裁判所を利用した請求

第1 裁判所の利用方法

「取引先が話し合いにも応じてくれない」「話し合いをしたけど、まとまりそうにない」という場合には、裁判所を利用して強制的に債権を回収するしかありません。この強制的に債権の回収を図る手続のことを「強制執行」といいます。詳しい手続についてはコラム「強制執行の基礎」を参照してください。

強制執行を行うためには、「債務名義」を取得していなければなりません。「債務名義」とは、「債権者の債務者に対する○○請求権が存在する」ことを公的に証明するもので民事執行法22条に列挙された文書のことをいいます。「訴える」という言葉から連想される裁判手続は、一般的には「通常訴訟」と呼ばれるもので、債務名義取得方法の代表例です(民事執行法22条1号参照)。もっとも、わが国では、「通常訴訟」よりも簡易な方法として、「民事調停」や「支払督促」、「少額訴訟」といった手続が用意されています。

なお、債務名義を取得して強制執行の手続を開始するまでには、ある程度時間がかかります。その間に、債務者が財産を第三者に譲り渡したり、隠してしまったりして、強制執行することができないという自体に陥ることがあります。債務者の財産に強制執行をするためには、このような債務者の動きを止める必要があります。

このコラムでは、債務名義になる代表的な手続と債務者による「強制執行逃れ」を防止するための手続について、簡単に説明します。

第2 保全 ~債務者による「強制執行逃れ」を防止する手段~

債務者による「強制執行逃れ」を防止するために、債務者による財産の処分を一時的に制限もしくは不可能にする手続が用意されています。これを「民事保全手続」といいます。 民事保全手続には、主に「仮差押え」と「仮処分」があります。

「仮差押え」とは、債務者に対する債権が金銭債権の場合に、債務者の特定の財産について、現状のまま維持させるために用いられる民事保全手続のことをいいます(民事保全法20条1項)。例えば、「500万円の貸金債権の回収を図るために、債務者の所有する不動産に強制執行を行いたい」という場面で利用されます。

他方で、「仮処分」とは、ざっくりと言ってしまえば「仮差押え以外の場合および方法による民事保全手続」のことをいいます。仮処分には、「係争物に関する仮処分」と「仮の地位を定める仮処分」があります。「係争物に関する仮処分」とは、金銭債権以外の債権の場合に、当該債権の目的となる物について、現状のまま維持させるために用いられる民事保全手続のことをいいます。例えば、「賃借人に建物の明渡しを求めたいが、勝手に第三者を住まわせるなどして占有を移すことを防ぎたい」という場面で利用されます。これに対して、「仮の地位を定める訴え」とは、当事者の法律上の地位について、暫定的に認める民事保全手続のことをいいます。例えば、「解雇の無効を争っているときに、暫定的に従業員たる地位を認めさせて給料の支払いを求めたい」という場面で利用されます。

以上の民事保全手続に関する詳しい内容は、コラム「民事保全の基礎」「民事保全の手続①-保全命令手続」「民事保全の手続②-保全執行手続」を参照してください。

第3 債務名義を取得する ~権利関係を確定し強制執行を可能にする手段~

1 通常訴訟

通常訴訟とは、私人間の具体的な権利義務ないし法律関係に紛争が生じた場合に、裁判所が両当事者の主張を十分に聞いた上で、法律の規定に基づき強制的に紛争の解決を図る手続のことをいいます。通常訴訟は、裁判所がなした判断(「判決」)が「確定」することで(民事訴訟法116条1項)、債務名義となり、強制執行をすることができます(民事執行法22条1号)。

通常訴訟は、後述する手続とは異なり、どんな紛争でも対応できる点に大きなメリットがあります。他方、訴訟は専門的な法律知識が必要で、かつ手間もかかるので、弁護士に依頼しなければ難しいというデメリットもあります。また、当事者は裁判所の一方的な判断に拘束されるので、訴訟で負けてしまえば、真実債権者であっても債権を回収することができなくなるおそれもあります。

なお、通常訴訟の途中で、裁判所を介して当事者が歩み寄ることで、和解が成立することがあります(民事訴訟法89条、264条、265条5項参照)。この和解は、和解調書に記載されることで確定判決と同一の効力を有し(民事訴訟法267条)、権利関係が確定したり、強制執行が可能となります。

