最判平成26年1月14日(認知無効、離婚請求本訴、損害賠償請求反訴事件) ~認知者自身による認知無効の主張の可否
2015年08月25日
1. 事案の概要
本件は、認知者自身が血縁関係の不存在を理由として認知無効の訴えを提起した事案です。
X男は、平成15年3月、フィリピン国籍のA女と婚姻しました。平成16年12月、Xは、A女の連れ子3人のうち末子のY(当時8歳)を認知する旨の届出をしました。X男とYとの間には血縁関係がなく、認知当時Xはそのことを知っていました。
X男とA女は、平成17年10月から同居を開始したものの、一貫して不仲だったため、平成19年6月ごろから別居しました。それ以降、X男はYとほとんど会っていません。
そこでX男が、Yに対して、認知無効の訴えを提起しました。Y側は、血縁関係がないことを知って認知した者が、認知無効の訴えを提起することは許されないと争いました。
2. 判決要旨
最高裁は「認知者は、民法786条に規定する利害関係人に当たり、自らした認知の無効を主張することができるというべきである。この理は、認知者が血縁上の父子関係がないことを知りながら認知をした場合においても異なるところはない。」と判示して、X男の上記認知は無効とした広島高裁の判断を維持しました。その理由として、①認知する事情は様々であるから、認知無効の訴えを一切許さないと解釈するのは相当ではないこと、②血縁関係がないことを理由に認知が無効になることがある以上、子の保護の観点から、認知者自身による認知無効の主張を一律に制限する理由は乏しいこと、③認知による父子関係が発生する以上、認知者自身が、認知の効力について強い利害関係があることは明らかであること、を挙げています。
3. 実務に与える影響
本判決は、認知者による認知無効の主張を認める一方で、具体的な事情によっては権利濫用の法理(民法1条3項)により制限されることがあることに言及しています。そして、本判決の多数意見からは明らかではありませんが、Xの認知無効の主張が認められた背景には、Yにはフィリピン国籍の実父その他の親族がいることから、仮にXとの親子関係がなくなっても、重大な不利益は被らないという特殊な事情があったと考えられています。したがって、本判決の結論から、一般論として「親子関係は、血縁の有無が重視される」「血縁関係がなければ、認知者自身による認知無効の訴えができる」と評価するのは難しいでしょう。
なお近年の民法改正の議論を見ると、認知者による認知の無効の主張を制限する立法を行おうとする傾向があります。また、最新の判例でも、血縁の有無よりも法律上の子の利益・地位の安定を優先したと評価できるようなものがあります(最判平成26年7月17日)。このような事情に照らすと、血縁の有無が、親子関係の存否を決定づける要素にはならないのではないかと思われます。
以上