強制執行の基礎

第1 強制執行はなぜ必要か

皆さんは、取引先に商品を届けたのに、取引先が売掛金100万円を支払ってくれない場合、どうするでしょうか?まずは、取引先に売掛金を支払うよう連絡をすると思います。また、場合によっては、内容証明郵便といった書面で支払の催促をすることもあるでしょう。取引先が売掛金を支払ってくれないからといって、暴力に訴えたり、取引先が所持している現金を無理矢理奪ってきたりすることはできません。法治国家では、各自が法律に頼らずに自力で紛争を解決すること(これを「自力救済」といいます。)は禁止されているからです。

催促をしても支払ってくれない場合、次の手段として、裁判を起こして解決を図ることが考えられます。自力救済をするのではなく、国家が準備している公平・中立な解決手段である民事訴訟で「取引先が皆さんに100万円を支払え。」という判決を目指して訴訟活動を行うことになります。もっとも、裁判で勝っても、それだけでは直ちに100万円の支払いを現実に受けることができるわけではありません。語弊を恐れずに言えば、裁判はあくまで「取引先は100万円を支払わなければならい。」ということが公的に確認されるに過ぎないからです。

そこで、判決で確定した権利を実現するための手段として、強制執行という制度が準備されています。たとえば、取引先が所有している土地を競売にかけてその代金を売掛金の支払にあてたりすることができます。つまり、強制執行は、民事訴訟において観念的に解決された紛争を現実的解決に導くためのものなのです。この、強制執行について規定している法律が、民事執行法です。

第2 強制執行とは

1 強制執行の種類

強制執行とは、債務名義に表示された債権者の債務者に対する私法上の個別的な請求権を、債権者の申立てに基づいて、国家権力が強制的に実現する手続のことをいいます。

強制執行には、金銭執行と非金銭執行があります。金銭執行とは、金銭の支払を目的とする強制執行のことをいいます。たとえば、皆さんが取引先に100万円の売掛金債権(金銭債権)を持っていたとすると、その100万円の支払を実現するため、取引先が所有している不動産を競売にかけ、100万円の代金を回収することです。

次に、非金銭執行とは、金銭の支払を目的としない請求権を実現するための強制執行のことをいいます。たとえば、皆さんが建物を買ったけれど買主がなかなか明け渡してくれないときに、建物の明渡しを実現するために強制執行する場合があげられます。

2 金銭執行の種類

金銭執行、すなわち金銭の支払を実現するための強制執行は、何を対象に執行を行うかでいくつかの種類に分けられます。民事執行法は、①不動産に対する強制執行(不動産執行)、②船舶に対する強制執行(船舶執行)、③動産に対する強制執行(動産執行)、④債権その他の財産権に対する強制執行(債権執行等)、について規定しています。またこれらに加えて、民事執行規則にもいくつかの類型が規定されています。

①不動産執行については、さらに①-1.不動産を競売で売ってその売却代金から支払にあてる強制競売と①-2.不動産を競売で売らずに不動産から得られる賃料などから金銭債権を回収する強制管理の2つがあります。

金銭執行の中でもいくつか種類があるのは、執行の対象によって合理的手続が異なるからです。たとえば、不動産には登記制度があるので、それを踏まえた手続が必要になります。また、債権は債権者と債務者のみとの間の法律関係で目に見えないものですから、そのような事情に応じた特別の考慮が必要になるのです。

強制執行の基礎

このように、金銭執行にはいくつか種類がありますが、どの手続を利用するかは特に定められていません。債務者が財産を多数所有しているのであれば、不動産であろうと動産であろうとどの財産を対象に強制執行をしてもよいとされています。

第3 言葉の説明

強制執行では、独自の用語が用いられることがありますので、ここで簡単に用語の説明をしておきます。

(1) 債権者・債務者

強制執行の手続では、申し立てた側=権利者側を「債権者」、申し立てられた側=義務者側を「債務者」と呼びます。また、債権者を「申立人」、債務者を「相手方」と呼ぶこともあります。どの言葉がどの人を指しているのかがわかりにくいと思いますので注意してください。

(2) 不動産

不動産とは、民法上の不動産(民法86条1項)から、登記できない土地の定着物(庭石、庭木など)を除いたものをいいます(民事執行法43条1項)。代表的な不動産は、土地・建物などです。民法上の不動産に該当しても、登記できないものは差押えの登記ができないので、執行の対象から除外されています。

また、不動産の共有持分は厳密には権利であって不動産という有体物ではないのですが、登記が可能なので不動産と同様に扱われています。

(3) 船舶・登録自動車等

これらは、民法上は動産にあたるものですが、価値が高く、法律上抵当権等の担保権の設定も認められているので、不動産に準じて扱われています。そのため、船舶執行について特別な規定があったり、(民事執行法112条)、登録自動車について特別な規定があったりします(民事執行規則86条~97条)。

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