株主総会の招集手続①

第1 はじめに

同族会社など中小企業の株主は、みな顔なじみで、会社と良好な関係にあることが多いです。そのため株主総会で何か問題になるケースは少なく、株主総会の手続自体軽視されることもあります。実際に、株主全員の同意のもと、株主総会が開催されない企業も存在します。

しかし、株主総会の手続を軽視していると、後に大きな問題に発生するおそれがあります。たとえば、現経営陣に対して敵対的な株主に株式が渡ったケース、株主である創業者一族に内紛が生じたケースなどを想像してみてください。このようなケースの場合、現経営陣に停滞する株主は、株主総会を妨害して、自分に都合の悪い株主総会の決定がでないように画策します。そして、株主総会の手続に少しでも不備があれば、その不備を理由として、株主総会決議の取消しなどの手段にでるおそれがあります。

このような事態を避ける1つの方法として、適正な株主総会の手続を把握しておく必要があります。そこでコラム「株主総会の手続の概要」の内容をさらに掘り下げて説明します。具体的には、「株主総会の招集手続」と「株主総会当日の議事運営」の大きく2つに分けてお話しします。

なお株主総会決議取消しの訴え、株主総会決議無効確認の訴え及び不存在確認の訴えの詳細については、コラム「会社法トラブルその5~株主総会決議取消しの訴え他」を参照してください。

第2 株主総会の招集手続の大まかな流れ

まずは株主総会当日までに大まか流れを確認しましょう。具体的には、以下のような手続を行うことになります。

【株主総会の招集手続の流れ】

① 株主総会で議決権を行使する株主を確定する(「基準日」の設定)

② 株主総会の日時・場所、議題を決定する

③ 株主に対して株主総会の開催を案内する

(株主による事前の議決権の行使)

④ 株主総会当日

第3 株主総会で議決権を行使する株主を確定する(基準日の設定)

1 「基準日」とは

株主は、株式が譲渡されることによって、常に変わる可能性があります。株主に対して招集手続を行うにあたっては、その前提として、誰を株主として扱うのかを確定する必要があります。そこで会社法は、一定の日を定めて、その日に株主名簿に記載・記録されている者を、株主総会で議決権を行使できる株主として取り扱うことができることにしました(会社法124条1項)。この「一定の日」のことを、「基準日」といいます。

会社が基準日を定めるにあたっては、基準日となる日と行使できる権利の内容(基準日から3ヶ月以内に行使するものに限ります)について、あらかじめ定款に定めておくか基準日の2週間前までに公告する必要があります(会社法124条2項3項)。

中小企業の場合、定款に、「毎事業年度末日の株主」を基準日とする旨の定めがある場合がほとんどでしょう。その場合、事業年度が4月1日から3月31日であれば、基準日は3月31日となり、基準日から3か月以内の6月に、定時株主総会を開催する例が多数です。

2 注意点

ここで注意すべきなのは、3月末日の基準日から6月開催の定時株主総会当日までの間に、株主間で株式が譲渡された場合です。経営陣などが多数派工作のために株式を譲り受け、3分の2を超える議決権を把握する、といったことは少なくありません。しかし、このような多数派工作が功を奏するのは、基準日までの譲渡だけです。基準日後に譲渡された株式については、基準日に株主であった株式の譲渡人が議決権を行使できることになります。株式の譲渡という形式で多数派工作を行う場合には、この基準日に注意をしてください。

第4 株主総会の日時・場所、議題を決定する

1 いつ開催しなければならないか

株主総会には、①定時株主総会と、②臨時株主総会、があります。

定時株主総会は、毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならない、と会社法に定められています(会社法296条1項)。各企業が毎年5~6月頃に集中して行っている株主総会の多くが、この定時株主総会です。

