債権執行①

第1 はじめに

本コラムとコラム「債権執行②」では、金銭執行のうち、債権執行について説明していきます。

債権執行とは、債務者が第三者に対して有する債権を差し押さえて、当該第三者から直接取り立てることで債権回収を図る強制執行のことをいいます。

債権執行は、現代社会で重要な機能を有しています。債権は目に見えませんが、高額の債権は多数存在しますし、第三者の協力が得られれば迅速に債権回収を図ることも可能です。実務上も広く利用され、裁判所の受付件数でいうと、債権執行は不動産執行の2倍近くになります。もっとも、債権者・債務者以外に第三者が必ず登場する点で、不動産執行や動産執行よりも複雑であるといえます。

このコラムでは、債権執行の手続きのうち、差押え手続きを中心に説明します。差押えを行った後の換価・満足に関する手続きは、コラム「債権執行②」を参照してください。

※注釈:債権以外の財産権への強制執行
民事執行法は、「その他の財産権」についても、原則として債権執行の手続に沿って強制執行を行うことができる旨規定しています(民事執行法167条1項)。「その他の財産権」とは、「不動産、船舶、動産及び債権以外の財産権」のことをいい、特許権や著作権などの知的財産権が代表例です。

第2 用語の説明

債権執行とは、簡単にいうと、債権を差し押さえて、第三者から直接取り立てることです。

債権執行

上記の通り、債権執行は債権者・債務者以外の第三者が登場することから、手続きも若干複雑になります。そこでまずは用語の確認をしましょう。
たとえば、AはBに対して売掛代金債権αを、BはCに対して売掛代金債権βを持っているとしましょう。Aは、Bが売掛代金を支払ってくれないため、BのCに対する売掛代金債権βに強制執行をかけて、債権回収を図ろうと考えました。

このような状況において、債権者Aからみて、債務者Bに対して債務を負っているCのような者のことを、「第三債務者」といいます。また一般的に、AのBに対する債権のことを「執行債権」「請求債権」といい、BのCに対する債権のことを「被差押債権」といいます。

書籍によっては、登場人物や債権の呼び方が異なることがあります。上記の構造を理解して、どの登場人物、債権のことを指しているのか間違えないように注意しましょう。なお本コラムでは、上記用語を使用して説明します。

第3 債権執行の流れの概要

債権執行は、債務名義・執行文の付与を受けた債権者が執行裁判所に差押えの申立てをすることによって手続が始まります。執行裁判所は、差押命令を発令し、これを債務者と第三債務者に対して送達します。さらに、第三債務者には、差押えの対象となった債権の存否などを尋ねる陳述催告というものも送ります。

第三債務者の陳述で、債権が確実に存在するということになれば、債権者は第三債務者から直接債権を取り立てることができます。ただし、1つの債権に対して複数の債権者による差押えが競合した場合には、第三債務者はその債権について供託しなければならず、供託金を裁判所が債権者たちに分配することになります。

第4 差押えの段階

以下、差押えの段階で注意しておくべきポイントについて説明します。

1 差押えの効力

差押えの効力は、第三債務者に差押命令が送達されたときに発生します(民事執行法145条4項)。差押えの効力は被差押債権全部に及びます(民事執行法146条1項)。たとえば、執行債権が150万円、被差押債権が200万円の場合、被差押債権が執行債権の額を上回りますが、差押えの効力は200万円全額に及ぶということです。

差押えの効力が発生することによって、債務者は被差押債権処分することが禁止され、第三債務者は債務者に対して弁済することが禁止されます。したがって、仮に差押えの効力発生後に第三債務者が債務者に対して任意に弁済をしたとしても、債権者は第三債務者に対して弁済を求めることができ、第三債務者はこれに応じなければなりません。

2 第三債務者の陳述の催告

債権執行の申立てがされると、裁判所が差押命令を発することになりますが、差押命令の前に裁判所が債務者や第三債務者から事情を聞くことはありません。なぜなら、それをすると、債務者や第三債務者に「差押えがありそうだ」と知らせることになり、債務者が被差押債権を処分するなどすることによって、債権執行が空振りに終わってしまうおそれがあるからです。

したがって、裁判所は、債権者の提出する資料だけで差押えの要否の存否の判断を行い、差押命令を発することになります。とはいえ、債権者は債務者の債権について詳しく知らないのが通常ですので、裁判所としては被差押債権について正確な情報を知る必要があります。そこで、裁判所は、第三債務者に差押えの対象となった被差押債権の存否などを尋ねる陳述催告というものを送ります(民事執行法147条1項)。差押後であれば、処分禁止の効力が発生しているので、第三債務者に知らせることによる上記のような空振りに終わる危険性がないからです。

第三債務者は、故意又は過失で陳述をしなかったり、不実の陳述をしたりしたときは、損害賠償責任を負うこともあります。(民事執行法147条2項)。

3 継続的給付に係る債権の差押え

給料債権のように、毎月継続的に発生する債権があります。本来であれば、毎月継続的に発生する債権は、発生する都度差押えの手続をとる必要があるはずです。もっとも、それはとても煩雑なので、継続的給付に係る債権に対する差押えの効力は、執行債権の額と執行費用の額を限度として、差押え後の給付にも及びます(民事執行法151条)。

4 差押禁止債権

コラム「船舶執行・動産執行」で触れましたが、動産執行には差押禁止動産があります。それと同様に、債権執行でも差押禁止債権の制度があります(民事執行法152条)。差押禁止債権の内容を簡単に説明すると、給料、退職金等の債権はその4分の3が差押禁止となります。ただし、その4分の3が33万円を超えるときは33万円までが差押禁止となります。最低限の債権を確保しておかないと、生活に支障を来してしまうという趣旨です。

5 第三債務者の供託

債権執行のような強制執行が必要となる場面というのは、そもそも債権者と債務者の問題です。第三債務者は、債務者に対する債務があるといえど、「債権者と債務者の紛争に関わりたくない。債権者と債務者の紛争は、債権者と債務者だけで決着をつけてほしい」と主張したいこともあるかもしれません。そのような場合に、第三者債務者は被差押債権を供託することによって、債権者・債務者間の紛争に巻き込まれるのを防ぐことができます(民事執行法156条)。

以上

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