最判平成25年6月6日(未収金請求事件)~一部請求における残部の時効中断

2015年08月26日

1. 事案の概要

本件は、亡Aの遺言執行者であるXが、Yに対し、亡Aが死亡時に有していた未収金債権(以下「本件債権」という。)の支払を求めた事案です。
平成12年6月24日、Yは、Xに対し、本件債権にかかる債務の存在を承認しました。本件債権は、商行為によって生じた債権ですので、上記承認により同日から5年の経過(平成17年6月24日)により消滅時効が完成することになります(商法522条)。
Xは、Yに対して、平成17年4月16日到達の内容証明郵便で本件債権の支払の催告をした上で、同年10月14日、Yを被告として、本件債権の一部(3億9761万円余りのうち、5293万円余り)の支払を求める訴えを提起しました(以下、「別訴」という。)。これに対し、Yは、本件債権の一部は、相殺によって消滅した、と主張しました。平成21年4月24日、裁判所は、Yの主張を認めた上で、本件債権の額は7528万円余りであると認定して、Xの請求を全部認容する旨の判決を言い渡しました。同判決は、同年9月18日に確定しました。
平成21年6月30日、Xは、Yを被告として、別訴で請求していなかった本件債権の残部の支払を求める訴えを提起しました(以下、「本件訴え」という。)。これに対し、Yは、本件訴えにかかる本件債権の残部については、平成17年4月16日到着の催告から6箇月以内に民法153条所定の措置を講じなかった以上、本件債権の残部については消滅時効が完成している、と主張しました。

2. 判決要旨

最高裁は、いわゆる明示的一部請求において時効中断の効力が生じるのは、請求がなされた一部の範囲に留まり、「残部について、裁判上の請求に準ずるものとして消滅時効の中断の効力を生ずるものではない」とする従来の最高裁の立場を踏襲しました。
その上で、本判決は、「残部につき権利行使の意思が継続的に表示されているとはいえない特段の事情のない限り」、先行する一部請求の訴えの提起は、「残部について、裁判上の催告として消滅時効の中断の効力を生ずる」と判示しました。その結果、債権者は、一部請求にかかる訴訟の終了後「6箇月以内に民法153条所定の措置を講ずることにより、残部について消滅時効を確定的に中断することができる」ことになります。
ただし、催告が繰り返されることでいつまでも時効が完成しないのでは、時効制度の趣旨に反するおそれがあります。そこで最高裁は、「消滅時効期間が経過した後、その経過前にした催告から6箇月以内に再び催告をしても、第1の催告から6箇月以内に民法153条所定の措置を講じなかった以上は、第1の催告から6箇月を経過することにより、消滅時効が完成する」として、催告の繰り返しによる時効中断効を制限しました。
そして、Xが第1の催告にあたる平成17年4月16日の催告から6ヶ月以内に、残部について民法153条所定の措置をとらなかった以上、本件債権の残部は消滅時効が完成しているとして、Xの本件訴えを棄却しました。

3. 実務に与える影響

本判決は、①明示的一部請求(本件における別訴)は、残部についての裁判上の「催告」(民法153条)として効力が認められること、②裁判上の催告か裁判外の催告かを問わず、催告の繰り返しによって時効の完成を阻止することは出来ないことを、最高裁として初めて判断した点に大きな意義があります。企業の取引実務では、債権の時効の管理として、債権の一部のみの請求を行ったり、裁判外の催告を行ったりすることは少なくないと思います。このような債権管理を行う場合には、本判決の判断に注意する必要があるでしょう。

以上

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