不動産執行

第1 はじめに

コラム「強制執行の基礎」では強制執行制度の概要を説明し、コラム「債務名義と執行文の付与」コラム「強制執行手続の開始」では強制執行手続の“さわり”について説明しました。このコラムでは、強制執行の類型のうち金銭執行の流れについて、金銭執行のうち不動産執行の流れについて説明します。

第2 金銭執行の流れ

金銭執行、すなわち金銭の支払を実現するための強制執行は、何を対象に執行を行うかでいくつかの種類に分けられます。民事執行法は、①不動産執行、②船舶執行、③動産執行、④債権執行等、の4つについて規定していますが、まずはこれら金銭執行全体について共通する手続の流れについて説明します。

まず、債権者は債務者の所持する金銭から債権回収ができればそれで十分であり、わざわざ強制執行をする必要はありません。しかし、支払が滞っているような債務者は十分な金銭を所持していないことがほとんどでしょう。そこで、債務者に支払をするだけの十分な金銭が見当たらないときは、①債務者の財産を差し押さえて、②強制的に金銭に換え、③債権者の債権の弁済に充てる、という流れを経て債権を回収することになります。このように、金銭執行は①差押え、②換価、③満足、と呼ばれる3段階を経て行われます。

①差押えは、財産を換価するまでに時間がかかることが通常であるため、その間に財産の価値が減少しないように行うものです。

②換価は、差し押さえた財産を金銭に換える段階で、一般的には競売で行われることが多いです。

③満足は、換価によって得られた金銭を債権者ごとに分配する段階です。

第3 不動産執行

1 強制競売

強制競売とは、不動産執行の一種であり、不動産を競売にかけて、得られた売却代金を基に債権者の満足を図る制度です。以下、①差押え、②換価、③満足の順に沿って詳しく説明します。

(1) 差押えの段階

① 手続の流れ

まず債権者は債務名義・執行文の付与を受け、これを執行裁判所に提出して、執行の申立てをします。執行裁判所は、申立要件が具備されていれば強制執行開始決定をして、これを債務者に送達し、目的不動産について差押登記の嘱託を登記所に行います。

申立債権者以外にも債権者がいる場合には、それらの者に対して債権を届け出るよう促します。

② 注意点

  1. ア 強制執行の申立ては、必ず書面でする必要があります(民事執行規則1条)。申立てに際しては、予納金を納める必要があります(民事執行法14条)。予納金の額は地裁ごとに異なりますが、参考までに東京地裁の金額を掲げておきます。尚、予納金とは別に、差押登記の登録免許税も必要です。
    請求金額が 2000万円未満 60万円
  2000万円以上5000万円未満 100万円
  5000万円以上1億円未満 150万円
  1億円以上 200万円
  1. イ 強制執行開始決定がされると、目的不動産が差押えされます。差押えされても、「債務者が通常の用法に従って不動産を使用し、又は収益すること」は妨げられません(民事執行法46条2項)。ですので、たとえば、目的不動産を賃貸したり、既に賃貸している目的不動産について賃借権の譲渡を承諾したりすることは、「通常の用法に従った使用収益」とされ、債務者は差押えを受けた後も行うことができます。
    では、差押後に目的不動産を売却した場合はどうなるでしょうか。これについて、少し難しい話になってしまいますが、債務者と第三者との目的不動産売買契約は当然に無効ということにはなりません。ではどうなるかというと、債務者・第三者は、売却を差押債権者には対抗できないけれど、債務者・第三者間では有効という扱いがされています。その結果、もし強制競売手続が取り消しされれば、その売買契約は完全に有効ということになって、第三者が完全に所有権を取得するということになります。一方で、競売手続が進んで目的不動産が競落された場合には、競落者が引渡命令(民事執行法83条1項)によって占有を取得することになり、差押え後に債務者から目的不動産を買い受けた第三者は、所有権を失います。

(2) 換価の段階

① 手続の流れ

裁判所の命令を受けた執行官が物件の形状・占有状況・権利関係などの現況を調査し、評価人が物件価格について評価をして、現況調査報告書と評価書を裁判所に提出します。そして、裁判所書記官が当該物件の権利関係などを記載した物件明細書を作成し、執行裁判所が当該不動産の売却基準額を決定します。

売却基準価額から2割を控除した買受可能価額を上回る価格で、かつ、最高価をつけた者に裁判所が売却を許可します。買受人は定められた期限までに代金を納付すると不動産の所有権を取得でき、職権で所有権移転登記がなされます。

② 注意点

不動産が差し押さえられたことがわかると、債務者が自暴自棄になって不動産の価格を減少させるような行為をすることがあります。また、適正な価格での売却を防止する目的で、さまざまな妨害行為がなされることもあります。それらを防止するために、換価するまでの間、執行官にその不動産を保管させたりできる保全処分という制度があります(民事執行法55条)。必要に応じてこのような制度を活用することも考えます。

上記の通り、換価のための準備作業として現況調査報告書、評価書、物件明細書が作成されます。実務では、現況調査報告書、評価書、物件明細書の3つを合わせて「3点セット」と呼んでいます。最近では、インターネットで「不動産競売物件情報サイト」があり、裁判所ごとに競売不動産について3点セット等の情報を確認することも可能です。

換価の手続の実際の流れは、ⅰ)売却の実施方法が決定される、ⅱ)売却が実施される、ⅲ)最高価買取申出人に売却許可決定がされる、ⅳ)代金が納付される、というものになります。

(3) 満足の段階

① 手続の流れ

裁判所が納付された代金を各債権者にどう配当するかを決定し、配当表を作成して、配当を実施します。配当した後、余りが出れば債務者に交付されます。

② 注意点

債権者が1人である場合や、債権者が2人以上であっても売却代金で各債権者の債権および執行費用の全部を弁済できる場合には、特に問題は生じません。執行裁判所が債権者に弁済金を交付し、剰余金は債務者に交付するだけです(民事執行法84条2項)。

一方で、各債権者の債権及び執行費用の全部を弁済できない場合には、執行裁判所は、配当表に基づいて配当をしなければなりません(民事執行法84条1項)。配当表について異議がある場合には、配当異議の申出(民事執行法89条)や配当異議の訴え(民事執行法90条1項)という手段を用いて異議を主張していくことになります。

2 強制管理

強制管理と強制競売の違いは、目的不動産を売却せず、不動産から得られる「収益」を債権者の満足に充てる点にあります。収益とはたとえば、不動産を賃貸して受け取る賃料などがあります。

強制管理についても、強制競売と同じように、開始決定がなされて差押えが宣言されるという流れになります。強制競売との違いは、強制管理の場合は、開始決定と同時に管理人が選任され(民事執行法94条1項)、管理人が換価、配当を行うことです。

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