといえます。