最判平成25年9月13日(求償金請求事件)~保証債務の弁済と主債務の時効中断
2015年08月25日
1. 事案の概要
本件は、保証人に対する保証債務の履行請求に対して、従前保証債務を履行していた保証人が主債務の消滅時効の完成を主張した事案です。
Xは、A銀行との間で、BがA銀行に対して負う債務(以下、「A債務」)を保証する旨の契約を締結しました。Yは、Xとの間で、保証委託に基づきBがXに対して負担すべき求償金債務について連帯保証する旨の契約を締結しました。
平成12年9月、XはA銀行に対してA債務を代位弁済しました。その結果、Xは、Bに対する求償金債権を取得しました(民法459条1項)。
平成13年6月にBは死亡しました。Yは、単独でBを相続して、その旨をXに告げました。その後Yは、上記連帯保証契約に基づく保証債務の履行として弁済を継続して行いました。
平成22年1月、Xは、Yに対して、保証債務の残部の履行を求めました。これに対して、Yは、主たる債務である求償金債権が、その発生時から5年が経過し、時効によって消滅しているから、保証債務も附従性によって消滅すると主張しました。
2. 判決要旨
最高裁は、「保証人が主たる債務を相続したことを知りながら保証債務の弁済をした場合、当該弁済は、特段の事情のない限り、主たる債務者による承認として当該主たる債務の消滅時効を中断する効力を有する」と判示しました。保証債務の弁済は、通常、主債務の存在を前提としていますので、主債務者兼保証人の地位にある者による保証債務の弁済は、主債務の存在を承認するものに他ならないと考えられるからです。また。保証人としての地位に基づいて主債務を承認することを含むような行為を行いながら、主債務者としての地位に基づいてこれと異なる行動をすることは想定し難いことも理由としています。
その結果、Yの主債務の消滅時効完成による消滅の主張は認められず、Xの請求が全部認容されました。
3. 実務に与える影響
本判決のキーポイントは、①相続によって“主債務者件保証人という地位”にある保証人であること、②保証人が、主債務を相続したことを認識して保証債務の弁済を行ったこと、の2点です。したがって、仮に本件でYの他に相続人がいた場合、Yが保証債務の弁済を行っても、保証人としての地位のない他の相続人との関係では、時効中断効はないと考えられます。また、仮に本件でYがA死亡の事実を知らずに保証債務の弁済を行っていた場合も、同様に時効中断効は認められないと考えられます。なお、本判決は、「特段の事情」がある場合には、時効中断効は認められないとしていますが、この「特段の事情」がいかなる事情なのかは明らかではなく、今後の学説・実務での解釈に委ねられています。
このように債務の承認と相続がからむ問題は、学説上も実務上も従来あまり意識されてきませんでした。高齢化社会を迎え、ますます相続をめぐる紛争の発生が予想される現代社会において、本判決は大変意義のあるものだといえるでしょう。
以上