販売方法等の規制-特定商取引に関する法律

第1 はじめに

時代の変遷に伴う消費者のニーズに応えるため、様々な取引類型が登場し、社会の中で活用されてきました。その一方で、事業者が自己の利益を図るために、新たな取引方法を悪用した結果、消費者が多大な被害を受け、次第に社会問題化するようになりました。小学校、中学校または高校の授業で、「悪徳商法」という名称で“このような業者には気をつけましょう”といって紹介された取引がその典型例です。このように、事業者の悪用により消費者に多大な被害をもたらす危険性のある取引類型を規制するためにつくられたのが「特定商取引に関する法律」です(以下、「特商法」という)。

現在特商法では、消費者保護の観点から、特に危険性が高いと考えられる7つの取引行為を列挙しています。そして、悪用がなされないよう事業者の事業活動に一定の規制を課すとともに、消費者の救済方法を定めています。このコラムでは、規制されている7つの取引行為を紹介して、具体的な規制態様について説明します。

なお、特商法のほかにも、消費者を保護する法律として「消費者契約法」があります。詳しくは、コラム「契約の締結に関する規制-消費者契約法」を参照してください。

第2 規制の対象となる取引類型

特商法では、特に規制すべき取引類型(「特定商取引」といいます。)として、①訪問販売、②通信販売、③電話勧誘販売に係る取引、④連鎖販売取引、⑤特定継続的役務提供に係る取引、⑥業務提供誘引販売取引、⑦訪問購入の7つを挙げています(特商法1条参照)。以下、各取引類型について簡単に紹介します。

1 訪問販売

特商法における「訪問販売」とは、次の2つの行為のことを指します。

1つは、事業者の営業所やこれに類する場所以外の場所で行う取引行為のことをいいます(特商法2条1項1号)。典型的なケースは、消費者の自宅に訪問して商品を販売する行為です。

もう1つは、営業所等以外の場所で消費者を勧誘して、営業所等に連れて行って行う取引行為のことをいいます(特商法2条1項1号)。いわゆる「キャッチセールス」(街頭で声をかける方法)や「アポイントメントセールス」(電話や手紙などで勧誘する方法)が典型例です。

2 通信販売

「通信販売」とは、事業者が新聞や雑誌、テレビ、インターネットなどで広告を行い、それを見た消費者が郵便や電話、ファクシミリ、インターネットなどを使って注文をする取引行為のことをいいます(特商法2条2項)。

3 電話勧誘販売にかかる取引

「電話勧誘販売」とは、事業者が消費者に電話をかけて、または消費者に電話をかけさせて、その電話口で勧誘し、消費者に注文させる行為のことをいいます(特商法2条3項)。消費者が、事業者と電話をした段階では、商品やサービスの営業であることを認識していない点が「通信販売」とは異なります。

4 連鎖販売取引

「連鎖販売取引」とは、商品の販売やサービスの提供を行う取引行為のうち、消費者に販売員にならないかと勧誘して、さらに次の販売員を勧誘させるというかたちで、販売組織を連鎖的に拡大して行う取引行為のことをいいます(特商法33条1項)。一般的に、「マルチ商法」と呼ばれる取引のことです。

5 特定継続的役務提供にかかる取引

「特定継続的役務提供」とは、事業者が、長期かつ継続的なサービスの提供をし、これに対して消費者が対価を支払う一定の取引行為のことをいいます(特商法41条)。具体的には、以下の表に該当するサービスのことです。

「特定継続的役務」 期間 金額
エステティックサロン 1か月を超えるもの 5万円を超えるもの
語学教室 2か月を超えるもの
家庭教師
学習塾
パソコン教室
結婚相手紹介サービス

6 業務提供誘引販売取引

「業務提供誘引販売取引」とは、仕事(商品の販売やサービスの提供)により収入が得られると勧誘し、消費者にその仕事に必要な商品の購入等の金銭負担を負わせる取引行為のことをいいます(特商法51条)。一般的に、「内職商法」「モニター商法」と呼ばれているものです。例えば、販売したパソコンを使用して行うホームページ作成の仕事を行わせる取引、販売した健康寝具を使用してその感想を提供する取引などがこれにあたります。

7 訪問購入

「訪問販売」とは、物品の購入を業として営む事業者が、消費者の自宅など営業所以外の場所で、物品の購入を行う取引行為のことをいいます(特商法58条の4)。いわゆる「押し買い」が典型例です。

第3 具体的な規制態様

1 消費者トラブル防止のための規制

ご承知のとおり、上記7つの「特定商取引」に該当するからといって、直ちに社会にとって有害なものだというわけではありません。他方で、消費者が被害を受ける原因は、事業者との情報量の質・量および交渉力の格差にあると言われています。そこで特商法は、「特定商取引」を行う事業者に対して、一定の規制をかけています。規制の態様は、各取引類型によって異なるのですが、中核となるのは以下の2点です。これらの特商法の規制に違反すると、業務改善の指示や業務停止命令の行政処分を受けたり、罰則の対象になったりします。

