最大決平成25年9月4日(遺産分割審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件)~非嫡出子相続分違憲判決
2015年08月25日
1. 事案の概要
本件は、非嫡出子の法定相続分は嫡出子の2分の1とする民法の規定(民法900条4号但書前段。以下、「本件規定」という。)の憲法適合性が争われた事案です。
平成13年7月、被相続人Aが死亡しました。当時、相続人としては、Aの妻であるB、AとBの子であるX1、X2、AとBの子で亡Cの代襲相続人であるX3及びX4、並びにAとその内縁の妻Dの子であるY1及びY2がいました。
平成16年11月、Bが死亡し、X1、X2、X3及びX4(以下、まとめて「Xら」という。)がBを相続しました。その結果、Aの相続財産に関して各相続人の法定相続分は、X1とX2が各48分の14、X3とX4が各48分の7、Y1とY2(以下、まとめて「Yら」という。)が各48分の3になります。
その後、Xらは、Yらに対して、法定相続分に基づいて計算した具体的相続分での遺産分割を求めて、調停及びそれに引きつつ審判を申し立てました。これに対して、Yらは、一貫して、本件規定は憲法14条1項に反し無効であると主張しました。
2. 判決要旨
最高裁は、本件規定は、「遅くともAの相続が開始した平成13年7月当時においては、立法府の裁量権を考慮しても、嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を区別する合理的な根拠は失われていた」として、憲法14条1項に違反している判示しました。主な理由として、「父母が婚姻関係になかったという、子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず、子を個人として尊重し、その権利を保障すべきであるという考えが確立されてきている」ことを挙げています。
そして、平成13年7月に死亡したAの相続に関しては、本件規定は「憲法14条1項に違反し無効でありこれを適用することはできない」とし、遺産分割をやり直させるため原審に差し戻しました。
なお本決定は、過去に本件規定を合憲とした判例を変更するものではない旨述べると共に、本件の「相続の開始時から本決定までの間に開始された他の相続につき、本件規定を前提としてされた遺産の分割の審判その他の裁判、遺産の分割の協議その他の合意等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼすものではない」として、本件規定を無効とする判断の遡求効を制限しています。
3. 実務に与える影響
本決定を受けて、平成25年12月11日、本件規定を削除した新しい民法が公布・施行されました。この改正民法は、平成25年9月5日以降に開始した相続について、適用されることになっています。そうすると、平成25年9月4日以前に開始した相続について、本決定との関係でどのように処理すべきなのかが問題となります。この問題は、相続開始時点が、本件規定が違憲だとされた平成13年7月以降の場合と、平成13年7月より前の場合とに区分されます。
①相続開始日が平成13年7月から平成25年9月4日の場合
上記判旨の通り、平成13年7月以降に相続が開始した場合であっても、「遺産の分割の審判その他の裁判、遺産の分割の協議その他の合意等」(以下「遺産分割の合意等」という。)により「確定的なものとなった法律関係」には、本件規定を違憲とした本決定は影響しないとされています。裏返せば、未だ「確定的なものとなった法律関係」とは言えない場合、いわば相続の問題が未解決の場合には、本件規定を違憲無効とした本決定の判断を前提として、相続に関する紛争を処理することになります。
なお何をもって「確定的なものとなった法律関係」と言えるかについては、本決定では明言されていません。この点に関しては、今後の判例・学説の解釈に委ねられることになるでしょう。参考として、法務省は、次のような見解を示しています。
- (ⅰ)遺産分割の審判が確定している場合や遺産分割協議が成立している場合には、「確定的なものとなった法律関係」といえる
- (ⅱ)相続財産が、当然分割となる過分債権の場合には、相続開始によって「確定的なものとなった法律関係」とは言えない。相続人全員が相続分にしたがい払戻しを受けた時点で、「確定的なものとなった法律関係」となる。
※詳しくはhttp://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00143.html
②相続開始日が平成13年6月以前の場合
本決定は、過去に最高裁が「相続開始時点での本件規定の合憲性を肯定した判断」を変更しないとしています。過去に本件規定が合憲だとした最高裁判例のうち、もっとも相続開始時点が遅いのは平成12年9月です(最判平成15年3月31日)。そうすると、この2つの判例で判断されていない期間(平成12年10月~平成13年6月)に関しては、未だ本件規定が合憲か否か分からないことになります。よって、この期間に開始した相続をめぐる紛争では、本件規定の合憲性を争うことができると考えることもできるでしょう。もっとも、本決定が、本件規定の違憲無効の判断の遡求効を制限している趣旨に照らすと、実質的には「遺産分割の合意等」がなされていない未解決の場合でなければ、本件規定の合憲性を争うことは難しいと思われます。
以上