最二小判H26.3.24(解雇無効確認等請求事件)
2015年08月25日
平成26年3月24日最高裁第二小法廷判決(平23(受)1259号)
1. 事案の概要
Xは、Y社において液晶ディスプレイの製造ラインを構築するプロジェクトのリーダーとして業務を行っていました。リーダーとしての業務は、帰宅が午後11時を過ぎることも多く、休日出勤することもしばしばありました。Xは次第にメンタルヘルスに異常を感じるようになり、通院をしていましたが、当初はそのことを会社の産業医には伝えませんでした。その後、Xはうつ病を発病し休職、休職期間満了後に解雇されました。Xは本件のうつ病は過重な業務に起因するものであるとして、解雇は無効であり、安全配慮義務違反等による債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償や未払賃金の支払を求めました。
なお、一審・原審ともに解雇無効の訴えを認めており、上告審での争点は解雇の無効を前提とした損害賠償額です。
2. 判決要旨
原審の東京高裁は、損害賠償額の算定につき、Xの行動がうつ病の発病及びその増悪に寄与したとして、過失相殺に関する民法418条(及び722条2項)の定める過失相殺の規定を適用もしくは類推適用して、Xの損害額を全損害額の8割と認定しました。
これに対し、最高裁は以下のように判断して原審判決を取り消し、東京高裁に差し戻しました。
使用者は、メンタルヘルスについて労働者からの申告がなくても、その健康に関わる労働環境等に十分な注意を払うべき安全配慮義務を負っているところ、労働者にとって過重な業務が続く中でその体調の悪化が看て取れる場合には、メンタルヘルス情報については労働者本人からの積極的な申告が期待し難いことを前提とした上で、必要に応じてその業務を軽減するなど労働者の心身の健康への配慮に努める必要があると判断しました。
そのうえで、Yが安全配慮義務違反等に基づく損害賠償としてXに対し賠償すべき額を定めるに当たっては、Xがメンタルヘルス情報を会社に申告しなかったことで、民法418条又は722条2項の規定による過失相殺をすることはできない、と判断しました。
3. 実務に与える影響
近年、労務管理においてメンタルヘルスについての対応を迫られる場面が増えています。本判決は会社側としては労務管理のうえで非常に重要なものといえるでしょう。本判決の影響で会社として直ちに何か対応すべきことができたわけではありませんが、会社が従業員に対して重い安全配慮義務を負っていることを再確認し、従業員の様子を見て業務量を調節するなどの労務管理を慎重に行うことが必要になってきます。