取引先の倒産に備えるための平時の対応

第1 はじめに

取引先が倒産してしまうと、通常の場合、取引先に有する債権のすべてを回収するのは非常に困難になります。したがって、会社としては、取引先の倒産による未回収金の発生を防ぐため、取引先が倒産する前に様々な備えをしておかなければなりません。

そこで、今回のコラムでは、取引先が突然倒産しても困らないように、会社が前もってしておくべき対応について説明したいと思います。

第2 平時の備え

取引先が倒産に至っても債権の回収をできるだけ多く図るために、事前に次のような対応をとっておくとよいでしょう。

1 相殺権の確保

相殺という方法自体は多くの方がご存知だと思います。相殺は、債権の回収方法としては一番有効であるといっても過言ではなく、非常に安心・確実に債権回収を図ることができる方法です。相殺は、担保権の実行のように一定の手続をする必要はありません。単純に「相殺します」と意思表示さえすればよいため、簡単に債権回収を図ることができるのが特徴です。

この相殺権確保のために、取引先に対して債務を負担しておくことが考えられます。つまり、こちら側だけ取引先に売掛金が立っているというのではなく、取引先の方から別の物を買うというような形で取引先に対する債務を持っておくことが、売掛金の相殺権確保のためにとり得る手段です。

それに加えて、取引先と基本取引契約を結び、期限の利益喪失約款を入れることによって倒産になったときに相殺適状の状態を早急に作り出せるようにしておくと、さらに相殺権の確保としては有効でしょう。

2 相殺予約の合意

しかし、相殺にも弱点があります。それは、相殺をする方が持っている債権が、弁済期になくてはならないという点です。

このような相殺の弱点を克服するために考えられる手段は、相殺予約の合意をするというものです。相殺予約とは、契約書に、たとえば、「甲は、甲が乙に債権を有する場合は、乙に対する債権の弁済期の到来の有無を問わず、いつでも、当該債権と乙が甲に対して有する債権とを対当額にて相殺することができる。」 などの条項を盛り込むことを指します。

これにより、甲としては、甲の有する債権の弁済期が到来前でも、自ら負担する債務との相殺をすることができます。 相殺予約条項を入れれば、この相殺予約の手段を講じておけば、取引先に対する売掛金はあるけれど、その支払期限が来ていない時でも相殺をすることができまるのです。

3 担保による回収

どうしても取引先に対する債務が発生しないため相殺による回収ができないなど、相殺権の確保が難しい場合には、担保による回収がスムーズに行えるような対策をとります。

取引開始時に前もって担保をとっていることも多いと思いますが、取引が続いていくに伴って売掛金がどんどん膨らんでいくような場合は、それに見合った担保の追加提供を求めることも必要になってきます。最初に担保をとったから安心するのではなく、現状に合わせて変更していくことが大事であると認識しておいてください。

次に、担保の追加提供を求めた場合には、速やかに対抗要件を具備するようにしましょう。なぜなら、支払停止や破産手続の申立後にした対抗要件具備は認められないことがあるからです(これを破産法上、「否認権の行使」といいます。)。また、実際に取引先が危機的状況に陥る直前になりますと、こちらから「対抗要件を具備させてください。」とお願いしても取引先がなかなか協力してくれないという事態が生じ得ます。ですから、平時で取引先が順調なうちに対抗要件を具備しておくようにすると安心です。

対抗要件の具備が認められないと、担保をとったことの意味がなくなってしまいますので注意してください。

4 動産売買先取特権による回収

法律で定められた担保物権として、動産売買先取特権というものがあります。簡単にいうと、動産を売った場合、その動産の代金について他の債権者に優先して債権回収ができる権利です(民法321条)。この動産売買先取特権の行使のために必要な書類を準備しておくことが必要です。具体的には、取引基本契約書や継続的売買契約書などの契約書、発注書、受注書、納品書など取引を証明できる書面を保管しておきましょう。最低でもどの商品をどれくらい売ったのかがわかるような管理が必要です。

また、少し難しいかもしれませんが、取引先に売った動産について在庫はどのくらいあるのか、転売先はあるのかなどの情報も確認できるとよいです。

第3 おわりに

取引先が倒産したときに円滑な債権回収をするために、平時の備えとしては以上のようなものが考えられます。このような平時の備えは、差し迫った緊急性がないためにあまり重要に感じられない方も多いかもしれません。また、1度や2度債権回収ができなくてもそれは仕方のないことだと思っている方もいらっしゃるかもしれません。しかしながら、わずかな債権でもそれが重なっていけば、確実に企業体力を奪っていきます。

また、世間の景気がよいときはいいかもしれませんが、不況になればどの企業も苦しくなって支払いが滞りがちになってきます。その結果、平時の備えをしっかりしていないと、こちらがあっさり倒産してしまうという最悪の事態にもなりかねません。ですので、平時の対応は極めて重要であることを最後に強調しておきます。

以上

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