債権者代位について

第1 債権者代位権とは

債権者は、債務者が任意に債務を履行してくれないときは、裁判所を解して債務者の財産を換価して、そこから強制的に債権を回収することができます(「強制執行」。詳しくはコラム「強制執行の基礎」参照)。もっとも、時効によって債権が消滅してしまってはいけないので、債権をキチンと管理しておかなければなりません(詳しくはコラム「債権管理と消滅時効」参照)。では、自分の債権の消滅時効にだけ注意しておけばいいのかというと、実はそうでない場合があります。

具体例を挙げて説明しましょう。AはBに対して500万円の貸金債権を有し、BはCに対して500万円の売掛代金債権を有しています。そして、Bにはこの売掛代金債権以外にめぼしい財産はありません。このとき、Aはキチンと債権管理をしていましたが、Bは何もしていなかったとしたらどうなるでしょうか。支払期限から2年が経過すれば、BのCに対する売掛代金債権は時効によって消滅してしまいます(民法173条1号参照)。そうすると、Bの財産はゼロになりますから、いくらAがBに対する貸金債権にキチンと注意を払っていたとしても、Aは債権を回収することができなくなることになります。

上記のケースで分かる通り、債務者がキチンと債権管理を行っていないと、債務者の財産が減少し、その結果強制執行をしても債権者の債権回収ができなくなるおそれがあります。このような場合に備えて民法は、債権者が、債務者に代わって、債務者の保有する権利を代わりに行使できる制度を設けました。これを「債権者代位権」と言います。

以下、このコラムでは債権者代位権の要件と活用方法について説明します

第2 債権者代位権の要件

債権者代位権は、債権者が債権の回収を図る目的で行使されるものですから、大前提として、①保全されるべき債権(被保全債権)が存在していなければなりません。さらに、②この被保全権利は、履行期が到来していることが必要となります。次に、債務者の客観的状況として、③債権者の「債権を保全する」必要があることが認められなければなりません(保全の必要性)。また、上記の例のように、④代位する債権を債務者が行使していないことも必要です(債務者の権利不行使)。以下、各要件について詳しく説明します。

①被保全債権の存在

ここにいう被保全債権とは、金銭の支払いを目的とした債権(金銭債権)のことをいいます。「債権者代位権は、債務者の財産を維持するために、債権者が債務者に代わって取立てを行うもの。取り立てた財産については、強制執行をして債権の回収を図る。」と考えられていたからです。もっとも、詳しい説明は省略しますが、金銭債権以外の一定の債権についても被保全債権となり、債権者代位を認められることがあるというのが現在の判例実務です。このようなケースのことを特に「債権者代位権の転用」といいます。

②被保全債権の履行期の到来

法律上、債権者代位権は、被保全債権の履行期が到来していなければ、原則として行使することができないと規定されています(民法423条2項本文)。但し、これには2つの例外があります。

まず、裁判所の許可を得て行使する場合です(民法423条2項本文参照)。裁判所に申請をして、履行期の前に債権者代位権の行使を認めなければ、被保全債権の回収ができなくなる、または困難になるおそれがある場合には、裁判所の許可を得ることができます(非訟事件手続法85条参照)。

次に、債務者の財産の現状を維持する必要がある場合です(「保存行為」(民法423条2項但書))。例えば、債務者の有する債権について、時効を中断させる必要があるとき、債務者所有の不動産について登記手続が未了のときなどが挙げられます。

③保全の必要性

保全の必要性とは、債務者の資力が十分でないために、債権者が債権の回収を完全に行うことができない状況にあることをいいます。裏返せば、強制執行によって、すべての債権を回収することができるのであれば、保全の必要性はないことになります

④債務者の権利不行使

債務者が権利を行使していないといっても、債権者が代位して行使できる権利には法律上の制限があります。すなわち、「債務者の一身に専属する権利」(一身専属権)については、債権者代位権を行使することはできません(民法423条1項但書)。一身専属権とは、その権利を行使するかどうか債務者自身の意思に任せるべきものだと説明されています。例えば、家族法(民法第4編[親族編]、第5編[相続編]の総称)で認められる多くの権利や、名誉毀損等の人格権侵害による慰謝料請求権(民法710条参照)は一身専属権と解されています。

このような代位行使不可能な権利でなければ、どのような権利であっても代位行使可能です。金銭や物に関する債権はもちろん、解除権(民法540条)、取消権(民法120条1項2項)、相殺権(民法505条1項)などの権利(「形成権」とよばれている権利)も代位行使できます。

第3 債権者代位権の活用方法

1 債権者代位権を行使する段階

債務者の信用情報を取得して(詳しくはコラム「取引先の信用情報の取得」参照)、債務者に行使可能な権利がないかを確認しましょう。行使可能な権利がある場合には、まずは口頭でも書面でも構いませんので、債務者の自発的な行使を促しましょう。法律上、債務者への連絡は不要ですが、自発的に行使してもらえるのであればそれに超したことはないからです。

債務者が自発的に権利を行使しない場合や、債務者の対応を待つ時間的余裕がない場合には、債権者代位権を行使するのか、要件を備えているのかを確認しましょう。特に、債権者の財産状況を維持するために行使が必要な形成権がある場合には、債権者は債権者代位権でしか実現することができないので、積極的に利用するようにしましょう。

2 債権者代位権を行使した後の処理

債権者代位権が行使して取り立てたものは、債務者に帰属するものとされています。例えば、「土地を明け渡せ」という債権について債権者代位権を行使した場合には、土地の明渡しを受けるのは、原則として債務者でなければなりません。仮に、債権者が受領した場合には、債権者は債務者に受領したものを引き渡す義務を負います。

但し、代わりに取り立てたものが金銭である場合に限って、その金銭は債権者に帰属してもいい、という運用がなされています。債権者が受領した金銭を債務者に給付する義務を負わせたとしても、自己の債権と相殺(民法505条1項)してしまえば結果は変わらないからです。したがって、債務者の有する債権が金銭債権である場合には、債権者代位権を行使する債権者にとって大変有利な制度になります。

実務上、債権者代位権の行使が認めて、取り立てることができる債務者の債権の範囲は、債権者の被保全債権の額に限定されるという運用がなされています。例えば、被保全債権が300万円で、債権者代位する債務者の債権額が500万円だった場合、債権者が支払を受けることができるのは300万円までになります。これに対し、債権者代位する債務者の債権が壺(500万円相当)の引渡請求権だった場合、「この壺のうち、300万円分を取り立てる」ということはできません。このように、被担保債権の額を上限として取り立てることができない債権の場合には、例外的に、その全部(ここでいう壺の引渡請求権)を行使することができると解されています。

以上

まずは弁護士事務所へお気軽にご相談ください!

  • さいたま大宮 048-662-8066 対応時間.9:00~21:00
  • 上野御徒町 03-5826-8911 対応時間.9:00~21:00

法律相談は、すべて当事務所にお越しいただいた上で実施いたします。
電話での法律相談やメールでの法律相談はいたしかねますので、あらかじめご了承ください。
また、初回の法律相談のお申し込みは、すべて、お電話またはご相談申込フォームからお願いいたします。

ページ先頭へ