会社法トラブルその12 組織再編無効の訴え

第1 はじめに

コラム「組織再編の手続」で、会社というロボットの改良等を行う場合には、以下のような手続を行うと説明しました。

①改良後のロボットの設計図をつくる(=「契約」の締結・「計画」の作成)

②ロボットの改良等の告知(=事前開示及び株主・債権者への通知・公告等)

③出資者の承認を受ける(=株主総会の特別決議)

④不服のある出資者への対応(=救済手続)

⑤ロボットとして活動を始める(=「効力発生日」とその後の手続)

組織再編というのは、いわば完成品として世の中で活動するロボットに手を加えて、性能などを変える行為ですから、手を加える過程で“不具合”が生じ、結果的に“欠陥ロボット”がうまれる可能性があります。会社法で定められた上記手続は、手を加えたことにより“欠陥ロボット”になる会社がうまれないようにするために定められました。しかし、組織再編の手続が定められていたとしても、見落としてしまう可能性は当然ありますし、場合によっては意図的に手続を怠ることもあるでしょう。これでは組織再編の手続を定めた意義が失われてしまいます。そこで会社法では、一定の場合には、事後的に組織再編が無かったことにすることができる手続を用意しました。これを講学上「組織再編無効の訴え」(会社法828条1項7~12号参照)と言います。

第2 いつ、誰が訴えを提起することができるのか

組織再編の手続には、少なくとも2つ以上の会社が登場するため、組織再編によって影響を受ける者も他の訴えに比べると多くなります。具体的には、以下の者が組織再編無効の訴えを提起できると規定されています(会社法828条2項7~12号)。

①組織再編の効力発生日に株主、取締役、監査役、執行役、清算人であった者

②組織再編の効力発生後に存続する会社の株主、取締役、監査役、執行役、清算人

③破産管財人

④組織再編について承認をしなかった債権者(「反対債権者」)

いつまでも組織再編がなかったことにできるとなると、会社という世の中での立場が安定せず、思うように活動することができません。したがって、組織再編無効の訴えは、組織再編の効力発生日から6ヶ月間に限り、訴えを提起できることにしました(会社法828条1項7~12号)。

第3 どのような事由があれば無効となるのか

会社法は、どのような事由があれば組織再編が無効になるのかを定めた規定はありません。一般的には、会社の組織再編という一度形成されたものをふいにしてもなお、組織再編をなかったことにした方がいいと言えるような重大な“不具合”がある場合に、無効になると考えられています。重大な“不具合”とは、大まかに言えば、冒頭に記載した法定手続の不実施ないし欠缺と評価できる事情のことを言います。例えば、「契約」や「計画」に必要な記載がないケース、株主総会の承認がない(または取消し・無効となった)ケース、株主や債権者の救済手続を実施していないケース、組織再編について開示すべき事項に虚偽の記載をしたケース、などが挙げられます。

第4 組織再編が無効となる判決がなされたら、どうなるのか

判決の効力は、訴訟の当事者間にのみ及ぶのが原則ですが(民事訴訟法115条1項1号)、組織再編無効の訴えが認容された場合には第三者にも判決の効力が及びます(会社法838条)。これを「対世効」と呼びます。組織再編無効の訴えは、株式会社というロボットの改良等が行われたことを無かったことにするものですから、世の中全ての人に効力が及んだ方が、都合が良いからです。

組織再編無効の訴えは、組織再編自体をなかったことにするものだ、と説明してきました。しかし、厳密には組織再編無効の訴えを認容する判決の以後、将来に向かってのみ無効として扱われ(会社法839条)、組織再編が行われた当初に遡る効果(遡求効)はありません。なぜならば、組織再編が行われて以降、認容判決が出るまでの間、会社は第三者と取引をしているのが通常ですから、遡求効を認めると法律関係が複雑になってしまうからです。

組織再編をなかったことになる(=無効)になるということは、組織再編の効力が生じる前の状態に戻るということを意味します。そうすると、会社は元の状態に戻し、組織再編によって移転した財貨も元の会社に戻す必要があるでしょう。そこで、組織再編の種類に応じて以下のような「後始末」がなされます。

①合併について

まず合併によって他の会社の“パーツ”になった会社(消滅会社)は元の独立した会社として復活します。新設合併によって設立された会社(新設会社)は解散します。

次に合併の対価として交付された金銭・株式等の移転は無かったことになります。合併の効果として承継された権利義務は、現存する限りで合併前に帰属していた会社に復帰します。

合併の効力が発生してから判決がなされるまでに形成された財産や借金についても清算しなければなりません。会社法では、財産については合併契約を締結した当事会社間の共有となり(会社法843条2項)、借金については当事会社間の連帯債務になると規定しています(会社法843条1項1号2号)。

②会社分割について

まず新設分割によって、設立された会社(新設会社)は解散します。

次に会社分割の対価として交付された金銭・株式等の移転は無かったことになります。会社分割の効果として承継された権利義務は、現存する限りで会社分割前に帰属していた会社(分割会社)に復帰します。

会社分割の効力が発生してから判決がなされるまでに形成された財産や借金についての清算は、合併の場合と同様です(会社法843条1項3号4号、2項)。すなわち、吸収分割の場合には分割会社及び承継会社の共有ないし連帯債務となり、新設会社の場合には分割会社の所有ないし負担となります。

③株式交換・株式移転について

まず株式移転によって、設立された会社(完全親会社にあたる会社)は解散し、清算手続きが行われます(会社法475条3号)。

株式交換・株式移転は、ある会社(完全親会社)が、他の会社(完全子会社)の株式を全て取得するものですから、完全子会社の株式を返還する手続が必要となります。この点、会社法では、株式交換・株式移転の対価として完全親会社の株式が交付された場合には、判決時に交付された完全親会社の株式を保有する株主に対して、完全子会社の株式を交付(返還)するものと規定しています(会社法844条)。他方で、①株式交換・株式移転の対価として完全親会社の株式が交付されていない場合や②交付する完全子会社の株式が完全親会社の手元にない場合については規定がありません。もっとも、組織再編によって移転したものを元に戻さなければならないことには変わりがありません。したがって、①対価としての完全親会社の株式の交付がなされていない場合には、株式交換・株式移転の当時の株主に対して完全子会社の株式を交付(返還)する、②完全子会社の株式がない場合には、金銭でもって解決するのが望ましいでしょう。

以上

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