2 民事調停

民事調停とは、裁判所という中立的な第三者が、いわば“仲介役”となって当事者間の話し合いをまとめて、解決に導く手続のことをいいます。

民事調停は、当事者間で合意が成立し、調停調書に記載されることで確定判決と同一の効力を有し(民事調停法16条)、債務名義になります(民事執行法22条7号)。

民事調停は、通常訴訟のように裁判所の判断に拘束させるのではなく、お互いに譲歩することで解決を図るものです(民事調停法1条参照)。したがって、当事者間の争いが比較的小さい場合には、当事者の納得できる結論に至る可能性が高いでしょう。また、費用の面でも、通常訴訟より低額で済むメリットもあります。一方で、原則として当事者の合意が成立しなければならないので、当事者間の対立が激しい場合には、あまり適していません。

3 支払督促

支払督促とは、金銭等の支払いを目的とする債権について、裁判所を介して一方的に請求書を送りつける手続のことをいいます(民事訴訟法382条)。他の手続とは異なり、裁判所は、債権者の言い分だけを聞いて、支払督促を債務者に送達する点に特徴があります(民事訴訟法386条1項)。
支払督促は、「仮執行宣言」(民事訴訟法391条1項)を付すことによって、債務名義となり、強制執行をすることができます(民事執行法22条4号)。支払督促に「仮執行宣言」を付すためには、①債務者が、支払督促の送達の日から2週間以内に不服(督促異議の申立て(民事訴訟法386条2項))を申し立てないこと、②支払督促の送達の日から2週間が経過した日から30日以内に、債権者が仮執行宣言を付すよう申し立てること(民事訴訟法392条)が必要です。

① 支払督促のメリット

支払督促は、督促異議の申立てがなされることなく、仮執行宣言を付すことができれば、債権者にとって大変有利な手続です。
通常訴訟で確定判決を得るよりも迅速に債務名義を取得することができ、訴訟費用も半分で済みます。

また、通常訴訟の確定判決と同一の効力があるので(民事訴訟法396条)、申立てによる時効の中断効だけでなく(民事訴訟法384条、民法147条1号)、時効期間が10年に延長する効果もあります(民法174条の2第1項)。

② 支払督促のデメリット

しかし、督促異議の申立てがなされると、督促異議が却下されない限り(民事訴訟法394条1項)、通常訴訟に移行します(民事訴訟法395条)。そうなると、債務者の住所を管轄する裁判所に赴いてその後の訴訟手続を進行しなければならないので、債権者と債務者の普通裁判籍が離れている場合には移動の労力がかかります。

また、金銭の支払いを目的とする債権しか利用できない、慰謝料などの請求はできなかったり、債務者が所在不明の場合には利用できなかったり(民事訴訟法392条但書)と、支払督促が利用できる範囲はそう多くはありません。

4 少額訴訟

少額訴訟とは、60万円以下の金銭の支払いを目的とした債権について、家庭裁判所に申し立てることで簡易かつ迅速に、裁判所の判断を求めることができる手続のことをいいます(民訴368条1項)。簡単にいえば、「通常訴訟の簡略版」のようなものです。

「簡略版」といっても少額訴訟は訴訟手続の一種なので、通常訴訟と同様に、判決が確定すれば、債務名義になります(民事執行法22条1号)。

① 少額訴訟のメリット

少額訴訟の最大のメリットは、原則として1回の口頭弁論期日だけで審理が完了し(民事訴訟370条1項)、直ちに判決の言渡しがなされる点です(民事訴訟法374条1項)。つまり、債権者は、たった1日で白黒はっきりさせることができることになります。

また、なお債務名義に基づいて強制執行する場合、「少額訴訟債権執行」という制度を利用することができます。通常の強制執行手続は、法律の定めに基づき専属の地方裁判所に申し立てることになるのですが、少額訴訟によって取得した債務名義については、少額訴訟の判決を出した簡易裁判所に申し立てることができます(民事執行法167条の2第3項参照)。

② 少額訴訟のデメリット

1日で終了するため、各当事者は、たった1日の口頭弁論期日で全ての主張・立証をしなければならない、というデメリットがあります。

また、きちんとした審理がなされないまま証拠や主張が足りない判断されることで、原告が敗訴してしまうリスクはあります。

5 その他

債務名義については、コラム「債務名義と執行文の付与」でも触れていますので、そちらも参照してみてください。

以上

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