【不動産トラブル】保証人に対する賃料請求

2015年11月06日

1. 事案の概要

相談者は、ある物件の賃貸人です。
賃借人は、賃貸物件で歯科医院を経営していましたが、たびたび家賃を滞納するようになりました。そこで、賃貸人は、賃貸借契約を解除して、物件の明渡しを受けましたが、物件内には診察台やレントゲン機器など大量の残置物があります。
しかし、家賃を滞納した賃借人は資力がありません。
そこで、保証人に対し、賃料と原状回復工事にかかった費用を請求したいと考えています。

2. 解決方法

賃借人は、以前、4か月分の家賃を滞納したことがありました。そのとき、賃貸人は保証人に対し家賃を支払うよう求め、保証人は全額支払いました。賃借人は、その後の数か月間、家賃を支払いましたが、再び滞納を繰り返すようになったので、賃貸人が当事務所に相談にいらっしゃいました。
まず、賃借人と保証人に対し、それまでの滞納家賃11か月分、管理費、光熱費の合計約280万円を支払うよう催告しましたが、賃借人・保証人いずれも支払わなかったため、賃貸借契約を解除しました。
解除の約2か月後、賃借人は物件から退去しましたが、物件内には医療器具や備品などが残されたままでした。そこで、賃貸人が費用を負担して、原状回復工事を行い、保証人に対し工事代金を請求したところ、保証人はこれを支払いました。
その後、賃借人が破産したため、保証人に対し、物件を明け渡すまでの滞納家賃12か月分、管理費、光熱費、賃借人の退去から原状回復工事が完了するまでの約2か月分の家賃相当額の合計額約390万円の支払を求める訴訟を提起しました。
裁判において、保証人は、賃貸人が、賃借人の再度の滞納から約11か月もの間、保証人に連絡することなく滞納状態を放置したとして、保証債務として上記金額を請求することは、権利の濫用であると主張しました。そこで、賃借人が契約の継続を強く希望したこと、滞納家賃の支払方法等について賃借人と交渉を重ねていたこと、弁護士に相談して契約を解除し、賃借人に対し物件を明け渡すよう求めていたこと等から、賃貸人は漫然と放置していたわけではないと反論しました。
結局、保証人が賃貸人に対し240万円を支払うとの和解が成立し、裁判は終了しました。賃貸人は賃借人から保証金として144万円の預託を受けていたため、実質的には、ほぼ請求金額通りの支払を受けることができました。

3. 解決までに要した期間と費用

相談を受け、賃貸借契約を解除し、原状回復工事が完了するまで約5か月、保証人に対する訴訟提起から和解成立まで約5か月、全部で約1年で解決しました。
解決に要した費用は、弁護士費用として着手金31万円、報酬金28万8千円(経済的利益の12%)、実費の合計約63万円(※収入印紙が2万5千+郵券6千)です。

4. 本件のポイント

1. 原状回復工事代金について
本件賃貸借契約書には、賃借人には原状回復義務がある旨の条項があり、賃借人には、物件を明け渡す際、自ら費用を負担して原状回復工事をする義務がありました。ところが、賃借人は原状に回復しないまま退去したため、賃貸人が工事を行いました。保証債務には賃借人が負担すべき債務の一切が含まれるので、賃貸人は、工事に要した費用についても保証債務として保証人に請求し得るのです。
2. 権利濫用の主張について
本件同様、保証人に対して滞納家賃及び解除後の家賃相当損害金の支払を求めた事案において、滞納家賃が2年と1か月に及んでおり、賃貸人は、賃借人には資力も収入もないことを容易に認識し得たから、保証債務の額が拡大する事態が生ずることを防止するため、速やかに訴訟を提起すべき信義則上の義務があったとして、保証人に対する請求は、信義則に反し、権利濫用として許されないとした裁判例があります(東京高判平成25年4月24日)。
これを踏まえると、本件においても、賃借人と交渉を重ねる一方で、保証人に対して滞納の事実を報告し、保証債務の支払について催告しておくこと、また、賃借人に支払能力がないものと判断した時点で、速やかに保証人に対し提訴することに留意すべきであったといえます。

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