最判平成25年11月29日(共有物分割請求等事件)~共有物分割と遺産分割の関係
2015年08月26日
1. 事案の概要
本件は、XらとYらとの共有に属する土地(以下、「本件土地」という。)について、Xらが、Yらに対して、共有物分割を求めた事案です。
本件土地は、X1会社(72分の30の共有持分)、X1の元代表者であるX2(72分の39の共有持分)、X2の妻A(72分の3の共有持分)の共有となっていました。
30/72 | X1(会社) |
39/72 | X2(X1の元代表者) |
3/72 | A(X2の妻) |
また、本件土地上にはX1会社やX2名義の建物が建っていました。
平成18年9月、Aが死亡しました。その結果、本件土地についてAが有していた共有持分(以下、「本件持分」という。)は、Aの相続人に相続され、夫のX2及び子のX3、Y1、Y2の4名の遺産共有状態となりました。
30/72 | X1(会社) |
39/72 | X2(X1の元代表者) |
3/72 | A(X2の妻)が死亡。X2及び子のX3、Y1、Y2の4名の遺産共有状態 |
Xらは、Yらに対して、本件持分をX1会社に取得させ、X1会社がAの共同相続人らに対して賠償金を支払う方法(いわゆる全面的価格賠償)という内容の共有物分割を提案したのですが、Yらは拒絶しました。
そこでXらは共有物分割の訴えを提起しました。これに対して、Yらは、X2名義の共有持分の2分の1もAの相続財産に含まれると主張する他、本件土地の価格を争いました。
一審は、価格賠償によると賠償金が各相続人に確定的に支払われしまい遺産分割の対象とはならないとから、価格賠償による方法はとりえないとして、競売による分割を採用しました。
これに対し、原審は、一審を破棄し、賠償金は相続人の共有となることから、価格賠償による方法でも問題ないとして、全面的価格賠償の方法による分割を採用しました。
2. 判決要旨
最高裁は、以下のように判示して、Xらの主張を認めた原審の判断を維持しました。
- その1.
- 遺産共有持分と他の共有持分とが併存する場合において、その共有関係を解消する方法として「裁判上採るべき手続は民法258条に基づく共有物分割訴訟であり、共有物分割の判決によって遺産共有持分権者に分与された財産は遺産分割の対象となり、この財産の共有関係の解消については同法907条に基づく遺産分割によるべき」である。
- その2.
- 全面的価格賠償の方法による共有物分割の判決がなされた場合には、「遺産共有持分権者に支払われる賠償金は、遺産分割によりその帰属が確定されるべきもの」であり、遺産共有持分権者は、「遺産分割がされるまでの間これを保管する義務を負う」。
- その3.
- 裁判所は、全面的価格賠償の方法による共有物分割の判決をする場合には、「その判決において、各遺産共有持分権者において遺産分割がされるまで保管すべき賠償金の範囲を定めた上で、遺産共有持分を取得する者に対し、各遺産共有持分権者にその保管すべき範囲に応じた額の賠償金を支払うことを命ずることができる」。
3. 実務に与える影響
同じ「共有」であっても、民法上その共有関係の解消の方法は、相続を原因とする遺産共有の場合は遺産分割手続(民法907条2項)、他の共有の場合は共有物分割手続(民法258条)と、異なる手続によることが規定されています。本判決は、このように共有関係の解消手続が異なる遺産共有と他の共有とが併存する場合に、その共有関係の解消の在り方を示したものとして、実務上重大な意義があります。
なお本判決は、遺産共有状態のまま、遺産共有以外の共有関係を解消しようとする場合の手続について判示したものだ、という点に注意が必要です。言い換えれば、遺産共有と他の共有が併存する場合には、常に共有物分割手続を行わなければならない、というわけではありません。例えば、遺産分割によって遺産共有状態を解消した後に、共有物分割の手続を行う、という2段階の手続を行うことも可能です。
以上