会社法トラブルその3 新株発行無効の訴え他

第1 新株発行無効の訴え

1 いつ、誰が訴えを提起することができるのか

コラム「新株発行をめぐる“不具合”」でお話しした通り、新株の発行手続きで発生した“不具合”を解消するために、新株の発行自体をなかったことにする手続のことを、「新株発行無効の訴え」と言います(会社法828条1項2号参照)。

新株発行無効の訴えは、新株の発行手続上の“不具合”を発見しうる者、具体的には株主、取締役、監査役、執行役及び清算人が、訴えを提起することができます(会社法828条2項2号)。ただし、株式というのは、市場で取引することを予定していますので、後になって無効になったのでは株式を譲り受けた者としては困ります。そこで「新株が発行された」という事実を早期に確定するために、株式発行の効力が発生した日から6ヶ月(非公開会社の場合は1年)を過ぎると、新株発行の訴えは提起できないことになっています(会社法828条1項2号)。

2 どのような事由があれば無効となるのか

会社法上、どのような事由があれば新株の発行が無効になるのかを定めた規定はありません。実務では、新株が発行されると株式の取引が行われたり、調達された資金を元手に株式会社が事業を開始したりするので、なるべく無効事由を認めない傾向にあるようです。そして、新株の発行によって形成されたものをふいにしてもなお、新株の発行をなかったことにした方がいいと言えるような“不具合”がある場合に限り、新株発行手続の無効自由になると考えられています。裁判所の判決では、「重大な法令又は定款違反」という文言を用いて、新株発行の差止請求が認められる事由よりも範囲が狭いことを表現しています(新株発行の差止請求については、コラム「会社法トラブルその2 新株発行の差止め」参照)。

3 新株の発行が無効となる判決がなされたら、どうなるか

冒頭で、新株発行無効の訴えというのは、新株の発行をなかったことにするものだと説明しました。もっとも、厳密には判決の以後、将来に向かってのみ無効として扱われるだけで(会社法839条)、新株発行の当初に遡る効果はありません。なぜならば、仮に遡って無効になるとすると、判決までの間になされた剰余金の配当や株主総会の決議までもが無効となり、法律関係が複雑になってしまうからです。

判決の効力は、訴訟の当事者間にのみ及ぶのが原則ですが(民事訴訟法115条1項1号)、新株発行無効の訴えが認容された場合には第三者にも判決の効力が及びます(会社法838条)。これを「対世効」と呼びます。問題となった手続によって発行された株式の全てをなかったことにするのが新株発行無効の訴えの趣旨なので、世の中全ての人に効力が及ぶとした方が、都合が良いからです。

新株発行無効の訴えが認容されると、株主が保有する株式は価値のないものになってしまいます。無効となった株式の株主に対するケアが何もないと困りますので、会社法は、株式会社に対して、出資してもらった金銭等の相当額を株主に支払う義務を課しました(会社法841条1項前段)。株券を発行している場合には、株式会社は、金銭等の支払いと引換えに、株券の返還を求めることができます(会社法841条1項後段)。

第2 新株発行不存在確認の訴え

1 「新株の不存在」の意味

会社法には、新株発行無効の訴えの他に、「新株発行不存在確認の訴え」という手続も定められています(会社法841条1項前段)。ここにいう「不存在」というのは、新株の発行という手続の実体がないことを意味します。したがって、本来あるものをなかったことにする新株発行無効の訴えとは異なり、発行当初から存在しなかったことが確定することに手続の意義があります。

2 いつ、誰が訴えを提起できるか

会社法の規定をみますと、「いつ」「誰が」ということに関することは定められていません。したがって、訴えの時期の制限はなく、判決を得る利益があれば誰でも訴えを提起できると解されています。もっとも、訴える利益がある者というのは、基本的には新株発行無効の訴えの原告と変わらないと、実務上は考えられています。

3 どのような事由があれば不存在となるか

株式が発行されたという外観が存在するだけで、実体を伴わないような場合、または“不具合”の大きさから実体があると評価できない場合に、新株発行不存在確認の訴えが認められます。例えば、新株発行に必要な手続が一切なされていない場合、権限のない者が新株発行の手続を進めた場合、出資がなされていないのに株式が発行されている場合などが挙げられます。

第3 その他の措置

新株発行の“不具合”が、株式会社が十分な出資を受けられなかったことを内容とする場合には、わざわざ新株の発行をなかったことにしなくても、足りない分を填補すればいいのではないか、と考えることができます。そこで会社法は、一定の場合には、不足額分を支払わせることで、“不具合”を是正する仕組みを用意しました。

まず新株の発行を受けた株主が、①取締役と通じて「著しく不公正」な金額を出資した場合、又は②現物出資した物の価額が募集事項決定の際に予定された価額よりも著しく低い場合には、当該株主は株式会社に対して不足額を支払わなければなりません(会社法212条1項)。

上記株主の義務に対応して、新株発行に関与した取締役も責任を負います。まず①「著しく不公正」な金額での新株発行を行った取締役は、株式会社に対して、不足額を損害として賠償しなければなりません(会社法423条1項)。次に②現物出資の価額不足の場合は、これに関与した取締役は、不足金額を支払う義務を負います(会社法213条1項)。

上記株主又は取締役に対して、不足額の支払いを請求できるのは、株式会社(厳密には、株式会社を代表する取締役又は監査役)です。しかし、「身内だから…」といった理由で、実際には請求がなされない場合があります。これを放置すると、株式会社に十分な財産を蓄えることができず、株式会社の所有者たる株主は損をする可能性がでてきます。そこで会社法は、株式会社が請求しない場合には、代わりに株主(原則として6ヶ月前から株式を保有する株主のみ)が、「株式会社にお金を支払え」と請求できることにしました(847条1項参照)。

以上

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