会社法トラブルその6 取締役会決議無効の訴え他
第1 はじめに
コラム「会社の機関」で、取締役会を設置した場合には、原則として経営の専門家集団である取締役会が株主総会に代わって、株式業者の事業活動に関する意思決定をすると説明しました。この意思決定の内容や過程に“不具合”があった場合に、これを是正・救済する手続は会社法上用意されていません。しかし、株主総会と同様に株式会社の重要な意思決定を行う機関ですから、株主総会決議の効力を争う手続(詳しくはコラム「会社法トラブルその5 株主総会決議取消しの訴え他」参照)と同じような是正・救済手続がないと不都合です。そこで、取締役会の決議は、株式会社の意思決定として法律上効力が認められない事情があることを訴訟で争える方法が提唱され、実務上もこれが認められています。これを「取締役会決議無効確認の訴え」と呼びます。
なお学説上、取締役会の決議の効力が認められない場合のうち、取締役会の決議があったと評価できないようなときは、特別に「取締役会不存在確認の訴え」という概念が認められています。しかし、下記の通り、判断内容に大きな違いがないので、実務上は「取締役会無効確認の訴え」とは特別区別することなく扱われています。以下、「取締役会無効確認の訴え」を前提に説明をします。
第2 いつ、誰が訴えを提起することができるのか
上記の通り、明文の根拠はありません。したがって、訴えの時期の制限はなく、取締役会決議が無効という判決を得る利益・資格があれば、誰でも訴えを提起できるとされています。もっとも実務上は、訴える利益・資格がある者というのは、基本的には株主や取締役などに限られると考えられています。
第3 どのような事由があれば認容判決をえることができるか
取締役会の決議が無効と評価される場合は、株主総会決議の取消し事由及び無効・不存在事由が認められる場合と概ね一緒です。すなわち、①取締役会の決議が存在しない場合、②取締役会の招集手続に法令・定款違反がある場合、③取締役会の決議の方法に法令・定款違反がある場合、④取締役会の決議の内容に法令・定款違反がある場合の4つに分類されると考えられています。以下、詳しく説明します。
①取締役会の決議が存在しない場合
議事録上は決議が存在したかのような虚偽の記載がある場合など、物理的に取締役会自体が行われなかったような場合のことを言います。また、株主総会決議の不存在の場合と同様に、手続上の“不具合”が重大で法的に取締役会決議の存在を認めることができない場合(法的不存在)も含まれると解されています。
②取締役会の招集手続に法令・定款違反がある場合
例えば、「招集権限のない取締役が、取締役会と称して勝手に取締役会を招集した(会社法344条1項但書参照)」「取締役に対する招集通知に漏れがあった(会社法368条1項参照)」などが挙げられます。なお会社法上、監査役に通知を行わなければならないので(会社法383条1項、368条1項括弧書き参照)、監査役への招集通知に漏れがあった場合にも、無効事由が認められることがある点に注意が必要です。
③取締役会の決議の方法に法令・定款違反がある場合
「定款の記載なく、持ち回り決議を行った(会社法370条参照)」「定足数等が不足しているのに決議がなされた(会社法369条1項2項)」などが挙げられます。
④取締役会の決議の内容に法令・定款違反等がある場合
会社法や定款等で、取締役会で決議できる事項が制限されている場合があります。これに違反した場合には、無効事由になるものと考えられています。例えば、株主総会の専権事項とされている事項(会社法295条2項、詳しくはコラム「会社の機関」)や株主総会決議で決まった事項に違反した場合が挙げられます。取締役会が決議できる事項でも、その具体的な内容が公序良俗(民法90条)や株主平等原則(会社法109条1項)その他の法令等に反する場合も無効となります。
なお、株主総会決議取消しの訴えの場面と同様に、形式的には取締役会の招集手続や決議方法に法令・定款違反が認められても(上記②③)、その違反の程度が軽微な場合には、取締役会は無効にはならないと解されています(会社法831条2項)。例えば、一部の取締役に対しての招集通知が漏れていたとしても、決議結果に影響が無い場合には取締役会決議は無効とはなりません。
第4 認容判決がなされたら、どうなるか
認容判決の効力について、直接定めた規定はなく、実務でも直接問題となった裁判例はありません。もっとも、他の“不具合”の是正手続との均衡から、取締役会決議無効確認の訴えが認容された場合には、世の中全ての人に効力が及ぶと解されています(会社法838条準用)。
以上