規制その1 勧誘・広告方法の制限

消費者が、商品やサービスの内容について誤認したり、困惑した状態で購入したりするような勧誘行為および広告活動を禁止しています。虚偽の説明や誇大広告などがその典型例です。

規制その2 十分な情報提供

消費者が契約内容についてキチンと検討できるように、契約について重要な事項を説明したり、契約内容を記載した書面を交付したりすることが義務づけられています。

2 消費者トラブル発生後の消費者の救済方法

特商法では、消費者の救済を容易にするために、あるいいは消費者に不当な損害を被らせないために、以下のような制度を設けています。

①クーリング・オフ制度

クーリング・オフ制度とは、消費者が考え直した結果「やっぱり契約するのを止めたい」と思ったときに備えて、一定期間の間、消費者が一方的に、かつ無条件で契約を解除できる制度のことをいいます。契約が解除された場合、事業者は、消費者が支払った金銭を全額返金しなければなりません。

②意思表示の取消し

事業者が、虚偽の説明し、または重要な事項をわざと説明しなかったために、消費者が事実誤認をして契約を締結した場合には、消費者は、その意思表示を取り消すことができます。①クーリング・オフと異なり、消費者側の一方的な都合で契約関係を解消する者ではない点に注意が必要です。

③損害賠償等の額の制限

消費者側から契約を解消した場合などに、事業者が消費者に対して請求できる損害賠償額に上限を設定しています。

④適格消費者団体による差止め請求

個々の消費者の救済ではなく、将来の消費者トラブルを防止するために、認可を受けた消費者団体は、事業者に対して、違法な取引行為の差止め請求を請求することができます。

第4 事業者が注意すべきこと

上記のとおり、「特定商取引」の類型ごとに規制内容が若干異なります。したがって、まずは、事業者は自己の行う取引が特商法の規制対象なのかを確認しましょう。その上で具体的な規制内容に応じて対策をすることが必要となります。

以下、代表的な注意点を紹介します。「うちは大丈夫かな?」と不安に思われた方は、お近くの経済産業局(http://www.no-trouble.go.jp/advice/P0402001.html)または弁護士に相談するといいでしょう。

①クーリング・オフ制度の存在を意識しよう!

クーリング・オフ制度は、消費者の気分次第で契約をなかったことにできるという点で、事業者としてはたいへん恐ろしい制度です。事業者としては、できる限りクーリング・オフがなされるリスクを減らす必要があります。

消費者がクーリング・オフできるのは、特商法で義務づけられた契約内容を明らかにする書面(以下、「法定書面」という)を消費者が受領した日から一定の期間のみです。他方で、法定書面が交付されない、または書面の交付がなされていても重大な不備があり、法定書面の交付がなされたとはいえない場合には、消費者はいつでもクーリング・オフすることができることになります。クーリング・オフの期間が早期に終了すれば、その分事業者は消費者にクーリング・オフされるリスクを減らすことができます。したがって、事業者としては、あらかじめ消費者に交付する予定の書面に不備がないかを確認をし、契約締結日から間がない日に、消費者が法定書面を受領できるように心がけましょう。

また、そもそも論ですが、「消費者が満足することができて、クーリング・オフをする気にならないような商品またはサービスを提供する」努力も重要となります。

②勧誘や広告の仕方に注意しよう!

事業者としては、いわゆるセールストークとして、多少誇張をして商品やサービスの説明をすることもあるでしょう。また、熱の入った勧誘をしてしまうこともあると思います。しかし、法律で定められた事項を正しく説明をし、消費者が納得して契約を締結するようでなければ、「説明された内容と違う!」「そんな説明はなかった!」として後日トラブルになることがあります。

このようなトラブルを避けるために、勧誘・広告の方法について特商法上の規制を遵守したマニュアルを作成し、従業員に対する周知・指導をキチンと行いましょう。また、従業員がマニュアルを遵守しているかのチェックも重要です。さらに、後日トラブルになった際に証拠として利用できるように、契約に至る経緯を記録化しておくといいでしょう。

以上

まずは弁護士事務所へお気軽にご相談ください!

  • さいたま大宮 048-662-8066 対応時間.9:00~21:00
  • 上野御徒町 03-5826-8911 対応時間.9:00~21:00

法律相談は、すべて当事務所にお越しいただいた上で実施いたします。
電話での法律相談やメールでの法律相談はいたしかねますので、あらかじめご了承ください。
また、初回の法律相談のお申し込みは、すべて、お電話またはご相談申込フォームからお願いいたします。

ページ先頭へ