これに対して、臨時株主総会は、その必要がある場合にいつでも開催することができるものです(会社法296条2項参照)。

2 誰が開催を決めるのか

原則として、株主総会の開催を決めるのは、取締役です。取締役会設置会社では、取締役会の決議により決定します。このとき、取締役(取締役会)は、株主総会の日時・場所、議題等を決定することが求められています(会社法298条1項)。なお、取締役会における決議内容は、取締役会議事録に記載しなければなりません。取締役会議事録の記載例は、書式「定時株主総会議事録」を参照してください。

このように株主総会というのは、取締役(取締役会)主導で開催されることが多いのですが、例外的に株主主導で株主総会が開催される場合があります。具体的には、一定の条件を満たす株主による株主総会の招集請求という制度です。以下、詳しく説明します。

3 株主による株主総会の招集請求

(1) 招集請求できる株主

株主なら誰でも招集請求できるとなると、最悪の場合「一年を通して株主からの招集請求が相次ぎ、その対応に追われる」という事態になるおそれがあります。これでは会社の本業である事業活動が滞る危険性があります。そこで会社法では、株主のうち、特に利害関係の強い株主に限定して招集請求できることにしました。具体的には、以下の2つの条件を満たす株主のことです(会社法297条1項2項3項)。

  1. ① 総株主の議決権(行使可能なものに限る)の100分の3以上の議決権を保有していること
  1. ② ①の議決権を6ヶ月以上引き続き保有していること(非公開会社の場合は、請求日に保有していれば足りる)
  1. ※①の議決権数、②の保有期間は、定款でこれを下回る条件に変更可能

(2) 招集請求手続の流れ

① 取締役に対して株主総会の招集を請求する

上記条件を満たす者で株主総会の開催を望む株主は、まず取締役に対して、株主総会の招集を請求します(会社法297条1項)。その際、株主総会の目的事項と招集の理由を示さなければなりません。

② 会社側が株主総会を開催するか否かの判断をする

株主から①の請求を受けた場合、取締役は以下の点を確認した上で、株主総会を開催する会中の判断を行います。

  • 招集請求の株主の条件を満たしているか
  • 株主総会の目的である事項や招集の理由が適法なものか

なお一般的に、以上の点に問題がない場合には、会社側は株主の請求に応じて、株主総会を開催した方がいいといわれています。開催しないとの判断をすると、株主が後述する裁判所の許可を得て自ら開催する可能性があり、そうなると招集手続から当日の議事運営まですべて株主主導で進められることになってしまうからです。仮に株主総会の目的事項が受け入れらないとしても、現経営陣に賛同する者で株主総会の多数派を構成し、株主の提案する議案を否決すれば済みます。したがって、株主総会を開催すること自体に不都合がある場合(場所を確保できないなど)を除いて、潔く株主の請求に応じて会社主導の株主総会を開催することをお勧めします。

(3) 裁判所の許可を得て、株主自ら株主総会を開催する

会社が株主による招集請求に応じない場合、株主は、裁判所に対し、株主総会招集の許可を求める申立てをします。この申立てにあたっては、申立ての原因・理由を記載した書面を提出する方法により行われます。具体的には、株主総会の目的事項、招集請求の条件を満たす株主であること、なぜ株主総会を招集するのかの理由、取締役に対して招集請求したが株主招集手続がなされていないことなどを記載します。

申立てを受けた裁判所は、会社に反論の機会を与えるために、会社の代表者等を呼び出し、審問を行います。審問は必要的ではありませんが(会社法870条参照)、会社の協力を得て許可後の招集手続を円滑に進めるためにも、審問をすることが多いようです。

申立て後に会社が株主総会を招集した場合、会社が招集した株主総会の日が、招集請求から8週間以内であれば、裁判所は許可申立てを却下することになります。したがって、申立て後であっても、会社主導で株主総会を招集すべき場面は少なくないといえます。

株主の申立てに理由がある場合には、裁判所は、株主に対して、株主総会を招集することを許可する旨の決定を行います。申立てから決定までに、一般的には、約1か月程度を要します。また、許可決定には6週間程度の招集期限が定められることが通常でしょう。

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