請負と使用者責任
第1 はじめに
今回のコラムのテーマは、下請法の適用があるか否かに関係なく、「下請事業者の業務上のミスについて、親事業者は責任をとらなければならないのか?」という点です。
この点を明らかにするために、まずは民法の規定から確認してみましょう。民法716条本文は、次のように規定しています。
「(注文者の責任)
第七百十六条 注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない。」
この規定を、下請契約の場面に当てはめて考えると、親事業者(「注文者」)は、下請事業者(「請負人」)の業務上のミスについては原則として責任を負わないことになります。
このような結論になるのは、次のような理由があるからです。請負契約というのは、通常、注文を受けた請負人(下請契約においては下請事業者)の裁量によって業務が遂行され、注文者(下請契約では親事業者)はそこに関与しない、と考えられています。自ら関与する余地がないのに、何かあったときに責任を負わせるのは酷です。したがって、民法716条のような規定が置かれました。
この民法716条の背景を踏まえると、「親事業者が、下請事業者の業務遂行に関与したら、責任を負う場合があるのではないか?」と考えることもできるでしょう。実務上も、一定の場合には、親事業者が責任を負う場合があると考えています。以下、詳しく説明します。
第2 親事業者が責任を負う場合
1 注文または指図に過失があった場合
1つめの例外は、親事業者が下請事業者に対して行った「注文又は指図について」「過失があった」場合です。例えば、親事業者が製造方法についてあれこれと指示をして、その指示どおりに下請事業者が製造を行ったところ事故が起きた、といったケースです。
2 使用者責任(715条)の適用がある場合
使用者責任とは、従業員が業務上のミスをして第三者に損害を与えた場合、使用者がその責任を負う、というものです。当然のことながら、親事業者と下請事業者は、使用者と従業員の関係に立つわけではありませんから、通常は下請契約において使用者責任が認められることはありません。
もっとも、判例は、第三者に損害を与えた下請事業者の従業員の業務が、親事業者の指揮監督下でなされていた場合には、使用者と従業員の関係と「同視できる」として、例外的に親事業者の使用者責任を認めています(最判昭和37年12月14日参照。なお同判決は責任を否定。)。
- ※注釈:親事業者の使用者責任が認められたケース
- 親事業者は、自己が請け負った工事を下請事業者に下請け。その際、親事業者は、工事現場に自社従業員を派遣し、下請事業者が工事を設計どおり施行するよう指図・監督を行った。当該工事の途中で事故が発生。
(最判昭和41年10月11日、最判昭和45年2月12日を参照)
3 親事業者が注意すべきこと
親事業者としては、下請事業者がきちんと仕事をしてくれないと困ります。したがって、親事業者が一定程度下請事業者の業務に関与することはやむを得ないとも言えるでしょう。
そうすると親事業者としては、下請事業者が事故を発生させないようにすることくらいしかできません。具体的には、①安全に十分気を配って仕事をしてくれる下請事業者を選ぶ、②下請事業者の業務遂行過程に危険がないか逐一チェックをする、という点に注意するといいでしょう。
以上